第3話 異世界転生×少女勇者×魔王城

 ロドリィは辺境の村から旅立った勇者で、高い魔力を持っているが剣や槍の扱いは苦手だった。


 これまで手に入れた杖ではロドリィの高い魔力に対応できなかったが偶然見つけた俺は高い魔力を持つ勇者を求めており、互いに最高の相手を見つけることができた。


 ロドリィは意思を持つ杖である俺を完全に使いこなし、勇者として冒険を続ける中でいつしか有名な存在になっていった。


 他の勇者は時に複数名で旅をしているのに対してロドリィは単身で旅を続け、モンスターの群れに襲われても広範囲魔術で殲滅できた。その魔力は底知れずで、モンスターの巣窟をたった一人で壊滅させた時は近隣の王国にもその名が知れ渡った。



 戦いの中でロドリィの魔力に感応して俺の魔力も向上していった。最強の勇者の一角となったロドリィは他の勇者と協力し、ついに魔王城への直接攻撃に乗り込んだ。


 他の勇者たちが行く手を遮るモンスターとの激戦で倒れていく中でロドリィは真っ先に魔王アムーズの玉座の間に飛び込んだ。


「よく来たな、勇者ロドリィ。貴様の噂はここまで届いているぞ」

「余計な話は要りません。私はこの杖、ケイと共に世界を救うの!」


 ロドリィは魔王に杖を突き付けると雷撃魔法を唱えた。呪文の詠唱は一瞬で終了し、玉座は雷撃を受けて崩れた。


「やるな。だが魔王の力を甘く見ないで貰おう!」


 雷撃を受ける直前に魔王はロドリィの目前へと空間転移し妖刀を振りかざす。


 ロドリィは補助魔法で自らの身体能力を強化し、高速移動で魔王と距離を取った。



 そして激しい戦いの末。


「魔王アムーズ! これで最後です!」


 ロドリィが放った魔法の矢は魔王の心臓を貫き、長く続いた人間族と魔王の戦いは終わった。



 魔王の亡骸を火炎魔法で消滅させてから、ひどく疲れたロドリィは床に座り込んだ。


 強力な魔法が飛び交いボロボロになった玉座の間を眺めながら、ロドリィは俺に話しかけた。


「ようやく終わったのね。今までありがとう、ケイ」

『戦いは終わったけど、ロドリィはこれからどうするんだ?』

「王立魔法学校に誘われてるからそこで働くつもり。あなたも一緒に来てくれる?」

『もちろん!』


 ロドリィが頷いて立ち上がった瞬間、玉座の間にモンスターが飛び込んできた。



「遅かったか。貴様、よくも魔王様を!」


 魔王城を守る親衛隊に所属していたらしい高位のモンスターはそう叫ぶと持っていた鎌をロドリィに向けて投げつけた。


 高速で迫る鎌に対し、気を抜いていたロドリィには魔法で迎撃する余裕もなかった。


『危ない!』


 俺は魔力を解放し、全身でロドリィの手から飛び出すと飛来する鎌に激突した。


 打ち落とすことはできたが鎌の刃の直撃を受け、杖は中央から両断された。


 そのまま意識は薄れ、俺の杖としての生涯はここで終わろうとしていた。


「ケイ! あなた、許さないからっ!」


 既にケリュケイオン最強の魔法使いとなっていたロドリィは杖の力を借りずとも強力な魔法を使えるようになっていた。


 呪文の詠唱は瞬時に終わり、雷撃魔法の直撃を受けてモンスターは消滅した。



 ロドリィはすぐに駆け寄ってきて、既に杖として働けなくなった俺を拾い上げた。


「ケイ、大丈夫!? すぐに魔法鍛冶の所に……」

『いや、俺はもう助からない。君はもう一人でも大丈夫だから、これからは平和な時代を築くために頑張ってくれ』

「そんな……」

『最後に、君に伝えたいことがある』


 大粒の涙を流しながらロドリィは頷いた。



『俺は一介の杖だったが、君を愛していた。君のために死ねて良かった』


 そこまで伝えると俺の意識は途切れた。



「ケイ、私も……」


 ロドリィは俺の亡骸を持って魔王城を後にした。



 その後ロドリィは王立魔法学校の教官から校長にまで上り詰め、晩年は子供や孫たちに囲まれて天寿を全うした。


 魔法学校の机には魔王との戦いで破壊された伝説の杖「ケイ」を常に飾っており、自らの棺にも納めるよう遺言を残したという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る