第3-4話 「支払いは、これで」
「宇治工業」という企業が、福岡の工場でシールドマシンを保有していた。さすがに無断で押し掛ける訳には行かない。
タカフミは、「星の人」による見学と、技術者や経営陣との面会を打診した。
企業側は突然の要請に驚愕し、かつ「本当か?」と疑っていたが、オンライン会議にマルガリータが姿を現すと信じてくれた。早速、翌日の工場訪問を手配してもらう。
「星の人」の移動については、関係者の合意形成など待っていられない。
「明日0930に、ポッドを福岡市郊外に降下させる、という通達がありました。市民の誘導をお願いします。降下予定地は・・・」という形で、「星の人」からの一方的な通達の態で、人払いをしてもらった。
10:00に、マリウス、マルガリータ、タカフミの3人で「宇治工業」を訪問した。すぐに工場に案内される。
シールドマシンは、巨大な円筒形の機械だった。全長14.5m、直径7m。先端に地盤を削る「カッターヘッド」がある。掘削しながら、トンネルの壁面も形成してくれる優れものだ。
重量は750トンもある。アポロ計画のサターンロケットの貨物重量は100トン程度だったが・・・マリウスによると「重量は大丈夫」とのことだった。
対応してくれた技術者は柳田という人で、宇宙での活動にロマンを感じているらしく、とても協力的だった。
「測量と初期設定には人手がかかりますが、その後の掘削自体は高度に自動化されています。地中で活動するために電力駆動で作られているので、十分な電力が供給できれば、不可能ではないはずです。技術的には」
「技術以外では、問題ありますか?」
「それはやはり・・・リスクが伴いますから、経営陣が承認するかどうかです」
**
午後に、宇治工業の社長と会談することが出来た。
「銀河ハイウェイ建設は世界中が関心を持っている案件ですから、うちとしてもぜひ協力したいのですが、無償では無理です」
これが社長の答えだった。対価をどう支払うか? 帝国と日本に通貨為替はない。
「何か提供できるものはありませんか? 艦隊に豊富にあるものは?」
「余裕があるのは電気だな。ポッドもエスリリスも電気駆動だ」
「それ、エンジンか何かで発電しているんですか?」
「違う。超電導バッテリーで持ってきている。駅が稼働すれば、電気は駅から補給される」
「それ、渡せませんか?」
「超電導バッテリーはダメだ。技術供与になる。保存できる容量が桁違いだからな。日常生活を激変させるインパクトがある」
「じゃあ、レンタルではどうですか。提供するのは電気だけで、対価分を流したらバッテリーは回収するということで」
「それなら、いい」
タカフミは社長に尋ねる。
「もし、電力を提供して、御社の電気代を全て賄えることになったら、マシンを貸して頂けますか?」
「工場や事業所、更に現場でのマシン駆動にも使っていいんですね? それは有難いですが、マシン4台分となると・・・少々お待ちください」
社長は、数名の社員を呼んで、計算してくれた。概算結果を紙でマリウスに示す。マリウス、それを見て、マルガリータとしばらく相談した上で、口を開いた。
「では、御社に対して、百年分の電力を供給しよう」
「百年ですか!?」
「そうだ。ただし条件がある。マシンの稼働を止める時間的余裕がないので、故障対応の1台を含め、5台を貸与して欲しい。また専任のスタッフを配置して、工事の支援をして欲しい。提供する超電導バッテリーは、電力を使うだけで、絶対に分解禁止だ。内部構造を調べようとしたら、その時点で給電は停止する」
「悪くないお話です。バッテリーの能力や保管方法など、詳細を詰めさせて頂きたい。マシンの貸与で収入は減少するので、電力は売電に回しても構いませんか?」
「電力の使い方は、御社が決めて構わない。詳細はマルガリータと詰めてくれ」
最後に、技術者の柳田が懸念点を質問した。
「現地での測量や日々のメンテナンスは、誰がやりますか?」
「弊社の社員を派遣するのはちょっと・・・誰も宇宙で働いたことがないですし、労働災害などが起こったら、どう処理すればよいのか、見当もつきません」
「人手は艦隊から出そう。でも、皆さんとの連絡窓口が必要だな」
タカフミを見る。
「タカフミ、宇宙に来てくれるか?」
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