第3話 初めての実戦

スクロールを持って再び森に足を進める。

スクロールのテストだけではお金にならないので主な目的は薬草採取とする。


子供や老人が薬草を探す横を通り抜け奥を目指す。

森の浅い所には薬草はほとんどない。こういう場所の薬草は彼らに譲るのだ。


次第に人気が無くなり下草が多くなる。人があまり来ない証拠だ。

森の奥に行くほど魔物との遭遇率が高くなる。

慎重に、周りの様子に注意しながら薬草を探す。

金を稼がないと材料も買えないからね。その為に薬草を採取するのだから。


・・・十束集めたら帰る。


そう決めて薬草を採取していく。

暑い訳ではないのに緊張で汗が滴る。

森の奥は薬草も有るが魔物も出やすい。

僅かな物音に立ち止まる。


やっと四束集めた時だった。


「うわ~!!!」


誰かが叫びながら走ってくる。咄嗟にスクロールを握りしめる。

そいつと目が合った。


「逃げろ! ゴブリンだ!」


男が俺の横を走り抜ける。

見ると彼の後ろから三匹のゴブリンが追ってくる。

身長は俺と同じくらいか。

手にこん棒やナイフを持ったゴブリンはまさに鬼の形相だ。

ゴブリンは最弱と言われているが絶対俺より強い。直感で解る!


「うお!!!」


焦って距離を考えずにスクロールを発動させてしまった。


ドン!!! バキバキ!!! ガサ~!


周囲の木々を巻き込みながらゴブリンの前に大穴が空く。

ゴブリンは落ちてない。失敗した!!!

と思ったら止まれなかったゴブリン二匹が穴に落ち、直後に生き埋めになった・・・。


残ったゴブリンと見つめ合う。

慌ててもう一枚スクロールを取り出し構える。

暫く見つめ合った後ゴブリンは森の奥に帰っていった。


ふう~・・・。


緊張が解けてへたりこむと声を掛けられた。。


「ドラン、すげえ!

スクロール持ってんのかよ。」


振り向くと近所に住むアッシュが立っていた。


「なんだアッシュか。」

「おう。助かった!」

「ゴブリン連れて来るな!」

「気がついたら後ろにいてさ。それよりスクロール買ったのか?」

「作ったんだよ。」

「俺にもくれ。」

「五千ギルな。」

「チッ!」


アッシュは近所に住む農家夫婦の三男だ。

同い年で、来年冒険者に成るらしい。俺と同じで一人立ちだ。


「ドランはどうするんだ?」

「俺は出来れば魔道具師に成りたいな。」

「お前、魔道具修理出来るもんな。」

「でも材料買ったりする金が要るから冒険者もやるかも。」

「その時は俺と組もうぜ。ドランがスクロールで倒せば簡単だ。」

「それじゃあ赤字だろ。今日だってゴブリン二匹にスクロールじゃスクロールの方が高い。それに討伐証明も取れないぞ。」


通常、ゴブリンの討伐証明に耳を切り取り、これをギルドに持ち込むと一匹当たり五百ギル貰えるが、スクロールは最低五千ギルなのだ。

自作なので実際にはもっと安いけど。

ではなぜスクロールが五千ギルなのかと言うと職人ギルドを通して定額で流通しているからだ。

スクロールは紙にインクと材料で魔法陣を書いている。

魔法陣の内容は不明なので購入者は購入時の説明を信じるしかない。

これを一応保証しているのが職人ギルドなのだ。

職人ギルドを通さないモグリの職人のスクロールも存在するが発動するかどうかは保証されない。

職人ギルドは内容を保証した印を押して販売先に卸すのだ。

実際には職人ギルドも写しと同じかどうかを見ているだけで、見落としで不発のスクロールもある。それに職人ギルドの印を偽造した偽物も存在する。


職人ギルドにスクロールの写しが無い場合は魔法陣を書いた紙とサンプルに製品を五個納品すると職人ギルドが動作検証して、製品として認められれば出荷可能となる。


ちなみにギルド発行の印の偽造は犯罪だが、自作スクロールの販売は罰せられる事はない。


*****


スクロールのコストダウンを考える。

今の俺では武器での戦闘は無理だ。武器も無いし。

なのでスクロールが中心になるが、手持ちは使い捨ての土魔法だけ。

スクロールは紙にインクと魔石を使うので仕入れにコストが掛かる。


通常、スクロールは使用すると燃えて無くなる。

過去にこれを再利用出来る様に鉄板にスクロールを書いた人もいたようだが、結局二回目の発動は出来なかった。

実はこれ、一回発動すると魔力が無くなるまで消費したり発火する様に書かれていた。

鉄板に書いても一度発動すると魔力が無くなっているので次回は発動しないのだ。


それと魔法陣には関係ない文字も結構ある。

作者の名前や会社名、説明だったり『コピーしたら訴えるぞ』等の警告だったり、落書きもあったりする。これ等も今までは意味も解らずコピーしていた。


発火消費する部分と余分な文字や構文を排除して手のひらサイズに縮小した魔法陣を紙に刻む。小さくした方が材料が少なくて済むからね。

通常のスクロールが前世のB4サイズ位で、新たに作ったのはトランプカードサイズ。

草原で試した所、込められた魔力量にもよるが連続二~三回使っても大丈夫な事が解った。

勿論スクロールに新たな魔力を貯められないので作成時に多目に魔力を貯める必要がある。これはスクロールの途中にインクで黒く塗りつぶした丸を書く事で魔力溜まりを作って対応した。

それでも魔力を使いきったスクロールは破って破棄するしかない。


噂によると魔法使いが魔法を自力で顕在化するには多くの魔力が必要で、この為数発射つと魔力切れになってしまうらしい。馴れないと一発でぶっ倒れるそうだ。

それを思えば魔法を作り置きできるスクロールは


「うん。まあ実用的な範囲だな。」


これから森に行くときは数枚予備を持って出かける事にした。


*****


十五才になった日。

職人ギルドに登録した。遂に独り立ちだ。

登録と同時に作り貯めしておいた土魔法の使い捨てスクロールを三十枚売り、加熱スキレットを売り込む。

加熱スキレットは一個六千ギルで卸す事になった。

取り敢えず二十個預けて売れ残ったら返品される。

ギルドもどれほど売れるか様子見らしい。


兄さんにも報告して家を出ることになった。

もう少し家に居ても良いんだけど兄さんの結婚の話もあるからね。小姑は居ない方が良いのだ。

それに兄から独立祝いにと隣のメルロウズの街に冒険者用アパートの小部屋を、家賃三ヶ月分払って貰ったからね。

アパートの一畳しかない部屋の広さに驚いたけど冒険者は寝るとき以外は戻らないので問題ないそうだ。家賃は一月二万ギル。トイレは共同。風呂は無し。


この三ヶ月でお金を貯めないとね。

実家での道具の修理は、魔法陣の写しを兄さんにも渡してあるので大丈夫。


アッシュもメルロウズの冒険者ギルド斡旋で部屋を借りたらしい。

冒険者ギルドに登録したアッシュは初めの二週間は講習と戦闘訓練、簡単な文字の読み書き、礼儀作法や依頼者との関わり方の指導を受けてるようだ。受講は任意だが受けた方が冒険者としての残存率が高いので推奨されている。

ちなみに職人ギルドでは新人に契約上の注意点と詐欺注意の冊子が渡される。

契約上の不備をついてお金を支払わない輩もいるそうだ。


取り敢えず使い捨てスクロールを量産してお金を稼ぎ、回復水の初級五千ギル、土の中級スクロール八千ギルを新たに購入。

回復水のスクロールは約一分間回復魔力のある水を出し続ける使い捨ての物。飲料水にも使えるが初級回復ポーションと性能がかぶるので買うかどうかは使用者の好みだ。

これを数回使えるように修正してポーション兼水筒代わりにする。もちろんギルドに売る時のは普通の使い捨てのほうだ。

土の中級はアースランス。五メートル四方に大きなトゲの様な土槍を無数に生やす攻撃魔法。生えた槍は直ぐに崩壊して土に帰る。冒険者に人気のスクロールだ。


一見スクロールで稼いでいるように見えるがそれほどではない。

スクロールは材料費と工賃が掛かる。

ギルドに納めると初級で三千ギル。中級で四千ギルの買い取りになるが魔力的に日に三~四枚程度しか書けない。


初級で単純計算すると月に二十日働いて二四万ギル程度の売上で材料費を引くと十六万ギルの利益。物価は前世と同じくらいなので給料は中小企業の初任給程度なのだ。衣食住の費用を考えると何とも心許ない。

何せ毎食外食だから。


連続使用出来るスクロールは秘密にしてる。俺だけのアドバンテージね。


スキレットの方は一応売れてはいるらしいが大した事はない。取り敢えず来月も二十個納品する。


宣伝も忘れない。

地味な営業活動として薬草採取のふりして森の入口の広場でスキレットでお茶を沸かしてノンビリ感を出し、それとなく話し掛けて宣伝したりしてる。

殆どが『なんだこいつ?』という反応だが、俺はめげない・・・!

商品がヒットしていつか大金持ちになったときに羨むがいい!


そんなある日、何時ものように営業活動で、あくまでも営業活動で可愛い女の子二人組に話し掛けていると・・・。


「あれ? ドランじゃねえ?」


振り向くと髪型も服装もチャラくなったアッシュがいた。

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