ヘイトを集める。

 戸塚オサムはジョークとラップが嫌いである。


 経験上、前述の二つが好きなヤツの多くが、で早く死んだせいだろう。

 死ななかったのは、役立たずの臆病者だけだった。


 ――おっぱいが、いっぱいあるんだ。


 おっぱいが五十パーセントを占める学校へ無事到着し、思わず気持ちをそのまま口にしたのだが、韻を踏んだと誤解されていないか気になっていた。


「なあ、ジョン」


 オサムを校舎玄関まで送り届け、SUVに戻ろうとする黒人の背中に声を掛けた。


「さっき言った事なんだが――」


 だが、その時――、


「せんぱあああああいッ!!」


 小さな塊――いや天王寺キララが授業を抜け出し、オサムの許へ駆けつけて来たのである。


 ――私のエキスを飲んで動けるなんて――どういうことなの!?

 ――はっ!?――わ、分かったわ。

 ――つまり、オサムきゅんが、凄すぎるってことなのね!!!


「え?」


 おっぱい以外に興味の無いオサムだが、この一週間でキララの存在はさすがに記憶していた。


 自分が苦しい時、ずっと傍で看病してくれていた幼女である。ただ、彼女がいると病状が悪化していくのは不思議だったのだが――。


「き、キミは――」


 これまで、キララは表では秘していた。


 確実に自分のモノにしてからで良いと思っていたからだ。


 何より、未だに彼女を追っているマスコミや、ストーカーに近いファン達が、オサムに迷惑をかけるかもしれないと考えたからである。


 だが、もうそんな事に構っていられなかった。


 ――オサムきゅんオサムきゅんオサムきゅんオサムきゅんオサムきゅん。


 キララの目には、前科百犯ぐらいの黒人に、愛しのオサムが絡まれているように見えていたのだ。

 ゴリラを轢いても平然としていような悪党どもである。

 

 普段の超絶強い彼ならまだしも、今は病気なのだ。


 その原因の全ては、キララの謎エキスのせいだが、自分にとって都合の悪い点はキレイさっぱり忘れている。


 これこそが、生き馬の目を抜く芸能界を潜り抜けた女のしたたかさなのかもしれない。


 そんなわけでキララは――、


「オサム先輩ッ!!」


 周囲の注目も構わずに、ひしぃぃぃぃとオサムに抱き着いて、黒人――ジョンを睨んだ。


「何なの、アンタたちは!!」

「いや――」


 ジョンは突然の闖入者に戸惑う。

 最も彼を困惑させているのは、オサムと密着するキララの胸元だった。


「――どういうことだ――オサム」


 少しばかり、ジョンの声音が険を帯びる。


「お前、まさかリカルドとの約束を――」

「ん?」


 相手の怒りが理解できないオサムは、不思議そうな表情を浮かべる。


「いや、忘れた事などない。だからこそ無理を頼んだのだ」


 学校まで送ってくれ、というオサムの依頼をジョンは快く引き受けてくれた。


 用心深いジョンが仲間達を引き連れてきたために、何度か警察に止められたのには辟易させられたが――。


「チッ」


 オサムとキララを交互に見た後、ジョンは舌打ちして背を向けた。


 なお、ここから先のオサムとジョンの会話は英語である。


「テメェの――左腕が泣いてるぞ」

「いや、普段は元気いっぱいだ」

「――クソッ――変わっちまったんだな」

「まあな。少しばかり髪も伸びたし、ボクが学生服なんて信じられないだろう」


 オサムは、全てに見当違いの答えを返してしまった。


「ふん――もういい。あばよ、二度と会う事はねぇよ」


 言い捨てたジョンが助手席に乗り込むと、それを合図として無法なSUV軍団は走り去って行く。


 未だ誰も救助に行っていないゴリラは再び轢かれたが、全校生徒の注目はそこには無かった。


 オサムとキララ――。


 抱き合う二人というより、キララが一方的に抱き着いているのだが、見ている方からすると関係がない。

 むしろ、より悪かったのかもしれない。


 オサムは、フツメン未満の分際で、無謀な告白を繰り返す嫌われ者だ。

 他方のキララは、レジェンド級の元アイドルで、誰もが認めるロリ美少女である。


 結果、オサムに対するヘイトは、昇竜の如く急上昇した。


「――ぐぬぬぬ」


 一部始終を窓から見ていたイケメンロリコンストーカー美木多みきたの瞳にも明確な殺意が宿る。


 その頃、双葉アヤメは、


 ――ううっ、漏れそう――ままま不味いわよおおおッ!!


 SUV軍団に恐怖を感じ、アヤメは失禁寸前の危機にあった。

 

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(※) 次回はホントに人を選びます ……。

(※) キンモおおおだったら、ごめんなさいね。


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