第9話 ご褒美

「オーレぇ、大丈夫? 怪我……うぅ~、私を守ってこんな……オーレ……あぁ、タカラもゴルドも大丈夫? あ~もう、決闘しといてなんだけど……うぅ~」


 勝ったのはカノンとオーレ。騎士見習いとしてはがトップクラスの力を誇るタカラとゴルドを相手にだ。

 しかし、カノンはその喜びよりも、自分を庇ったオーレにオタオタする。


「つつ、僕はだいじょう……いや、打撲でふしぶしが痛いよ……まったく。ゴルドは大丈夫かい?」

「ぐるゥ……う……」

「……やれやれ……初めて負けて、猫みたいになってしまったね……それもこれも……」


 戦意を失って縮こまるゴルドに苦笑しながら、タカラは目を細めてカノンとオーレを眺める。

 すると……



「カノン、ニク! ゴハン!」


「ふぇ?」


「ゴハン♪ ゴハン♪」



 オーレは平伏しているゴルドまで駆け寄り、『ゴハン』と口にした。

 

「い、いや、君! 何を言っているんだ!」

「ダメー! オーレ、それは食べちゃダメ! 食べる、バッテン! ゴハン、バッテン!」


 騎獣を倒して食べようとしていたオーレに慌てて止めるタカラとカノン。


「オ~、ゴハン、バッテン?」

「うん、これ、ゴハンじゃない! えっと、タカラ、ゴルド、トモダチ。マル」

「オー、トモダチ……」

「はぁ~、やれやれ……これから色々と教えないとね~」


 食べちゃダメなのかと理解して、少しだけ残念そうな様子のオーレ。

 その様子にカノンは頭を抱えながらも、オーレの腕を掴む。


「とりあえずオーレ、ちょっと待ってて、いま手当するから……っ」


 そして、オーレの身体を見て、カノンの表情はまた暗くなる。


「うぅ、ごめんね、いきなり変なことに付き合わせて……ごめんね……」


 火傷したように痛々しいオーレの肌を擦りながら泣きそうになるカノン。

 だが、オーレはニコニコしながら……


「オーレ、カノン、カツ、マル!」

「……うん! 勝ったよ、オーレ! 私たちの二重マル勝ちだよ!」

「ンフー♪」

「ふふ……全部オーレのおかげだよ。オーレ……ありがとう……二重マルありがとう!」


 伝えられる単語は少なくとも、精一杯の感謝の想いをオーレに伝えるカノン。

 そんな二人のやり取りに、タカラや他の生徒たちも呆然と、しかしどこか見惚れるように眺めていた。


「そう、オーレがいたから……ゴルドに騎乗したタカラになんて絶対に勝てないと思ってたのに勝てた……オーレがいたから……オーレが私の騎人になってくれたから……」


 そして……



「これは、お礼だよ、チュッ♪」


「!」


「「「「「ふぁっ!!!???」」」」」



 雰囲気的にあまりにも自然な流れで、カノンはオーレの頬に軽く口をつけた。

 ご褒美にホッペにチュウ。


「えへへ、やっちゃったね♪ ……って、ふぁああああああああ、わ、私はぁあ……ちょちょっと、やりすぎちゃったかなぁ?」


 周囲の生徒たちは一斉に顔を真っ赤にし、一方でオーレは少しだけポカンとしながらも笑顔になり、


「カノン、チューマル? チューマル? チュー、スル、マル?」


 カノンにされたのがよほどうれしかったのか、今度はオーレもしたいとばかりにカノンに詰め寄るオーレ。

 するとカノンは満更でもなさそうにハニカミながら、自分の口と頬を指で触れながら……


「え、あ、えっと、口はバッテン。だけど……ほっぺ! ほっぺ、チュー、マル!」


 と、頬なら構わないとしたのだった。

 すると、オーレは早速身を乗り出した。


「~~♪ カノンスキ! ニジューマルスキー!」

「あん、んも~、オーレ、ひゃん……もうくすぐったいよ~」


 頬ならいいとなったら、オーレはカノンの左右の頬に立て続けにキスをする。

 カノンは照れ笑い、身を捩り、しかし決して拒否も抵抗もせず……


「もう、オーレしすぎー! こうなったら、私もこうだ、オーレのほっぺに……もっとチューしちゃうぞォ!」

「カノン、ニジューマルチュー♪」


 気づけば互いの頬にキスし合う男女の「ちゅっちゅ♪ ちゅっちゅ♪」と音がしばらく響き渡り……



(僕まだここに居るんだけど……何でこんなイチャイチャを見せられているんだ? 僕のカノンが男の唾液にまみれる姿を!)


(((((あの……まだみんなここに居るんだけど??)))))



 生徒たちも「あうあう」しながらも動揺し、しかしいつまでも続くものだから



「ちょ、あなたたち、な、なな、何をしているの! ハハ、ハレンチよ! ミス・ブリランテ!」


「ふ、不純異性交遊で停学とか退学とかもあるんじゃぞ?!」


「「「「「あ………」」」」」



 顔を真っ赤にしたフラットと、バツの悪そうな表情の校長が現れたのだった。

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