浮気現場を目撃したら婚約者の王子から婚約破棄をされました

佐佑左右

01.どうやらお二人とも似たもの同士のようなので助かります

ですか……」


 見慣れた背中に見慣れぬ背中が寄り添っているのを見て、私は大きなため息をついた。

 まず初めに見慣れた背中、あれはこの国の第一王子、バイドル様のものだろう。

 続いて見慣れぬ背中は、おそらく新たな囲いの女性だと思われる。


 私の婚約者であるバイドル様はまったくもって女癖が悪い。

 頭ではなく下半身で物事を考えるいわゆる色男で、これまでに浮気をした女性は数しれず。


 当然清い交際であるはずもないから、いずれの女性とも肉体関係をもってはすぐに飽きて捨てるということを何度も繰り返し、王族という立場を傘に幾人もの女性を泣き寝入りさせてきた真正の屑である。


 ……なんて無礼かもしれないが、こうも堂々と浮気をされるのであれば彼に対する評価も相応のものになるのも当然。

 

 確かに見てくれはいい。さすが絶世の美男子と呼ばれるだけのことはある。

 残念なことに中身は性欲の塊だけども。


 まあそれはそれとして、見つけてしまった以上は嫌でもあれに挨拶せざるを得ない。


 元々本日は王妃教育の一環で王宮を訪れただけなのだが、一応目の前にいる浮気相手にも警告はしておかなければならないだろうし。


「お待ちくださいバヵイドル様!」


 こっそりと蔑称を交えつつお呼びたてすると、バイドル様は「あん?」と気だるげそうにこちらに振り返った。


「なんだイーリスか、ちょうどよかった。お前に話があったんだ。お前、俺と婚約破棄な?」


 突然のお申し付けに思わず「はい、喜んで!」と口にしてしまいそうになったが、慌てて言葉を飲み込む。


「んじゃ、話も終わったしお前帰っていいよ」


「申しわけございませんがいくらなんでもお話が急すぎます。仮に婚約破棄を受け入れるにしてもせめてその理由だけでもお聞かせください」


 バイドル様には未練も好意もさらさらないし、婚約破棄の件に関しても向こうがその気なら断るつもりはないが、周りが納得してくれる理由さえあれば面倒ごとにならないと思っていたのに。


「あ? だってお前、せてくれねーじゃん。セ◯クスできない女なんか別れるだろ、フツー」


「は?」


 バイドル様から聞かされたあんまりな理由に、私も空いた口が塞がらない。


 ヤラせてくれない――つまり身持ちが固いから婚約破棄されるとは前代未聞の話だ。

 こんなことを双方の家に説明して回らなければならないの? ちょっと勘弁願いたい。


「ねえあなた、バイドル様から聞かせていただきましたけどいい歳してまだ処女なんですってね。まあお恥ずかしいこと」


 すると、それまで大人しく事態を静観していた浮気相手の女性が小馬鹿にした様子で話しかけてくる。

 その際私に見せつけるようにバイドル様の腕を取り、決して豊かとはいえない自身の胸元に押し付けた。

 ふふんと鼻を鳴らし勝ち誇った表情を浮かべているが、別に嫉妬などしないのでお好きにどうぞとしか言えない。


「……嫁入り前の女性が婚前交渉を拒むのは普通だと思いますが? たとえ婚約者がいようとも、それは変わりません。こうして相手から婚約破棄をされる可能性もありますから」


「嫌ですわ、たんに殿方から抱いていただくほど女としての魅力がないだけのくせしてとんだ時代錯誤の価値観ですこと。枯れた女には分からないでしょうけれど、今どきどこの貴族令嬢も結婚前からズッコンバッコン致しておりますわよ?」


 ……ああ、彼女もバイドル様と同じで頭も股もゆるい人間なのね。


 これなら一安心、その男は女性を性欲のはけ口程度にしか考えていない最低野郎ですよ、とをしてあげる必要もなさそうね。


「ほらもういいだろ。俺はこのあとナターシャとしっぽりハメを外すんだよ。つってもハメるんだけどな」


「その前に最後に一つだけ婚約破棄の話ですが、お受けする代わりにこれはバイドル様側の有責であることをきちんとご報告させていただきます。ですからあとで確認を求められた際にくれぐれもなされないようお願い申し上げます」


「あー分かった分かった、お前の言うとおり絶対はしないからそれでいいだろ。お前の代わりにナターシャにたっぷり中で出してやるからよ」


「もうバイドル様ったら、処女の彼女には刺激が強すぎますわ。ですが、溜まってらっしゃるようなのでわたくしがたっぷりと種をお絞りして差し上げます。さあ早くお部屋に参りましょう?」


 聞いているだけで頭痛がしてくるほど頭の悪い会話だが、ひとまず言質はとった。


 まあここまでしなくても、私は王室関係者から信頼を得ているのでそこまで心配する必要はないのだが。


 言いたいことだけ言って意気揚々と去っていく二人の背中を見送りながら、私はふとこれからのことを考えていた。



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