02.男女関係って怖いよね

例の"嫉妬のイリュージョンショー"をきっかけとして、当時の俺は決心した。


金輪際、男女関係のトラブルには関与しない事。

そして、同性の友達……あわよくば恋人でも作り、あとは社会の為に真面目に生きる事。


ともすれば色々と飛躍しているように見えるかもしれないが、俺は真面目だった。かなり大真面目だった。



そもそも、件の出来事はやはり1:10の男女比が生んだ、歪な力関係のしわ寄せが原因であるように思えた。

事実として、俺がレンやクラスの男子と距離を置くようにした途端、遠巻きに俺へのいじめを眺めていた層が同情の言葉を投げかけてくるようになったり、何ならレンへの顔繋ぎを求めて俺と仲良くしようと近づいてきたりと、所詮は小学生であるが故の稚拙さもあろうが、露骨に態度が変動した事もある。


仮に、俺がレンやその他の男子の事が好きな女子だったならば、どんなに激しいイリュージョンショーが繰り返されようとも構わず男子たちと仲良くし続けていたかもしれない。

そうするだけの価値は、この世界の女子にとってはあるのかもしれない。


だがまぁ、俺にとってそんな事はなかった。

普通に友達としてレン達とつるんでいただけで凄まじい量の嫉妬と害意を一身に受ける羽目になったのだからたまったものではなかった。

個人的に、友情や人間関係は損得勘定に乗せてはいけないものだと思っているが、それでも俺が男子と仲良くするのは、とてもじゃないが"割に合わない"と思ったのである。



話は少し変わるが、この世界では女性の同性婚はごく一般的に認められている。

これもやはり男女比の偏りによるものであるらしい。程度に個人差はあれど、両性愛者の女性はこの世界におけるマジョリティだったりする。


まぁそもそも現実的に、世間の男が全員10人の嫁と結婚できるかといえば無理だし、現に俺の父も嫁は三人しか居ない。三人ってなんだよふざけんなち〇こもげろ。


というか大前提として、そもそも一つの家で全ての妻と同居している我が家のような家庭環境は少数派なのだ。

複数の妻と結婚する場合、数世帯を掛け持ちして通い妻ならぬ通い夫のような形で愛を育むのがこの世界では一般的だ。

だがそのような環境では、当然の帰結として妻同士はライバル関係に近い感情を抱くようになるし、夫としては妻が増えれば増えるだけそれらの間を取り持つ負担が増えるという訳である。


前世に於いて、縄文時代の生活様式では集落を形成し、皆で自分の子も人の子も分け隔てなく育てていたという。

それを踏まえてみると、今世における男女比1:10という環境はそのような小規模な社会には適していたのかもしれない。

例を挙げるとすれば近隣住民同士が盛んに干渉し合う田舎の村社会や、うちの家族なんかはそれに近しい環境であると言えよう。


しかしそれらと比較できない程に巨大化した共同体を抱く現代社会に於いては、上述の通り歪な一夫多妻制を敷く事になっているのが現状だ。

産業革命から始まった近代化よる急激な社会の進化とは今世も概ね同様の歴史を辿っており、それに適応すべく変化したこの国の生活様式は未だ成熟していない。


要するに、女は絶対に余らざるを得ないのが現実なのだ。


若者の賃金低下を原因の一つとする晩婚化は深刻であるし、それに比例し男性にとっては経済的にも精神的にも負担の大きい一夫多妻婚比率は低迷の一途を辿っている。

他にも前世と非常に似通った問題は多く存在しているが、その悲惨さで言えば今世はより深刻な状態にあるとも言えよう。

しかしながら子育てや結婚に対する国からの補助はまだまだ乏しく、財源確保の為に増税を行い、更に手取り給与が低下するというプラマイゼロの死のループが……ここまでにしておく。あーあー何も考えたくない。


要するにこの社会において一般的な女性が男性と結婚する為のハードルは年々高くなり続けている――というのが過酷な現実なのである。



長々と述べてきたが結論は極めてシンプルだ。

要するに、この世界の男女関係は、あらゆる点で死ぬほど面倒臭いのだ。


そして俺はそんな面倒臭いトラブルの種でしかない男共には性的にも興味が無いし、まぁ普通に可愛い女の子が好きだ。

考えれば考える程に、男と関わる事は損でしかなく、やはり"割に合わない"としか言いようがないのである。

レンの事は嫌いではないが、それを取り巻く嫉妬の渦からは全力で距離を置きたいというのが心からの本音だ。


そんな訳なので、俺はなるべく女の子とだけ仲良くしながら生きていく事を決心した。

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