第13話 魅力的に見えないの?

 俺は部屋の端にある椅子に腰掛け、なんとか冷静を保っている。


 それもこれも全部芽愛ちゃんのせいだ。

 相合い傘をして先導された場所がラブホって……。


 前も思ったけど不器用だな。本当に。けどそこが可愛いところでもある。


「よーしよしよしよし」


 そんな芽愛ちゃんはスケスケなお風呂から上がってきたみたいだ。

 

 お風呂に入る前は「ちょっと体冷えたから温まってこ、こよっかな、なぁ〜……?」などと、あからさまな嘘をついてたけど。

 今は開き直ってるように見える。


「ん〜っと。あっ。なんでそんな端っこの椅子座ってるのさ。あっちにおっきいベットあるのに」


 色々見えそうなほどゆるいバスローブ姿の芽愛ちゃんは対面の椅子に座ってきた。

 

 ニヤニヤしてきてるのがまた悪い。


「落ち着いた様子で端っこの椅子に座ってる理由ってもしかして、こういうところに慣れてるからとか……」


「ないないない。慣れてないって」

 

「ほんとー?」


 わざわざ前屈みになる必要あるか……?


 俺は自制心を保つため、芽愛ちゃんの目だけを見る。


「最後にこういうところに来たのは芽愛ちゃんとだよ」


「そ、そっか。ならいいんだけど」


 照れたように目を逸らして頬を赤くしてたが。

 

 「はっ」と何かに気づいたようにピタリと体が止まり。次の瞬間。芽愛ちゃんは頬をぷくぅと膨らせ、俺に目を向けてきた。


「私って魅力的に見えないの?」


「見える」

 

 本能には逆らえず。くいかかるように即答した。


 が、芽愛ちゃんはご立腹らしく。


「見えてるのになんでもっと見てくれないの。一応、お風呂上がりで男性の気を引くことができる最高のチャンスのはずなんだけど……。あっ今のは忘れて」


「最高のチャンスなんだ」


「忘れてって言ってるじゃんもぉ〜」

 

 ちょっと機嫌が戻ってきた。


「とにかくもっと見て。私のこと」

 

「っ」


 甘えるような瞳で見つめられている。 

 芽愛ちゃんは一言も喋らない。

 数秒間目が合うとニコッと太陽のような笑顔を向けてくる。

  

 こんなことされると、もう耐えられる気がしない。


「すぅ〜……はぁ〜」


 大きく深呼吸して落ち着きを取り戻そうとするが。


 目の前に座る芽愛ちゃんがそうさせてくれないらしく。

 自身が着てるバスローブのはだけているところを、自分で広げていってる。

 

「…………芽愛ちゃん?」


「なぁ〜に」


「すごく見えそうになってるんだけど」


「へへへ。どう?」


「美しい、です」


「えへへへ〜」


 最高のデートになったかはわからないけど。

 もう我慢の限界だ。


「本当に美しくて可愛い」


 その後、二人とも雨宿りのために来たということなど忘れ。


 帰る頃には周りが真っ暗になっていた。

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