14.イケメンにイケメンをぶつけると俺が死ぬ

C組へ辿り着いた俺が目にしたのは、光と闇のイケメンの対話であった。

レンと生徒会長は、互いに困惑の表情を浮かべつつ向き合っている。


「あの、ですから……何故このクラスに?」


「それは言えない。安城さんには秘密の用件があるからさ」


「えと、そうじゃなく……多分、先輩は何かを勘違いしておられるのではないかと……」


泰禪乙川高校の一年と二年が誇る光闇こうあんの美男子二人が集結したことによって、一年C組の教室は無駄に神々しい空気を纏っていた。

出入口の前にも他クラスの生徒が集っており、俺はその隙間から教室内の様子を伺う。


周囲の女子生徒達は彼らのやり取りを遠巻きに眺めつつ頬を赤く染めている。

一方の俺はやらかした事を悟り、顔面を青く染めていた。完全に自業自得である。


事の経緯は概ね想像がつく。

俺のデマを真に受けた生徒会長は、素直にC組へと訪れて安城ナツメの行方を尋ねたのだろう。

そこへ居合わせたのがC組で唯一俺の事を知るレンであり、親切に応じてしまった事で現在に至る……といったところか。


レンからすれば、何故クラスが違う俺を訪ねて生徒会長がここへやってきているのか不思議だろうし、生徒会長からすれば想い人(たぶん)である安城アマネと親し気に話していた謎の新入生と鉢合わせする羽目になったのだから、内心は穏やかではないと見える。


というか、レンの存在を忘れていた。何も考えずにC組へ誘導したのはかなり迂闊だった。

うーん、因果応報。マジで1から10まで全部俺が悪い。

こんな事なら最初から素直に名乗った上で適切に対応すべきであったかもしれない。


……ともあれ。ともあれだ。

流石にあの状況に割って入れば最悪の目立ち方をする事は間違いない。

ここは密かに退散すべきだろう。すまん生徒会長。すまんレン。


後日密かに謝罪する事を心に固く誓いつつ、俺は気配を殺してその場を後に――


「……あっ、ちょ、ちょっとこっち来て!」


「……ッ!!!!」


――できなかった!うーーーーん、マジで因果応報。


第六感めいた謎の嗅覚でこちらの存在に気が付いたレンは、素早くこちらへ駆け寄ると野次馬の中から俺を引きずり出した。

女子生徒達からの冷たい視線が突き刺さる。

容赦の無い瞳の暴力である。少しだけトラウマを刺激される。


……とてもまずいことになった。どうしよう。


「あれ。君はさっきの親切な……」


生徒会長が、レンに引っ張り出された俺の顔を見て言う。

どうも、親切なクズです。目を見れねえ。


どうしたものか。最もこの場を穏便に済ませるには何がベストなのか。

冷や汗が止まらない。


「えと、生徒会長。こいつが安城ナツメです」


「……は?」


レンが俺の手を掴んだまま紹介すると、生徒会長が怪訝な表情で俺達を見た。

そりゃそうだ。さっき会いましたもんね。

何食わぬ顔で「安城さんならC組の教室で見ましたよー」とか言ったのは他でもない俺であるし。


「……どうも。安城ナツメです。姉がいつもお世話になってます」


観念した俺は、仕方なく自己紹介をする。

自分が蒔いた種である。こんな大事になったのは俺が悪い。

ある種の開き直りとも言える。


……こうなったらさっさとこの場を後にして、人目のない場所で生徒会長の用事とやらを聞くしかあるまい。


「……え、と……君が?何故……?」


生徒会長は混乱している。そりゃ「何故……?」とも言いたくなるだろうよ。すいません。


「ナツメ……会長さんに何したの?」


レンが小声で訪ねてくる。


「いや別に何も……?」


嘘です。嘘ついてここに誘導しました。マジですいません。


気まずい空気を誤魔化すように、俺は咳払いを一つ。

会長に向き直り、堂々と胸を張る。


「会長、用事って何です?個人的なお話という事でしたら、とりあえず人目に付かない場所に移動した方が良いんじゃないですか?こんな騒ぎまで起こして……C組の皆さんに迷惑ですよ」


「え……あ、あぁ。そうだね……うん、そうしよう……えぇ……?」


会長は、完全にやべーやつを見る目で応じる。

いや、俺も我ながら頭おかしいと思います。すいません。


周囲の女子生徒達も完全に困惑している。

視線が本当に痛い。心臓が早鐘はやがねを打つ。

せめて顔を覚えられていない事を祈る……いや無理だろうな。



ふと、一際見目麗しい女子生徒と目が合った。

スラっとした美しい立ち姿。入念に手入れされていると思しき美しい長髪。

全身から清楚な色気を放つ、素敵な女子だった。個人的にはかなり好みである。


そして、そんな素敵な彼女から、俺は絶対零度の瞳で見つめられていた

レンか会長か、どちらが原因かは分からないが、確実に彼女の地雷を踏み抜いたらしい。

控えめに言って最悪です。そして困った事に全部自業自得です。



「は、早く行きましょう……」


「う、うん……生徒会室で話そう」


俺は彼女から目を逸らし、八方から俺を苛む視線の雨からそそくさと逃げるように生徒会長の背を押した。


「あ、ちょっと……」


かくして、困惑するレンからも逃げるようにして、俺と生徒会長は教室を後にした。


とりあえず、どうでもいい相手であろうと簡単に嘘を吐く事は許されないのだと学んだ。

C組の皆さん、本当にすみませんでした。


特にレンに関しては、流石にその内ちゃんと謝りに行くべきだと思う。色々とすまん。

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