第29話:サマー・ハレーション

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朧月おぼろづき 夜桜命よざくらのみこと


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 第29話:サマー・ハレーション


 クッキーくんが眠りについてしばらくしてから、織田の父親が警察を連れてやってきた。

 その場で軽い聞き取りをして、詳しい話は明日警察署でということになった。

 一応話は聞いたけど、ドラマでよく見る身代金誘拐が急にファンタジーになった感じ。

 俺たちは大きい音と光を見て慌てて飛び込んだから、何があったかは見てないんだ。


 結局その場ではい解散とはいかなくて、織田以外はクッキーくんの家に向かった。

 織田は父親と一緒に帰っていったんだけど、家族仲悪いのかってくらい空気悪かったな。

 まあそれはいいとして、クッキーくん寝てるし清川って女の事もあるし。

 事情説明したりしないとだから、解散はそれが終わってからってことになった。


 そんなこんなで歩いてたけど、なんだか空気がぎこちない。

 知らない女だししょうがないのかもだけど、ネコちゃんさんの殺気がヤバい。

 幼馴染らしいし、さっきの織田が彼氏ってのも知ったけど、何か納得いってないのか?

 なんにしても、この空気は耐えられない! 早くクッキーくんの家に着いてくれ!


 …………

 ……


 地獄のような時間に冷や汗を流しながら、ようやくたどり着けた。

 時間はもう二十二時半過ぎ。

 インターホンを押すと妹ちゃんが出てきた。


「はーいって良奴くん?」

「これ返却に来たよ」

「ありゃ、お兄ちゃん寝ちゃってるの? まったくしょうがないなー」

「色々あってな……諸々説明したいし上がっていいか?」

「どぞどぞ……乙女ちゃんも居るじゃん、なにこのメンバー」

「まあまあ、お邪魔します」


 この場で説明するのは正直二度手間だし面倒臭い。

 全員に一気に話したいから遠慮なくリビングに入っていく。

 クッキーくんをソファに寝かせて、俺と清川は椅子に座った。

 ネコちゃんさんはクッキーくんを膝枕して、みかりんさんはその側に立ってる。


 それを見て何かを察してくれたのか、クッキーくん家族も椅子に座ってくれた。

 さて、どう説明しようかな。

 色々ありすぎて言葉選びがめちゃくちゃ難しいぞこれ。

 ともあれ、何も言わない時間が続くのは良くないし、腹を括るか……。


「詳細は後にして、ひとまずザックリ大まかに話しますね」

「ええ、お願い」

「頼む」

「まずは俺たちの視点になりますが……」


 …………

 ……


 知る限りを説明したけど、やっぱり織田から聞いた話がどうにも信じ難いというか……。

 音と光を見ていたとは言え、俺だって信じられない。

 クッキーくんが凄まじい魔法を放ったとか神様だとか、無理筋ではあるでしょ。


 クッキーくんが寝てるのだって疲れからと言われれば普通に納得できるし。

 まあそれでも納得できない箇所はいくらでもあるんだけどさ。

 本人が寝てる以上なんとも言えないのも確かなんだけど。


 質問されながら話してたからか、思ったより時間がかかった。

 気付けば一時間以上時間が経ってて、一旦休憩しようってことになった。

 麦茶は貰ってたけど、ずっと喋ってたから喉が渇いた。


「俺も聞いた話なんで半信半疑っていうか、頭に響いた声がなかったら嘘としか思えないって考えなんですけどね」

「まあそれはそうよね……今この場では鵜呑みにできないのが正直な気持ちよ」

「ですよね……」

「ふう……一旦休憩にしましょ」

「はい」


 頭に響いた声のくだりで否定が入らなかった辺り、本当に世界中の人に聞こえてたのか?

 なんにしてもクッキーくんが起きないと話しは進まなそうだな。

 短いため息を吐いて麦茶に口を付けた瞬間、世界が激しく揺れた。


 座ってても倒れそうな程で、立ってたみかりんさんは床に倒れ込んでいる。

 これだけ酷く激しい揺れなのに、物が壊れたり倒れる様子がないのはなんでだ?

 ちきしょう、混乱で頭が上手く回らない。

 とにかく全員の安全確認をしないと!


 そう思ってなんとか辺りを見回すと、親父さんがお袋さんを、清川が妹ちゃんを支えてた。

 みかりんさんはソファにしがみついて、ネコちゃんさんはクッキーくんにしがみついてる。

 しがみついてる? え? ちょっと! なんでクッキーくん浮いてるの!


「空間の安定化を開始」


 クッキーくんの声が機械的な喋り方で発せられる。

 同時に揺れがピタリと止んだけど、外からは未だに音がしてる?

 なんとか落ち着い全員がクッキーくんを見るけど、ネコちゃんさんが凄いシュールすぎる。


「地球の拡張と魔素の放出を開始、現在1%完了、3%、4%……」


 徐々に数字が大きくなっていって、10%の辺りで電気がバツンと落ちた。

 スマホのフラッシュを使って周りを見ると、外まで真っ暗になってる。

 もしかして、周辺一帯停電になったのか? なんか星をぶちまけたみたいに広がってるし。


「20%完了、魔素の影響により電気が一時遮断、復旧まで今暫くお待ちください、26%、27%……」


 俺たちを気遣ってくれたかのような言葉が間に挟まった。

 操られてるのかと思ってたけど、声の主はクッキーくんなのか?

 それを聞いた親父さんとお袋さんがニッコリ笑ってネコちゃんさんを降ろしにかかった。


「支えるから大丈夫よ」

「悪いが腰持つぞ」

「あ、ありがとうございます……」

「天井近くまで上がってたものね、怖かったでしょ?」

「ちょっち怖かった……きゅーに浮くからとっさにぎゅって」

「まあそうよね、浮いてくのを見送る選択肢はないわよね。 ありがとう♪」

「ママさん……うわーん!」

「よしよし、怖かったわねー」

「うむ、うむ」


 泣き出したネコちゃんさんをお袋さんが抱きしめて、親父さんが頭を撫でる。

 今は全員がスマホのフラッシュで照らしてるから、だいぶ明るくなってる。

 その中で妹ちゃんと清川がお茶を入れてくれたみたい。

 お花見ならぬクッキーくん見が始まって、カオスっぷりが増した気がする……。


「50%完了、麦茶いいな、52%、53%……」

「はいはい、ストローあったかしら?」

「お母さんこれ、長いやつ」

「あらありがと♪ はい、ちゅーっとどうぞ」

「57%、ごくごく、59%、ごくごく、61%、ありがとう、63%、64%……」

「なんだコレ……」

「良奴様、きっとつっこんだら負けなんです」

「さすがお母様、相変わらず適応力が高いですね……」

「昔からこんな感じなのか?」

「そうですね、確か五歳の時に……」


 清川の口から思い出話が出てからは、もう日常に戻ったような感じだった。

 そこにお袋さんと妹ちゃんも加わって、ネコちゃんさんがきゃーきゃー言って。

 みかりんさんも通常運転に戻ったのか、麦茶をついで回ってた。


 …………

 ……


「98%、99%、100%、地球の拡張完了、魔素の安定化を開始、5%、10%……」

「外の揺れも止まったみたいだな」

「あらほんとね、ずっと音してて怖かったからよかったわ」

「あーし、ちきゅー終わるのかと思ったしー」

「にゃんちゃんよしよし、優香お姉さんが居るからねー」

「あーしのがおねーちゃんだし! わしゃわしゃー!」

「きゃー♪」

「清川様、麦茶おつぎしましょうか?」

「あ、はい、お願いします……メイドさん……」

「その内慣れるから、自然体で居た方が気が楽だと思うぜ?」

「が、頑張ります……」

「90%、95%、100%、魔素の安定化を確認、亜人因子保有者の種族変更を行います、若干の痛みを感じますのでご注意ください」

「「「「「「え?」」」」」」


 注意喚起が耳に入った瞬間、身体中に痛みが駆け抜ける。

 若干とか絶対嘘だろ! 痛い痛い痛い!

 ネコちゃんさんとみかりんさん、清川の痛がる声も聞こえるけど、コレやばいって!


「若干は過小表現でした、ごめんなさい」

「そうかよ! 訂正ありがとよ! 痛たたたた!」

「にゃんちゃん……うわー」

「なに! なに! 痛い! どうなってんのー! 痛いいいーー!」

「後で鏡見よう、うん、可愛いから大丈夫だよ」

「なんなのーー!」


 阿鼻叫喚とはこのことなんだろうか。

 痛みが治まるまで結構時間かかったけど、ようやくそれも終わりを迎えた。

 俺たちどうなったんだ? 種族変わったのか? ネコちゃんさんは……。


「ネコちゃんさん……」

「猫子様……」

「にゃんちゃん……」

「あらあらまあまあ」

「う、うむ」

「可愛い……」

「なになになに?」

「にゃんちゃん、洗面所行こ? 見た方が早いから」

「う、うん……からだじゅー違和感だらけなんだけど……」

「大丈夫、すっごく可愛いよ、気を確かに持ってね」


 妹ちゃんに支えられながらリビングを出た後、悲鳴が響いたのは言うまでもない。

 ちなみに、俺は牙が二本生えて、清川は耳が尖って、みかりんさんはちょっと浮いてる。

 ネコちゃんさんは、猫耳と二又の尻尾が生えて、足が猫のソレになってた。


 部分的に猫毛が生えてる以外は人間のままだから、たぶん猫の獣人になったんだと思う。

 俺とみかりんさんと清川が何の種族になったのかはちょっと分からない。


「ネコちゃんは猫又の獣人、ノートくんは真祖の吸血鬼、みかりんさんは家事妖精シルキーメイド、乙女は森林妖精エルフになりました、お母さんたちは人族のままです」

「吸血鬼! 太陽とかヤバいやつじゃん!」

「シルキーですか、私にピッタリですね」

「エルフ? 名前は聞いた事あるけど……」

「ステータスオープンと念じてください、種族やスキルが確認できます、神々から贈られた祝福を世界に反映させます」


 ステータスオープン……うおっなんか半透明な板が出てきた。

 なんかめちゃくちゃスキルあるな……ありすぎじゃね? なにこれ。

 あ、日光無効があるから太陽は大丈夫みたいだな、よかった。


「しゅごれー! お前がげーいんかー! こんにゃろー!」

「にゃんちゃんどうしたの?」

「あーしが猫又? なのしゅごれーがげーいんぽい……猫になれるのは良さげだけどさー!」

「ネコちゃん、可愛いから大丈夫だよ、反映完了、概念の定着に移行、10%、20%……」

「ならいいや! にゃふふ♪」

「現金だなおい、家族も猫の獣人になってるのか?」

「さあ? 電話もできないしわかんなーい」

「まあそっか」

「定着完了、処理全て完了を確認、格上昇処理を終了致します、お疲れ様でした」


 そう言うとゆっくりと降りてきて、そのまま眠りについた。

 それとほぼ同時に電気が復旧して、何事も無かったかのように煌々と俺たちを照らしてる。

 世界も俺たちもどうなっちまうんだろうな? マジで。

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