第3話 聖剣エクスカリバーは超格好いい

「魔王様、どうやら人族が勇者を探しているようです」


 セバッサンからの唐突な勇者という言葉に胸が高鳴ったのは秘密にしておいてください。だって勇者ですよ! 人類の憧れじゃないですか!? 厨二心をくすぐる響きなんですよ! 全人類の希望、正義という名のもとに悪を打ち滅ぼす! ……あれ? この場合って悪はだれなんですかね? ん???


「あのセバッサン?」


「何でございましょう?」


「人族はなぜに勇者をさがしているんでしょうかね?」


「は?」


「え?」


 あ〜勇者はやっぱり全属性の魔法を使えるのだろうか。いや、それとも聖属性の攻撃で悪を滅するのだろうか? かっこいいい固有の技とか持ってるんだろうなあ〜いいな〜。


「勇者とは聖剣エスクカリバーを携え、魔族領を荒らしまくる厄災でございます」


「魔族領とはここですよね?」


「左様でございます」


「荒らしまくるとは?」


「同胞が殺されまくりますね」


「それってあなたの感想ですよね?」


「事実でございます」


 いやいや、厄災って勇者ですよ? 一本筋の通った聖人が殺しまくるってそれじゃまるで魔王じゃないですか〜セバッサン何を言ってるんですかね〜? ……ねえ? おやおや??


「あ、あの〜勇者の最終目的というのはもしかして……」


「魔王様の討伐でございますな」


「ですよね〜」


 おばあちゃん、大変です。人類の希望が僕に絶望を与えにくる死神にしか見えません。僕が何かしましたかね? オークじゃなくて人間ですって言えばワンチャン助かりますかね?


「現在、勇者が扱える聖剣エクスカリバーは固く封印されており、その封印を解けた者を勇者として認定する様ですな」


「という事は……僕がその封印を解けば勇者に認定されるって事ですよね?」


「……ええ、まあ理屈ではそうなりますな」


 実はちょっと自分は勇者なんじゃないかと希望を持ってるんだよね! だって異世界転移で魔王っておかしいでしょ! 自分で言うのもなんだけど全然魔王っぽくないしね! 人間だし! 人間……だよね?辛うじて。


「セバッサン! 聖剣エクスカリバーをもらいに行きましょう!」


「おおぉぉぉ!! 聖剣を奪ってしまえば厄災も起こらない! 慧眼恐れ入ります」


「一つだけ問題があって」


「問題ですか?」


「どうやって行きましょう?」


 細田太くんはこの世界に来てから約一ヶ月、この城の敷地内から出た事がありません。


「人族の情報はこの転移石を使い、秘密裏に送り出しております」


 細田太くんは転移石を手に入れました。


「でもこれってどうやって使うんです?」


「こう、床に叩きつけて割ると……」


【ドジっ子スキルが発動します】


「こう?」


「あっ!? 魔王様!」


 ぱりんっ!


「え? アァァァァァァァァ!! なんか吸い込まれるぅぅぅ」


「ま、魔王様ァァァァァァァァ!」


 細田太くんは転移石で人族の領土へ遊びに行きました。


 おばあちゃん、僕は今クライマックスを迎えている気分です。まわりがザワザワ! ザワザワ!と僕を取り囲み怪訝な顔をしています。


「おい! 今突然現れなかったか?」


「なあ? あれってオークじゃないのか?」


「いや、辛うじて人間だろ? 変な格好してるけど」


「黒髪に黒目……伝説の勇者の容姿って確か……いやいや! こんなオークみたいな勇者は嫌だ」


「でも見ろよあの格好」


「バカ! 聖剣エクスカリバーの封印を解く会場に来る為に精一杯オシャレしてきたんだろ! 可哀想だから黙っててやれよ」


「そうか〜お上りさんだったか……みんな温かい目で見守ってやろうぜ?」


 これ、魔王セット一式なんですよ? あちらじゃ正装なんですよ? そんな生暖かい目で見るのをやめてくれませんかね?


「お、おほんっ! そ、そそそその台座にあるのがせせせせせ聖剣エクスカリバーかあ! よ、よおおおおしふふ封印解いちゃうぞぉぉ!」


 細田太くんはぎこちない動きで歩いてます。


「「「ははははっ! 頑張れよーー」」」


 民ども! よおおおく見ておけ! 勇者様の誕生だぁぁぁ!! しっかし、長い階段ですね。あっ足がプルプルしてきました。おっ! あれが聖剣エクスカリバー! やべえ超格好いいじゃん! ふう……あと一段! この一歩が伝説の始まりだあ!


【ドジっ子スキルが発動します】


「あっ! マントに足がっ! おっとととと!! ああぁぁぁぁ!!」


 ばきっ!


「「「ええええぇぇぇぇぇぇ!!!」」」


「あれ? これ聖剣エクスカリバー? おおおお!!! 抜けたァァァァァァァァ!!」


 おばあちゃん、僕は勇者だった様です! 封印されし聖剣エクスカリバーが僕を選んだのです! ここはいっちょ格好つけて天高く聖剣を掲げようと思います。一世一代の見せ場ですよ!


「獲ったどおおおお!! ……ってあれ? なんか短くね?」


 ザワザワ ザワザワ ザワザワ


「き、貴様! 聖剣エクスカリバーを!!」


「ぐぁぁ!」


「ぎゃあ!!」


「魔王様お迎えに参りました」


「セバッサン!」


 ぱりんっ!


 ナイスなタイミングで来てくれたセバッサンのおかげで魔王城に帰ってきました。折れた聖剣エクスカリバーの柄だけ持って帰って来ちゃったけどどうしましょう?


「魔王様、一人で行かれた時は肝を冷やしましたが、聖剣エクスカリバーを破壊するとは……」


「そうですよね……怒られちゃいますかねやっぱり…… はぁどうしよう」


「今頃、人間どもは大慌てでありましょうな。あっはっはっは!!!」



 一方その頃、聖剣エクスカリバーの封印場では



「魔王軍の襲撃だぁぁぁ!」


「衛兵が斬られたぞ!」


「さっきのやつはもしかして……」


「魔王軍が勇者の誕生を恐れて聖剣エクスカリバーを奪いに来たんだ!」


「くそっ! 卑怯な奴らだ!」


 おばあちゃん、人類が大切にしていた聖剣エクスカリバーを壊しちゃいました。ボンドでくっ付きますかね? もしかしておばあちゃんのアロエがあればなんとかなりますか? とりあえずほとぼりが覚めるまでここで大人しく謹慎しようと思います。

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