第11話:新企画

 第11話:新企画


 お家に帰るとお母さんが寛いでた。

 誰かが出迎えてくれるのはすごく久しぶり。

 なんか嬉しい。


「おかえりー。 学校どうだった?」

「ただいま……すごく……楽しかったよ……」

「そう、それは良かったわ♪」

「ノートくんと……連絡先交換できた……」

「ほんと? 休みの日にでもお家に呼びなさいね、私たちもお礼言いたいし♪」

「うん……!」


 これからどんな事が起こるのか分からない。

 でも少なくとも、今までと違うのは間違いないと思う。

 クラスメイトも良い人ばかりだし。

 楽しくなる……きっと。


 …………

 ……


 僕は自分の部屋に戻って、カバンを置いて着替えを済ます。

 今感じてる幸せな気持ちをモチベーションに、今日も録音しようかな。

 今回は初めての試みをしようと思う。

 そのための準備をしよう。


 まずは題材選びから。

 自分が好きな作品を使うか、今やってるアニメを使うか。

 再生数狙いなら今やってるアニメになるのかな?

 でも好きな作品も捨てがたい……。


 今回は無難に好きな作品にしておく。

 次は作品選び。

 今まで扱ってない作品を選ぶか、あえて上げた中から選ぶか。

 フォローしてくれてる人に楽しんでもらうなら、上げた中からだよね。

 フォロー理由は好きな作品をやったからだと思うし。


 その中でも定期的に見てしまうスルメ作品。

 『つけもの!』は確定で、その前のクール作品『煮すぎた煮玉子は煮汁を吸うのか』かな。

 それぞれの主人公を使おうと思う。

 本当は有名週刊誌作品も捨てがたいんだけどね。

 それはまた別の機会に温存しておこうと思う。


 つけもの! の糠渕剛志と、煮玉子の鍋敷焦太郎なべしき こげたろうは性格も違うし丁度いい。

 この辺りも選択理由。

 お互いの名言をお互いの声と演技で言う。

 セリフ交換声真似は楽しんでもらえる……と思う、たぶん。

 公式でルフ○とゾ○のセリフ交換やってたし、需要はあると信じたい。


 早速録音開始。

 録音用ソフト『KRISTAL』を起動して、マイクチェック。

 プロ用の録音ソフトも入ってるけど、まだ勉強中……やれる事が多いのもアレだね。

 追々使えるようになればいいよね。


 まずは糠渕のセリフを鍋敷の声で……

 『天地返しも知らない奴が漬物を語るんじゃねえ!』

 次に鍋敷のセリフを糠渕の声で……

 『沸騰しすぎ、一回頭冷やせ。 そうすりゃスッと受け入れられるんじゃないの?』


 うーん……どうしてもキャラが寄っちゃう。

 寄らないように気を付けないと。

 というわけでテイクツー。


 …………

 ……


 テイクファイブでようやく慣れて納得いく形にできた。

 そのキャラが言ってないセリフを言うのはできるけど、あくまで言ってないセリフ。

 既に存在する他のキャラのセリフってなると、イメージが固まってるから勝手が違った。

 できる人はスッとできるのかもしれないけど……。

 いい勉強になった。


 次に画像ね用意と、動画の形に編集。

 今回は真っ白画面に黒文字は封印。

 僕は絵が下手だけど、イメージショップで手描きに挑戦。

 これは下手でもいい、気持ちが大事。


 糠渕に鍋敷のポーズをとらせて……。

 鍋敷に糠渕のポーズを……文字も入れて……。

 動画編集ソフトで画像と音声を合わせて……。

 アップロード形式で保存……と。

 回数重ねてクオリティが上がればいいな。


 リテイクを重ねたおかげか、最終的に良いものができた。

 どれだけ声を出しても、どれだけ動き回っても迷惑にならないのは本当にありがたい。

 家族に感謝感謝だ。


 十八時にアップできるように準備だけして、画面は待機しておく。

 アップロード画面を右のモニターに逃がして、時間までユーティービーを見ながら過ごす。

 あ、大食いチャンネルに新しいのが上がってる……今回はでっかい、うわっすごい。


 …………

 ……


「正ちゃん、ごはんよ」

「ちょっと待ってね……アップロード……完了っと……」

「あら、動画上げたの?」

「うん……新企画……」

「後で見るわね♪」


 にこにこ顔のお母さんと一緒にリビングに移動する。

 今日の晩ごはんはなんだろう、餃子だと嬉しいな。



 ----


 収録が終わって一息中。

 ティックノックの通知に気付く。

 のなめ、新作上げたんだな。


「みっちゃんお疲れー」

「王子か、お疲れさん。 のなめの新作ついさっき上がったぞ」

「ホント? 今回なんだろうねー」

「今から見るが、一緒にどうだ?」

「見る見る!」


 俺たちが話してると、その様子に気付いたのか他の声優やスタッフが寄ってくる。

 フォロワー数も再生数も少ないし、知らない奴のが多いんだろうな。


 ~♪


「はっはっは!」

「わあー! こう来るんだ!」

「どうよ鍋敷くん、いい声してるじゃないか」

「糠渕くんこそ、このセリフ案外似合ってるよ」

「先輩、なんですかこれ? いつの間にこんなの上げたんですか?」

「面白い活動してるじゃない。 絵はどっちが描いたの?」


 まさかこんな面白い動画上げるとは思わなかった。

 やってる奴は居るだろうけど、この組み合わせは間違いなくコイツだけだろうよ。

 周りの反応も上々で、なんか俺も嬉しくなるな。


「プロデューサー、これ俺たちじゃないんですよ」

「そうそう、声真似系ノッカーが上げてる動画なんです」

「へー、面白いことやる奴も居るもんだな」

「これ先輩たちじゃないんですか! 似てるなんてレベルじゃないですよ!」

「だろ? 俺たちのお気に入りノッカーなんだ、激推し中」

「最初は音声の切り抜きかと思ったんだけど、歌上がってから違うって気付いてね」

「なんてノッカー? ちょっと聞いてみたいわ」

「『のなめ』で検索してやってください、百万年に一人の逸材ですよ」

「ふーん、あったあった。 後で全部聞いてみるわ」

「僕も聞いてみます!」


 布教活動みたいになったけど、こういう好きの共有もアリだな。

 もっと世間に知れるべきだし、埋もれさせるのは勿体ない。

 声の出し方もいいし、演技力もちゃんとしてる。

 しっかりマイクの向こう側に届ける喋りになってるのはプロのそれだ。

 いつか会えたらいいんだがな、もうすっかりファンになっちまった。



 ----


「さっき光彦くんと若王子くんから教えてもらったんだけど、これ聞いてよ」

「ティックノックですか?」

「そうそう、二人激推しの声真似系ノッカーらしい」

「あの仕事にうるさい二人が推してるって、どんな逸材なんだろねぇ」


 ~♪


「いやいや、なんですかこの音質」

「すごいなこりゃ、どんな機材使ってるんだ? スタジオか?」

「いやそこじゃないでしょ、そこじゃ」

「ああすまん、職業柄ついな」

「同じく……良い声してますね、真似も本人レベルですよ」

「歌も上手いらしいんだが……これか」


 ~♪


「レベルヤバいな」

「声真似しながら歌ってんのか……」

「それ自体はそこまで珍しくないですけど、この音源存在しないですよね?」

「つけもの! はウチの会社が製作だが、公式で歌わせてないから当然カバーもないな」

「素の声はどうなんですかね? これだけ演技力あれば声優いけるんじゃないですか?」

「さっき知ったばっかだから、俺もまだ知らん。 二人が要チェックって言ってたぞ」

「ふむ、俺もフォローしとくか」

「知り合いにも広めておきますよ、面白くなりそうですし」

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