夢現

やまとピース

ツキ

I spread my wings apart and become oddly broad;

now your little house is flooded with my coat.

And still, you are so all alone as never before, me you hardly see;

because I am just breath in woods, but you are tree.

こうして羽を広げるとイヤに大きくて

きみの部屋は私で溢れてしまう。

でもきみはいつになく独りぼっちで、私の事など見えてはいない。

なぜなら私は森の呼吸の様なもので、きみは木なのだから。

R.M. Rike


「あのぅ、すみません。」

何をするでもなく、ぼんやり座っている所に声を掛けられて顔を上げると、前髪の長いやけに色白なが立っていた。

「あの、突然こんな事を言うと、変に思うとは思うんですけど…。

えーっと…、あまり気を落とさないでください。」

「はい?」

その娘は1歩、2歩と近づいてきて、周りの目を気にするように、ただでさえ小さな声を落として続けた。

「あの…、何て言っていいか…。…とにかく、今は色々あるとは思うんですよ。思うんですけど、大丈夫です。…ついてますから。」

「え?ごめん。ちょっと訳分かんないんだけど。」

新手の詐欺かなとも思ったけど、如何にも不器用なドギマギしたその態度に、無下に追い払うのが少し可哀そうになった。


オレも随分周りからは邪険に扱われてきたけど、この娘みたいに吹けば飛ぶような成りじゃない。自分の節だった手を見て、見かけだけでももう少しヤワにできてれば、同情引けて人生ももう少し楽だったかもな、と思った。


「ですよね。本当、何かすみません。…ただ、どうしても伝えたくって。…あのぅ、自棄やけだけは起こさないでくださいね。もう少しで、その…、ツキが…。っそう、ツキが回ってきますから。」

そう言うと、胸の前に握られたグーに力を入れた。その声と動きに見かけとはちぐはぐな力を感じた。懸命さに潤んだ眼差しで真っすぐ見られて、ちょっと固まった。


「おい、いつまで油売ってんだ。休憩時間終わってんぞ!」

「あっ、はい!…じゃ、呼ばれてるから。何か知んないけど、君も頑張って。」

その娘はグーを握ったまま頷くと、お辞儀して、足早に立ち去った。


ふと、見上げると満月にはまだ少し足りない月が木立の向こうに明るく見えた。ツキね…。生まれてこの方、縁がなかったなぁ、そんなモン。


少女が去った方に目をやると、月明かりのせいか、足跡がぼんやり浮かび上がっている様に見えた。

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