いじめを受けて限界に達し、警察を呼んだ。いじめの中心人物は学校から消え、クラスメイトから恐れられるようになった。しかし、風紀委員や学級委員、生徒会などの美少女から好まれ、興味を持たれた

白金豪

第1話 警察

「なぁ。白中はくなか。ちょっといいか?」


 白中晴斗はくなか はるとのクラスメイトの今泉が見下しながら、低いヤンキー声で尋ねる。


「う、うん。それは構わないけど」


 怖気付いて、決して目を合わせずに俯く晴斗。返答もたどたどしい。


「オッケーだってよ。岸本と今水も行こうぜ!」


 ご機嫌な口調に変貌し、今泉は友人の2人に呼び掛ける。


「ヤッホーィ! 今日も楽しい楽しい祭が始まるぜ!」


「本当に楽しみだぜ〜!」


 今泉と同様に残りの2人もテンションが高い。


 逆に、晴斗は俯き、無言だ。一見してテンションも低い。


「おいおい! 元気出せよ。これから楽しいことが始まるんだからな〜」


 上機嫌で、今泉は晴斗の方に腕を通す。


 その瞬間、晴斗の身体に悪寒が走る。今泉に対する恐怖から生まれたものだ。内心、恐怖が溢れる。


「それじゃあ行こうぜ〜。いつも俺達が愛用するトイレにな」


 今泉の歩くスピードに合わせ、嫌々晴斗は近所のトイレへ向かう。岸本と今水も同伴する。


「おら〜」


「ぐっ〜〜」


 晴斗の肩辺りに激痛が走る。その痛みを少しでも和らげるように、歯を食いしばって殴られた部分を押さえる。


 殴られた局所は熱を帯び、じんじん鈍い痛みを帯びる。


「おいおい〜! まだまだ終わりじゃねぇぞ〜!」


「グッ」


 岸本の蹴りが晴斗の腹部へ突き刺さる。暴力に遠慮はない。


 腕や足でガードできずに、腹筋でダメージをわずかに減少させる。だが、痛みは多大だった。


「カハッ」


 トイレ内だが、痛みに耐えられず、晴斗は床に蹲る。床が汚いなど考える余裕も皆無だ。腹部から溢れる痛みに神経が集中する。


「おいおい。その程度で痛がるなよ」


 蹲る晴斗の頭を今泉が愉快に踏みつける。


 足の重さが負荷として晴斗の頭にずしっと伝わる。


「よっ」


 より今泉の足に力が加えられ、晴斗の頭が床に衝突する。


 ガンッと痛々しい音が生じたと同時に、額辺りに異常な痛みが生まれる。


「はははっ。ダッセ〜。完全に奴隷みたいだな」


 今泉達、いじめ集団は腹を抱えて大爆笑する。目に涙も浮かべる。


「おら! 立てよ!!」


 岸本と今水に無理やり立ち上がらされる。未だに腹部の痛みは健在だ。


「おら! 次は回し蹴りだ!!」


 太もも辺りに今泉の勢いある蹴りが直撃する。


 またもや、鈍く熱い痛みが晴斗を襲う。人間が嫌う痛みだ。


 キーンコーンカーンコーン。


 丁度、今泉が拳を振り上げようとしたタイミングでチャイムが鳴り響く。学校全体を射程とし、当然トイレにも行き渡る。


「ちっ。天はこいつに味方したか。行くぞ2人共」


 痛みに苦しむ晴斗をあっさり視界から外し、今泉はトイレから立ち去る。


「お前、本当に運が良かったな」


 岸本と今水も晴斗を茶化し、今泉を追い掛ける。


 3人の姿は消え、晴斗1人がトイレに取り残された。


「ぐあぁぁ〜〜」


 ある日。晴斗は頭に雷撃のような衝撃を受け、教室の床でのたうち回る。


 周囲のクラスメイトの視線が一気に晴斗へ集中する。


「おいおい。学生カバンで殴っただけだろ? 大袈裟だな」


 へらへら今泉は笑みを絶やさない。岸本も今水も同様だ。


「ぐっ…。なっ」 


 頭を押さえた手の平を視認する。手の平には真っ赤な血が付着する。


 頭から少量ながら流血する。学生カバンの金具部分が強くぶつかったのだろう。


(このままじゃダメだ。俺は今泉達に殺されてしまう)


 ぷつっと我慢の糸が切れた。


 頭の出血する部分を手で押さえながら、ふらふらっと立ち上がる。


 晴斗は制服のポケットからスマートフォンを取り出し、電話を掛け始める。


 プルプル。電子音がスマートフォンから吐き出される。


「もしもし警察の方ですか。僕は新緑しんりょく高校2年6組の白中です」


 電話口で自己紹介をする。


『どうされましたか?』


 警察の方が冷静に対応する。


「実は同級生で同じクラスの今泉俊哉から学生カバンで殴打され、頭から出血しました。身の危険を感じています。助けてください!」


 必死に訴えかけ、晴斗は電話口へ捲し立てる。


『そうですか。近くに先生はいますか?』


「いません!」


 焦った口調で返答した。早急に助けが欲しかった。


『わかりました。新緑高校はすぐ近くなので即座に向かいます』


 電話はぶつっと切れる。


 ザワザワザワザワ。


 クラスが騒がしくなる。


 晴斗の行動に周囲は驚きを隠せない。


「お、おい。お前まじかよ…」


 今泉は動揺を隠せない。


 岸本も今水も口を半開きにキープし、言葉を発さない。


「何とか言えよ! コラ〜!!」


 苛立ちを抑えられず、今泉は晴斗の胸ぐらを掴む。


 プゥゥゥ〜〜ン。


 パトカーのサイレンが教室まで行き届く。


 より教室内が騒々しくなる。中にはパニックで冷静を失う生徒も存在する。


 岸本や今水は呆然とどこか不明な一点だけを見つめる。


「おい! 今泉俊哉という奴はどこだ!!」


 警察が勢いよく乗り込んできた。


「やばくない!」


「本当に来たよ」


 クラスメイト達は怯えと珍しいものを見る目で警察官達に注目する。


「…こ、ここです。それと僕が、僕が白中です!!」


 唇を震わせながらも、勇気を振り絞って、恐怖に打ち勝ち、晴斗は叫んだ。警察に助けを求めるために。


「何してるんだ! 怪我人から離れなさい!」


「ぐぅ〜〜」


 警察官3人はいとも簡単に今泉を取り押さえる。今泉は床に強く押さえつけられ、身動きが取れない。


「は、離せ! 俺に触れるな〜〜!」


 声を荒げ、今泉はどうにか逃れようと試みる。しかし、相手は警察官だ。抵抗は虚しく、あっさり拘束されてしまう。


「話は署で詳しく聞かせてもらうぞ!」


 警察官達は今泉を連行し、教室から姿を消す。


 1人の警察官だけが教室へ残る。


「これから事情聴取を行うから大人しく全員が私に従うように」


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