第2講 ネット時代の新しい理想の隠遁生活

昔の隠者といえば、


自然や孤独を好み、


家族や友人を遠ざけ、


世俗社会を離れ、


人里離れた山奥や海のほとりなどに隠れ住む


というのが定番でした。



ところが、その後、


隠者のあり方が変化します。



「大隠は朝市に隠る(たいいんはちょうしにかくる)」


という言葉が生まれます。



意味は、


「真の悟りを得た隠者(大隠)は、


 環境などには左右されることがないので、


 人が多く集まる街なか(朝市)でも、

 

 俗事に心を乱されることなく

 

 超然と暮らしている」


ということです。



私のイメージする新しい隠遁生活は、


そうした都会に隠れる隠遁生活です。



よく田舎に移住してのんびり暮らしたいなどという人がいます。


しかし、今どき田舎になど移住すると、大変な目に合います。



やれ自治会だの、草刈りだの、水路の掃除だの、祭りだの、


地域の行事に駆り出され、


人間関係も濃密。


のんびり暮らそうなどという夢は幻想だった


という失敗談も耳にいたします。



すなわち、現代の隠遁生活は、


人間関係が希薄な都会においてこそ成り立つのです。



私は現在、地方の県庁所在地の郊外に住んでいますが、


近所の人とは挨拶する程度で、


実は名字も知りません。



大学時代にアパートで一人暮らししていたときも


家族とマンションに住んでいたときも


隣の人とはほとんど話したことがありません。



理想の隠遁生活は、


こうした気楽な人間関係抜きには考えられません。



そして今はインターネットの時代。


パソコンひとつあればどこでも仕事や学びや自己実現ができます。


ネットを通じて顔も知らない遠くの人と簡単に交流できます。



現代においては、


完全に社会と隔絶した生活を送ることは不可能です。



必要な情報や物品の入手、


生活費の獲得、


医療や介護など。



自給自足で隠遁生活などありえません。



しかし、インターネットがあれば、


社会との接触を最小限に抑えながら


隠遁生活を送ることが可能です。



昔の隠者は詩作にふけりました。


今の隠者はインターネットを駆使します。



ブログの広告収入、WEBデザイン、プログラミング、WEBライティングなど


インターネットを使って、


好きな時間に、


好きな場所で、


好きな仕事をします。



現代の隠者は「世捨て人」ではありません。


パソコン、スマホを使って、


世の中とゆるやかにつながりながら、


自由で楽しい隠遁生活をおくります。



私の目的は、自分の体験を通して、


この新しい生き方としての隠遁生活を世に広めることです。



会社をやめたい人


人付き合いが苦手な人


一人でいるほうが心が落ち着く人


大勢でワイワイ騒ぐのが嫌いな人


団体行動に馴染めない人


コミュ障の人


社会不安障害の人


引きこもりの人


中年ニートの人


燃え尽き症候群の定年退職者



隠者になる素質のある方は多くいらっしゃいます。


こうした人たちに隠遁生活という新しい生き方を示すことで、


明るい未来が開けるのではないか。


新時代の隠遁生活に無限の可能性を感じます。




【参考文献】

・鷲田小彌太『老後に備えない新哲学 ポジティブ隠者入門』彩流社 、2006年

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