僕、異世界転移で魔王様〜王国育成の支援物資は100円ショップでやり繰りします。どうやら無双ができるみたい〜

神伊 咲児

第1話 勉強よりも異世界転移

「お父さんの会社がピンチなのよ。 歌照かてるごめんね」


 そう言って、母さんがくれたのは学習ノート1冊だった。


 それはないだろう。

 誕生日プレゼントは忍天堂ズイッチだったのにさ。


 僕の名前は伊草いくさ  歌照かてる

 13歳の中学1年生だ。


 夏休みが終わった2学期のはじめ。

 父さんの会社は経営不振に陥った。

 よって、伊草家の食卓はおかずが1品減り、僕の誕生日プレゼントは学習ノートになったというわけだ。

 

 母曰く、勉強をたくさんして、いい会社に就職してたくさんのお給料を貰って欲しいのだそう。


 いやいや。

 13歳の僕にそれを言うかな?

 僕が就職をするにしてもまだまだ先だろう。

 なんなら次の新しいゲーム機が出てしまうよ。


 こうなったら奥の手だ。

 正月のお年玉を使ってやる。


 貯金箱には千円札が5枚入っていた。


「うーーん」


 ズイッチの定価が3万3千円。毎月貰えるお小遣いが500円だから……。


「遠い……。果てしなく遠いな」


 貯金をするにも限界がある。

 来年のお年玉に期待したいが、親戚のおじさんがどこまで弾んでくれるかは謎だ。

 

「うーーん」


 中学1年の僕がバイトをするわけにもいかないしな。

 この物欲は勉強をして晴らすのが最善なのだろうか?


「空しい……」


 と、貰ったばかりの学習ノートを開く。


 僕の成績は中の上。特段、上位でもなければ悪くもない。

 そもそも、なんの為の勉強なのだろう?


 クラス内で将来なりたい職業のアンケートをとったことがあったっけ。

 人気なのがゲームクリエイターだったな。

 次に動画配信者。その次に、なんとなく会社員ってやつだった。

 中一男子にとってはさ。まだまだ将来なんて見えてないんだよね。

 それに僕は、そのどれにもなりたいとは思わないな。


 なるんだったらさ。そうだな……。


 冒険者とかさ。


 ふふふ。

 剣士とか戦士。魔法を使える賢者もいいな。

 モンスターがいる世界でさ。大冒険を繰り広げるんだよ。

 魔法陣とか描いてさ。


 僕はノートに魔法陣を描いた。


 ふふふ。なんとなくこんな感じの中世のさ。

 象形文字みたいなヤツで、


「モンスター召喚! ……なんちゃって」


 その瞬間である。


 魔法陣から強烈な光が出現した。


「嘘……」


 僕はその光に吸い込まれた。




「こ、ここはどこだ?」


 僕は豪華な椅子に座っていた。


「おおお! 魔王様が帰ってこられたぞ!!」

「おお! 魔王様! お帰りなさいませ!」

「魔王様がご帰還なされた!」

「お久しゅうございます魔王様!!」


 ま、魔王?

 ……そ、そういえばこの椅子。玉座のように豪華だけど?


 僕のことを歓迎しているのは異形の者たちだった。

 ある者は背中に羽を生やし、ある者は青い肌。大きな竜もいる。


「な、なんだここ?」


 夢?

 に、してはリアルだな。


 まるで城のような作り。全体は薄暗い。

 光源はランタンのようだ。そこかしこに設置してあって、その中には見たこともない青い炎が燃えていた。


 僕の格好といえば、いつものパーカーで、ユニクレで買ったジーンズ。

 靴は履いていない……。

 そりゃ、そうだよね。だって……。さっきまで僕の部屋にいたんだからさ。


「魔王様。異世界はどうでしたか?」


 そう聞いてきたのは綺麗な女の人。

 頭に羊の角が生えている。

 露出度の高い服で、大きな胸の谷間はしっかりと見えていた。


 うう。目のやり場に困るな。


「ふふふ」


 と、その人はニコニコと微笑む。

 

 僕のことを誰かと勘違いしてるんだな。


「あの……。僕は伊草  歌照かてる。その……。魔王って人じゃないんですけど?」


「では、カテル様とお呼びしましょうか」


「いや、だから魔王じゃないんですって!」


「ふふふ。まだ記憶が戻っていないのですね」


「どういうことですか?」


「あなた様は魔人国アシュランダーの王なのです」


 はい?

 これはやっぱり夢かな?

 それだったら、もっとこう、僕の格好もだな。それなりの雰囲気があっても良いと思うんだけど?


「僕は日本人。伊草  歌照かてるですよ。見てくださいよこの見た目。どう見たって普通の人です」


「では、あちらをご覧ください」


 それは壁に掛けられた大きな肖像画。

 玉座に座る少年の絵だった。


 え!?


「ぼ、僕だ!? 僕そっくりの顔」


 衣装は魔王っぽい黒装束だけどさ。

 見た目は僕そのもの……。


「どうして?」


「あなた様は異界に転生されたのですよ」


 い、異界?

 異界って……、ここが異界だと思うんんだけど……。

 ここの人が異界というのは、つまり……。日本のこと!?


「身に覚えがないけど?」


「転生して記憶が消えているのです」


 じゃ、じゃあ僕は異世界人!?

 とても信じられない。だって、


「学校の健康診断では異常なしでさ。レントゲンは正常。血液検査はA型だったよ。異世界人のいの字もなかったんだけど??」


「それは勿論そうでございます。魂だけが魔王様なのですからね」


 た、魂だけ……。


「じゃあ、日本にいる父さんと母さんは……」


「ええ。勿論、あなた様の実のご両親でございます」


 し、信じられない……。

 しかし、このリアルな存在感は信じざるを得ないのかな?

 もうちょっと探ってみよう。


「僕は、どうやってこの世界に来たのかな?」


 ノートに魔法陣を描いたら吸い込まれて……。


「潜在意識で帰省本能が働いたのです」


 規制本能といえば、動物が生まれた場所に戻ろうとする本能的な行為のことだよね。

 つまり、適当に描いた魔法陣。僕の規制本能がそうさせたということか?


「でもさ。僕は普通の人間だよ? 特殊な力なんてないよね?」


「魂が持っているのでございます。魔王のお力を。そのお力で魔王城に戻って来られたのです」


 魔王城……。

 そうだよね。ここって作り物っぽくないもん。

 こんなの映画のセットよりお金がかかっているよ。

 湿気とか、油やカビの匂いとかさ。リアルすぎるよね。

 それじゃあ、やっぱり僕は本物の魔王なのか。 

 ……戻って来たということは、


「僕は2度と家には帰れないってこと?」


「それは……」


「そんな……。父さん、母さん……。妹の優衣ゆういにも会えないのか?」


 みんなにさよならを言えなかったよ。

 

「日本に戻れないなんて酷いじゃないか。僕は伊草  歌照かてるなんだ。いくらなんでも急すぎるよ!」


歌照かてる様。玉座の背もたれを見てくださいませ」


「え?」


 振り返ると魔法陣が光っていた。


「あ、僕がノートに描いた魔法陣だ」


 まさか……。


 手を突っ込むとどこかに抜ける。


「あれ?」


 頭を突っ込むと、僕の部屋のノートに繋がっていた。

 視界に広がるのは慣れ親しんだ僕の部屋である。


「なんだ……戻れるのか……」



────


公募用作品となります。

全4話で11000文字程度。

どうぞよろしくお願いします。

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