初恋の相手に10年越しの告白をしたら、相手の初恋応援する事になったけど、どういう事?

青柳花音

第1話 それは確かに運命なのだ




 1月3日の朝だった。起き抜けにYouTubeを付けた時、タイムラインに占いの動画が表示されていた。

 占いは、元より好きだけれど、動画を見たり、実際に占いの館などに行って、占ってもらったりなどはした事が無かった。だから、タイムラインに出現したサムネを見て、なぜ突然?と思ったのだ。けれど、【今年1年の恋愛運】というタイトルに興味が出て、軽い気持ちで動画を再生したのだった。

 内容としては、私が今年惹かれる人間が3人居て、それぞれの特徴と出会う時期、場所、イニシャルとかそんな感じ。それぞれ、AさんBさんCさんとして、リーディングが進んでいく。



「どの人も魅力的で良いですね! でも、個人的にはBさんいいなぁ。だって、貴女の良いも悪いも、とにかく全部受け止められるって言ってるんだよ、この人。最高じゃないですか」




占い師の明るい声が響く。それぞれの特徴のリーディングが終わり、内容は出会う場所だとか時期になる。



「Bさんはねぇ、え……今すぐ? あ、これは既に出会ってる人の割合が多いかもしれない」


“マジかー……”


1つも心当たりがないなと思って、少しがっかりした。



「場所ね。もし出会ってなければ出会う場所。出会ってる人だったら、出会った場所かな……ヒントになればいいな」


出たカードは【HOME】だった。



「HOME……家?って言うとホームパーティとかで知り合ったり、友人の友人みたいな割と近くにいる誰かって事かも。心当たりあるかな?あとは……そういうお家っぽい寛げる空間?広い場所じゃないな。身内……ノリ?とか?」



はい、ますます分からーん。

 彼氏と別れて、既に3年。男の人とそんなに出会いがある訳でもないし、特徴に当てはまる知り合いもいない。実質、私の今年の恋愛はAさん、Cさんの2人か〜なんて思っていた。そうしてベッドでゴロゴロしていたら、もう1時間近く経っていた。私は、お腹を満たす為にもっそりとベッドから抜け出した。







 時は流れて1月28日。仕事終わりに書店に寄った。先週発売していた漫画の最新巻を買う為だ。お目当ての新巻1冊を手に取って、レジの列に並ぶ。2つあるレジは、両方とも埋まっていて、私の前にも2人並んでいる。


「次の方、どうぞー」


そこそこ混んでいるのかと思ったが、列はどんどん動いて、あっという間に最前列。手に持つ新巻にウキウキと思いを馳せていた時だ。



「あれ……しょう子?」




 正直、声を聞いたその瞬間は、全く分かっていなかった。突然名前を呼ばれて、驚いたから振り返った。

 レジ横を通り過ぎようとして、私に声を掛けた人の顔を見て、私はポカーンと口を開けた。



「え……!」

「覚えているかな?陽人はるとだよ」



自身の顔を指す彼は、記憶より随分大人びた印象だったけれど、男の子なのに長かったまつ毛とか、少し口角の上がった口元は、学生の頃のままだった。

 人生で一番好きだった人が目の前に居たのだ。



「小中と同じだったんだけど、……分かんないか……」

「いや、分かる! 覚えてるに決まってる!」



思っていたより力強く出た私の声に、彼が懐かしい顔で笑う。



「良かった〜」




そんな間延びした声にドクンッと心臓が大きく脈打ち始める。嬉しさと恥ずかしさと、ほんの少しの気まずさみたいな物が入り混じって、どんな顔をしていいか分からなくなった。変な顔をしているんじゃないかと思ったけれど、自分じゃどうにも出来ない。会話を続けたくて、何か言わなくちゃと口を開いた瞬間だった。



「お次のお客様どうぞー」


神様とは無情なり。非情にもレジの順番が回ってくる。



「あ」

「あー、引き止めてごめん」

「え、あ、待って!」

「お客様、こちらのレジへどうぞー」



もう一度店員さんが呼んでくれる。けれど、もうちょっとだけ話したい。でもこれ以上レジを待たせるわけには……!

 あたふたする私をどう受け取ったのか、陽人はるとは『連絡すんね』と言って、手をひらひらさせながら、随分あっさりと私を置いて帰って行った。



「お待ちのお客様!」

「すみません、すみません!」



書店を出ていく彼の背中に後ろ髪を引かれながら、私は慌ててレジへ向かった。






 家に帰って来てからも、せっかく漫画を買いに行ったのに、全く読む気になれなかった。リビングの床に足を投げ出すような形で座って、ボーっと点いていないテレビ画面を見つめていた。

 連絡すると言った陽人。でも連絡先なんて知っていたっけ?その場のノリで言っただけだったのかなぁと落ち込みかけた時だ。手に握っていたスマフォが鳴った。



『飯! 行こ!』



 短いDMが表示されたスマフォの画面に驚いて、飛び上がった。繋がっていた事さえ忘れる程、交流が無かったのに、ついこの前会ってたみたいに声掛けてくれる所に「こういう気さくな所が好きだった」と懐かしく思った。



『行こう! 空いてる日教えて』



 日程はすぐに決まった。突然の再会から2日後。私は休みで、陽人は仕事。彼の仕事の後、一緒に飲みに行く約束をした。

 急展開すぎて目が回りそうだったけれど、頭の中には、正月に見た占いの動画が流れ続けていた。



「貴女の良いも悪いも、とにかく全部受け止められるって言ってるんだよ、この人」



幼馴染だよ。良いも悪いも全部知られちゃってるよ。



「あ、これは既に出会ってる人の割合が多いかもしれない」


だから幼馴染なのよ。子供の時に出会っちゃってるのよ。



「出会ってる人なら、出会った場所かな。【HOME】……家?」


めちゃめちゃ地元で出会ってんだよ。ある意味HOMEだよ。




 私の中で「Bさんは、陽人の事だったのではないか」と言う思いが拭いきれない。というか、きっとそうなのだ。陽人の事なのだ。

 影も形もない所から、突然湧いて出た初恋の人への動揺と憧れで、私のテンションはすっかり上がってしまっていた。





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