第31話:夏の雪解

 第31話:夏の雪解


 誘拐騒動と世界の激変から三日。

 僕が眠ってる間にみんなそれぞれ帰宅したみたいで、今日改めて集まることにしたみたい。

 世間はそれどころじゃなかったみたいで、ニュースは毎日騒がしくしてた。


 地続きの国は、国と国の間に新しい陸地ができてるみたいで、時差は変わらないみたい。

 日本は大きさは変わらないけど、周りの陸地が倍くらい遠くなった。

 ブラジルに呼びかける芸人さんは、ネタがダメにならなくて良かったって言ってた。

 新大陸は人工衛星ですぐに発見されたけど、上陸するかはまだ話し合いをしてるらしい。


 そんな報道をしてるニュース番組を横目に、僕は朝食を食べながらみんなを待ってた。

 神様になっちゃったけど、別に生活が変わったわけでもないし、のんびりしたものだ。

 今日も今日とてお米が美味しい、厚焼き玉子も茄子の味噌汁も最高だね。


「お兄ちゃん、にゃんちゃんたちは何時に来るの?」

「九時……もうすぐ……かな……」

「そっか、はやく来ないかなー」


 随分懐いたみたいで、ちょくちょくネコちゃんの話題が出るようになった。

 仲良くなるのは良い事だし、これからもそうであってほしいな。

 そんな風に優香がソワソワしてるとインターホンが鳴った。


「正ちゃん、みんな来たわよー」

「おはよ、クッキーくん」

「おはー」

「おはようございます、ご主人様」

「おはよう、正ちゃん」

「お邪魔します……」

「うん……おはよう……」


 今日は乙女の強い要望で、乙女と秀吉も来てる。

 誘拐騒動の事を改めて謝りたいからってことらしい。

 僕たちは誰も気にしてないけど、二人の気が済むならってことで。


「聞いてくれよ、俺の家族みんな吸血鬼になっててさ、全員太陽は大丈夫みたいだけど変な感じだぜ」

「そうなんだ……血は……欲しくなる……?」

「それは大丈夫っぽいな、トマトジュースで代用できてるみたいだし」

「そっか……良かった……」

「あーしのトコは、あーし以外ふつーの猫人になってたー」

「猫又は……ネコちゃんだけ……?」

「そーみたい、もー諦めたけどねー」

「可愛いから……大丈夫……」

「にゃふふ♪」


 ネコちゃんは笑うと黒猫に変身して、僕の膝の上で丸くなる。

 白い靴下が可愛い、なでなで。


「私の家族は全員人族でした。 私だけがシルキーになったみたいです」

「原因は……分からない……?」

「私のメイド好きがそうさせた……のかもしれないです」

「分からないってことだな」

「天職ですから、何も問題ありません」

「そっか……なら……良かった……」


 ペコリと一礼して、フワリと浮かんでお母さんの所に飛んでいった。

 お茶の準備を手伝ってくれるみたい。

 なでなで、もふもふ。


「私のお家は全員エルフになってたよ」

「お肉は……食べられない……?」

「ファンタジーのエルフはそうみたいだけど、私たちは普通に食べられるみたい? 昨日の晩御飯に豚キムチ食べたから」

「そっか……食べ物に……制限なくて……良かった……」

「お前たち全員普通に受け入れてるんだな……僕の家族は変わらず人族だったな、僕含めて」

「悩んでも……変わらない……から……」

「まあ、そうなんだけどさ……」

「気にするより、これからを考えた方が有益だろ? 種族の変更はできないみたいだし」

「にゃー……ゴロゴロ……」


 優香と二人でなでなで。

 そんな風に和やかに会話が続いて、なんだかんだこの六人で居るのが馴染んできた。

 乙女と秀吉からも改めて謝罪があって、みんなが受け入れて、この話はお終いってことに。


「小山内……だとややこしいな、正優は体とか大丈夫なのか? 神様になったんだろ?」

「特には……ちょくちょく……精霊が……見えるくらい……かな……」

「精霊なんて居るのか?」

「私も精霊見えるよ? 精霊魔法使えるからだと思うけど」

「そうだったのか」

「数も少ないし全然気にならないけどね」

「うん……たまに……ふわふわーって……」

「精霊なー、本当に色々変わっていってるんだな。 色んな種族みかけるけど、まだ違和感あるよ」


 確かに違和感は拭えないかな。

 その内慣れるんだろうけど、まだ時間はかかりそう。


「俺なんか蝙蝠になれるみたいでさ、試してみたけど飛ぶのは時間かかりそう」

「飛ぶのは簡単ですよ、こうふわーっと」

「みかりんさんが慣れすぎなんだよな……翼で飛ぶのはまた違うんだよ」

「そういうものでしょうか? 私はメイド魔法で色々できるので、非常に重宝してます」

「メイド……魔法……」

「メイドに関わる事は全て魔法でこなす事ができます。 こんな事も……」


 そう言うとみかりんさんが三人に増えて掃除を始めた。

 その掃除道具はどこから出てきたんだろう?

 そう思ってたらまた一人に戻って澄まし顔。


「分身……かな……?」

「分体生成といって、同じ能力を持った私を複製している、といった感じでしょうか」

「意識とかはどうなってるんだ?」

「並列思考でそれぞれ独立しているようですね、元に戻ると記憶が統合されるので非常に便利ですよ」

「ドッペルゲンガーみたいで面白いな。 バイトの掛け持ちとか楽そうだし」

「いいですね、考えもしていませんでした。 色々試して、大丈夫そうなら実行してみます」


 よほど気に入ったのか、より稼げますねって言いながらメモしてる。

 確かに、同じ時間に別々の場所で仕事できるなら便利なのかも?

 ネコちゃんが膝からトッと降りて元の姿に戻る。


「あーしはこの姿とー、人とー、猫になれるよー」

「人の姿にもなれるのか、すごいな」

「あとはー、猫ができることは全部できるっぽいー? それとじんつーりきってゆーの」

「神通力……魔法……?」

「ちょーのーりょく的な? 浮いたりー水の上歩いたりー、壁のむこー透けて見えたりー」

「凄い……猫又だから……かな……」

「猫又は妖怪の一種で超常の力を使えるとされてます。 通説通りなら未来視や読心、千里眼なども使えると思いますよ」

「もうなんでもありだな、このスキルってやつは……クッキーくんは何ができるんだ?」

「僕は……魔力と……神力……あと神域……神眼……声に魔力……付与できる……」

「神尽くしだな。 声に魔力付与ってなんだ?」

「感情を……揺さぶる……。 火なら……情熱……水なら……清涼……みたいに……」

「いまいちイメージできないな……」

「えっと……<俺たちはもう一緒に居られない、お別れだ>……みたいな……」


 不思議少女 魔女が間近の魔法使い、ペペロンチーニの真似をする。

 悲哀を込めたからか、突然全員が涙を流しはじめた。


「ぐすっ……なにこれー」

「急に悲しい気持ちに……ぐすっ……」

「ずずっ……あーこれはヤバイな、なんとなく分かったわ」

「ぐすん……今の正ちゃん?」

「涙が勝手に……」


 みんなが落ち着くまで、ちょっとだけ時間がかかった。

 後で気付いたけど、逆の感情を込めて声真似すれば解決してたのかな。

 この後もスキルの話を続けてたけど、乙女と秀吉は用事があると席を立った。


「父さんと会う約束があってな。 乙女からも話を聞きたいってさ」

「そっか……」

「その……こうして縁もできたし、また会ってくれるか?」

「うん……仲良く……したいな……」

「……ありがとう」

「正ちゃん……」

「乙女……」

「私も……会って大丈夫かな……」

「うん……もう大丈夫……ごめんね……」

「私の方こそごめんね! 良かった……良かったよー!」


 乙女が泣きながら抱きついてきた。

 たくさん時間がかかっちゃったけど、また前みたいにお話ができると思うと嬉しい。

 関係は友達のままだけど、それでも良い……秀吉は複雑な顔してるけどね。



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 秀吉くんと二人で正ちゃんの家を出た。

 お父様に会って話をするだけなんだけど、ちょっと緊張するな。


「乙女……正優とはどういう関係なんだ?」

「正ちゃんは、保育園からの幼馴染なんだ……。 家族とか姉妹みたいに一緒に育ってきたんだけど……」

「告白……されたのか」

「女の子みたいだけど、やっぱり男の子だからかな。 私はそういう感情無かったし秀吉くんが居るから……断ったら泣いちゃって、その後喋れなくなる事があったみたいでさ」

「軟弱な奴なんだな……」

「ごめん、悪く言われるのは絶対に許せない。 容姿のせいで虐められて、無視されたり酷い言葉かけられたりして、内気な性格になっちゃったけど、それを否定するのは間違ってる」

「……すまん」

「ちゃんと強い部分も持ってるから、また会うって決めたなら知ってあげて」

「そうだな……また間違ったこと言ったら教えてくれないか? 僕も正優のこと、ちゃんと知りたいから」

「うん、分かった。 男の子同士仲良くしてあげてね」

「わかった」

「ティックノックやってるから、後で教えるね? 秀吉くんなら、たぶんファンになっちゃうから」

「そうなのか? 楽しみにしておくよ」

「うん!」


 昔の正ちゃんの話とか、私の話とか色々しながら歩いた。

 秀吉くんも自分の話をしてくれて、前よりもっと仲良くなれたと思う。

 種族は変わっちゃったけど、私達の関係はずっと変わらずに付き合っていけたらいいな。

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