水の音の中で

samgetan

水の音の中で───第1話

【表記ルール】————————————————————————

  〇 ………… 場面、()内は時間帯

  人物名「」 ………… 通常のセリフ

  人物名M「」 ………… モノローグ

  人物名() ………… 内心のセリフ

  無表記、セリフ内() ………… ト書き

    *   *   * ………… 短い時間経過

     ×   ×   × ………… 回想シーンの導入、終了

———————————————————————————————



【1-1】———————————————————————————


◯大学、教室(昼)


   続々と教室内に入ってくる生徒ら

   教卓の前で生徒らに呼び掛ける教師


教師「はい

 じゃあ初回の今日だけ──」

教師「座席表に記載されている

 席に座ってください」


教師「えー 次回からは

 自由に座っていただいて結構です」


   入瀬 葉月(いりせ はづき)、座席表を手に教室に入ってくる



葉月「──……(徐に室内を見渡す)」


   座席表に視線を落とす

葉月「──……(ひとつの名前に目が留まる)」


座席表『雨沢 久弥(“入瀬 葉月”の隣席に記載されている)』


葉月「──……」

   所定の席に座り、徐に隣席の方へ目をやる


葉月M「“その名前”を見ると

 先ず思い浮かべる人がいる


 ──“日向 久弥”

 久弥と書いて“くみ”


 女の子にしては少し無骨な

 字面だったかもしれないけれど


 本人は至って

 硬さの欠片もないような人だった」


   ×   ×   ×

   (回想)

   柔らかい笑顔の少女の映像、スローモーション

   ×   ×   ×


葉月M「名前に対して──


 苗字はいかにも

 温かい響きの音だったけれど


 それが この上なく似合っていると

 思える人だった


 本当に──


 太陽みたいな人だった」



葉月「──……」

   少しソワソワした様子で、生徒らが入ってくる教室入口の方を振り返る


葉月M「そもそも

 苗字が違っているのだから


 あり得ないと思いつつも──


 それでも心のどこかで

 僅かに期待してしまう


 それほど彼女は──


 俺の思い出の中に

 色濃く残っている人だった


 だけど…」



葉月「…!」

   隣席の机上にカバンが置かれるのに気付いて


葉月「──……」

   咄嗟に上方をちらっと見て、隣席にやって来た人物を確かめる


   雨沢 久弥(あまさわ ひさや)、葉月の隣席に無言で着席する

久弥「──……」


葉月M「実際にやってきたのは

 当たり前に“彼女”じゃなかったし


 なんなら性別から雰囲気まで──


 何から何まで

 真反対といえるような人物だった」



久弥「……」

   隣からの視線を感じて


久弥「何ですか?(無表情、素っ気なく)」


葉月「え?」


久弥「いや…(鼻で笑って)

 なんかチラチラ見てるから」


葉月「あー… いや…(動揺)」


葉月「座席表の名前だけ見て──」

葉月「女の子が来るのかな〜と

 思ってたんで…」


久弥「へ? これで?(驚き)」


久弥「ないでしょ

 “久弥”ですよ?」

久弥「どう読めば

 女の子の名前になるの」


葉月「あー…

 そういうもんですかね…?」


久弥「…?(訝しそう)」


葉月「ああ その…」


葉月「高校の同級生でいたんですよ

 全く同じ名前の子が」


久弥「女の子?」


葉月「そう

 全く同じ漢字で──」

葉月「“くみ”って読ませる…」


久弥「…へえ」


久弥「まあ…」

久弥「そうかもしれない

 ですけど──」


久弥「でも 一般的なのは

 “ひさや”でしょ」


葉月「まあ…

 ですかね…」


葉月(…んな勢いで

 否定しなくたって…)


久弥「もしかして好きだったとか?」

   正面を向いたまま、さして興味もなさそうに


葉月「え!?」


葉月「…なんで──」


久弥「っ…(笑って)

 そんなのフツーに分かるでしょ」


久弥「好きだから

 その人の印象が強いから──」


   変わらず興味なさげに、机上の資料を見遣りながら片手間に話す


久弥「だから一般的じゃない方が

 先ず思い浮かぶ」

久弥「そういうことでしょ」


葉月「──……」


久弥「(素っ気なく)ごめんなさい

 期待に応えらんなくて」


葉月「(ムカッとして)っ…

 …別に──」


葉月「その子が来るなんて

 思ってないですよ」


葉月「そもそも

 苗字だって違うんだし…」


   葉月の方に向いて、軽く笑いながら

久弥「でも せめて

 女の子が来るかもって思ってた?」


葉月「……(決まりが悪い、むすっとして)」


久弥「もし 女の子が来たら──」

久弥「その子 本人じゃなくても

 新しく好きになってたかも?」


葉月「…!」


葉月「そんな…

 ないでしょ…」

葉月「名前だけで好きになるとか」


久弥「さあ?

 俺はないけど」


   スマホに目線を落としたまま、片手間に話す

久弥「なんか そういう風に

 なりそうかなって」


葉月「は? 俺が?」


久弥「うん」


葉月「っ…(ムカつく)

 なんだそれ…」


葉月M「ないだろ


 同じ名前の人を好きになるなんて

 そんなの…


 何の運命だよ」



久弥「──……」

   隣で不愉快そうにしている葉月も、意に介さないといった感じで、スマホを弄っている


葉月「──……」

   横目で久弥の横顔を見つめる



葉月M「“いけすかない奴”っていうのは──


 こういう奴のことを

 言うのかと思いながら──


 俺は その

 やたら綺麗な横顔を見ていた」



   隣同士の席に座っているふたりの背中、引きの画



【1-2】———————————————————————————


◯大学、学食(昼)


   葉月、エプロンを身につけ、カウンター前でアルバイトに励んでいる



葉月「はい どうぞ〜」

   言いながら、カウンターに並んでいる生徒の前に料理を置く


おばさん「葉月くん

 うどん 残り5ね」

   同じく学食のパートのおばさん、葉月の後方から呼び掛ける


   おばさんの方に軽く振り返って

葉月「ああ はい

 了解です」


   カウンター前にやって来た人物に気付いて

葉月「…あ」


久弥「──……」

   葉月を一瞥する


葉月「今 “ゲッ”て思っただろ?」


久弥「別に?

 そこまで思い入れないし」


葉月「っ…(苦笑して)

 相変わらず愛想ないヤツ」


葉月「社会言語学の講義

 “雨沢 久弥”」


久弥「豚丼で」


葉月「へ…?

 …ああ──」

   唐突な注文に面食らって


   後方の厨房に振り返って

葉月「豚丼ひとつで!」


久弥「もう覚えてくれたんだ?」

   さして嬉しくもなさそう、平坦なトーンで


葉月「──……(ドヤ顔、無言で頷く)」


久弥「好きな子と同じ名前だから?」


葉月「(嫌そうな顔)そんなんじゃないよ」

   何でもない表情に戻る、軽くやれやれといった感じで

葉月「お前 有名人だから」


久弥「は? 俺が?」

葉月「うん」


久弥「(怪訝そう)なんで…

 派手髪だから?」

   自分の髪の毛を見遣るように、目だけで軽く上を見る


葉月「それもあるけど──」


おばさん「はい

 豚丼ひとつね」

   言いながら葉月の横に豚丼を置く


葉月「ありがとうございます」


   パッと久弥の顔を見て

葉月「ネギは?」


久弥「…普通」


葉月「はいよ」


葉月「それもあるけど──」

   言いながら手元の豚丼にネギを乗せる


葉月「銀髪の“イケメン”の1年

 っていえば──」

葉月「それだけで

 みんなに伝わるよ」

   言って、カウンターの上に豚丼を置く


久弥「へえ…」


葉月「興味なさそうじゃん

 褒められてるのに?」


久弥「別に…

 どうでもいいよ」

葉月「おま──」

   言い掛けて、久弥の後ろに並んでいる女子生徒に遮られる

女子「──あの」


葉月「へ…?」


女子「(不機嫌そうに)後ろ

 つかえてるんですけど」

   後方の列を顎で指しながら


葉月「ああ…!

 すみません!」


久弥「っ…(鼻で笑う)」

久弥「じゃ──」

   言って、豚丼を乗せたトレーを持って去っていく


葉月「あ おい!」

   去っていく久弥の背中に呼び掛ける


久弥「──……」

   無言で後方の葉月の方を一瞥する



  *   *   *


◯学食、席スペース



葉月「…っいしょっと──」

   食事の乗ったトレーをテーブルに置き、席に座る


久弥「なんで来んだよ」

   鬱陶しそうな表情で、隣席にやって来た葉月を見上げる


葉月「ちょうど上がりだったんだよ」


久弥「だからって

 なんで ここなんだよ」

   周りの空席を見遣りながら

久弥「こんなに空いてんのに」


葉月「いいだろ 別に」

   言いながら手を拭くなどして、食事を摂る準備をする


久弥「──……」

   不服そうに無言で首を振る



久弥「なんで無駄に絡んでくるんだよ」


久弥「まだ“名前の呪い”にでも

 罹ってんのか」


葉月「(顔を顰めて)はあ?

 違うよ」


葉月「それは きっかけってだけ

 ただ単純に──」


   久弥の方を見て、何気ないトーンで

葉月「何となくお前が気になるから」


久弥「──……(葉月の顔を見つめる)」



葉月「名前なんて所詮

 記号でしかないだろ?」

   スプーンを手に持ったまま話す


久弥「記号って?」


葉月「んー…

 ただのラベルっていうか…」


葉月「ほら──」

葉月「名前だけ見て──」


葉月「この名前だから いい人とか

 この名前は悪い人だとか──」

葉月「そんなこと思わないだろ?」


久弥「そりゃな」


葉月「そういうこと」


葉月「そんな“外っかわ”だけで──」

葉月「人に対する見方なんか

 決まんないよ」


久弥「──……」

   葉月の横顔を見つめる



久弥「意外とまともなんだな

 “入瀬”って」


葉月「おい!

 って…」


葉月「(軽く笑って)そっちこそ

 覚えてくれてたんだ?」


   正面を向いたまま、淡々としたトーンで話す

久弥「変わった苗字だし──」

久弥「いきなり人のこと

 ジロジロ見てくる変わった人だなって──」


久弥「だから記憶に残ってた」


葉月「なんだよ それ…(不服そうに)」


葉月「まあ いいよ」

葉月「それよりさ

 下の名前で呼んでよ」


久弥「(怪訝そうに)は…?

 なんで?」


葉月「っ…(笑って)

 “なんで”?」

葉月「そういうのに

 理由とかって必要?」


久弥「──……」

   葉月を見つめる



   正面に向き直って

久弥「すごいな」

葉月「え?」


久弥「理由もなく人とこんな

 親しくなろうとする奴なんているんだ」


葉月「──……」

   不思議そうな顔で、久弥の横顔を見つめる


葉月「どういう意味だよ」

久弥「さあ」


葉月「じゃあ お前は?」

葉月「どういう理由があれば

 人と仲良くなろうと思うの」


久弥「──……」

   はたと葉月の顔を見る


久弥「…俺は──」

葉月「──……」


久弥「分かんないけど…(口ごもる)」



久弥「でも 人なんて

 大概そんなもんでしょ」


久弥「自分にとって──」

久弥「何かしらのメリットがあるから

 仲良くなろうとするもんなんじゃないの」


葉月「……」

   話す久弥の横顔を見つめている


葉月「そう?(何気ないトーンで)」


久弥「うん」


久弥「俺はそう思ってる」



葉月「まあ じゃ俺は──」

久弥「…?(葉月の方を向く)」


葉月「(ニッと笑って)その“大概”以外の

 例外ってことで」


久弥「──……」


葉月「単にお前に興味を持ったから

 仲良くなりたい」

葉月「それでいい?」


久弥「──……」

   葉月の顔を見つめる



葉月M「おかしいのかな


 最初は“いけすかない奴”だなんて

 思っていた人間と

 親しくなろうとするなんて


 でも例え きっかけが──


 どんなものだろうと

 マイナスなものだったとしても…


 それが すべての始まりになったって──


 悪かないだろ?」



   プイと葉月から視線を外して

久弥「…いいから食べたら?

 冷めるよ」


葉月「ああ そうじゃん!」

   慌てて手を合わせて

葉月「いただきます」


久弥「──……」

   そんな葉月の様を横目で見ている



久弥M「…変な奴

 やっぱり──


 第一印象は間違ってなかった


 “大概以外の例外”って?


 そんな妙なところに

 納まりにこようとするなよ


 人なんて所詮みんな同じだろ


 “特別な枠”なんて作りたくない

 そんなの──


 ややこしくなるだけだよ」



【1-3】———————————————————————————


◯屋外、キャンパス内の道(夕)



   葉月と久弥、ふたり並んで歩いている



葉月「なあ──」


葉月「“仲良くなりたい理由”って?

 “メリット”って──」


葉月「例えば どんなこと?」


久弥「──……」

   葉月の方を見る


   葉月から視線を外し、正面に向き直って

久弥「さあ──」


久弥「金貸してくれるとか?」


   予想外の返答に思わず足を止める葉月

葉月「(顔を顰めて)はあ?

 なんだよ それ」

葉月「ただのクズじゃん」


久弥「っ…(笑って)」

久弥「(笑いながら)“クズ”って…」

   久弥も同様に足を止め、その場で話を続ける


久弥「俺の友達のこと

 そんな こき下ろさないでよ」


葉月「え?」


葉月「なにそれ

 実体験てこと?」

久弥「うん」


葉月「(不愉快そうに)…クズじゃん」

久弥「はは──

 だから何回言うの」


葉月「ちゃんと返してもらったの」


久弥「いや?」

   事もなげに

久弥「あとちょっとで

 1年ぐらいじゃない」


葉月「マジかよ…」


葉月「なんで?

 催促は? したのかよ」


久弥「(笑いながら)別に──」

久弥「そんな数十万とかじゃないし」


久弥「1万ぽっちだから」


葉月「マジかよ!

 “万”かよ…!」


葉月「そんだけ借りて そんな放っとくか?

 フツー…」


葉月「“なるはや”で返そうってするだろ

 フツーはさ」


久弥「そう?」

葉月「そうだよ…」


久弥「──……」



久弥「でもさ──」


久弥「そっちの方が多数派じゃない?

 こっちのが“例外”なんだよ」


葉月「え…?」


久弥「誰かへの借りとか

 誰かにしてもらった恩とか──」

久弥「そういうの…」


久弥「“絶対いつか返そう”って──」

久弥「そうやって覚えてる

 人間の方が稀なんだよ」


葉月「──……」


久弥「だから──」


久弥「返してくれないことに

 ショック受けてさ」


久弥「返してもらえるもんだって

 期待してたこっちの方が──」

久弥「端からおかしいって話」


葉月「──……」

   久弥の横顔を見つめている



葉月「…なんで そうなるんだよ(釈然としない顔)」


久弥「──……(葉月の顔を見る)」


久弥「だって──」


葉月「…?」


葉月「“だって”?」


久弥「っ…(微かに笑って)」

久弥「──……(無言で首を振る)」


久弥「何でもない」

   言って再び歩き始める


葉月「──……(先を歩いていく久弥を見つめている)」



葉月「っ…(ため息)」

   軽く息を吐き、久弥を追うように再び歩き始める



久弥M「だって──


 これまで ずっとそうだったから


 誰かと親しくなる度

 期待してしまう


 いつか自分も──


 相手に同じだけ

 思ってもらえるんじゃないかって


 でも──


 そんな風に他人(ひと)に期待するのは

 “欲深い”ことなんだよな


 期待なんかしちゃいけない

 こっちが重過ぎるだけなんだって


 もっと──


 “適当”に生きていくべきだ

 誰もそんなに──


 他人(ひと)のことなんか

 真剣に思って生きちゃいないんだから」



久弥M「そうやって

 “適切な程度”で生きていけたら


 どんなにか楽だろう


 俺は“おかしい”方の人間だから──


 誰かを想う度

 重くなり過ぎてしまうから──


 なら 最初から近付かなければいい

 この距離を──」


   久弥と葉月、ふたり並んで歩いている背中のショット


   久弥、徐に葉月から数歩ほど離れる


久弥M「これ以上詰めなければいい」


   ×   ×   ×

   (回想)

   学食にて、食事を前に話しているふたり

   葉月「じゃ俺は──」

   久弥「…?」


   葉月「その“大概”以外の

    例外ってことで」


   久弥「──……」

   ×   ×   ×


久弥M「だから嫌だ “例外”なんて

 特別な枠は作りたくない


 これ以上──


 必要以上に

 俺に踏み込んでこないで


 きっとまた同じ様に──


 勝手に重たくなって

 そのうちには──


 自分でも自分の重さが嫌になって


 自らの重さで潰れてしまう」



久弥「じゃ」

   校門前まで来たところで、唐突に別れを告げる


葉月「え?」


   久弥、さっさと横道へと歩いていく


葉月「おい

 どこ行くの」


久弥「帰る」

   振り向かないまま、背中越しに返す


葉月「方向どっち…」


   久弥、背中越しに軽く手を振り、無言で歩いていく


葉月「っ…」

   引き止めようとするも、言葉が出てこない



葉月「──……」

   去っていく久弥の背中を見つめている



【1-4】———————————————————————————


◯大学、学食(昼)



葉月「はい いらっしゃいませ〜」

   いつも通り、カウンター前でアルバイトに励んでいる葉月


久弥「──……」

   トレーを手にカウンターにやって来る久弥、葉月の姿を認め、思わず静止する



久弥「別にお前の店じゃないだろ」

葉月「いや マニュアルの挨拶だよ」


久弥「っ…(ため息)」


久弥「面倒くさいな」

久弥「ここに来たら

 必ずお前に会うことになるんじゃん」


葉月「そうだよ

 しょうがないだろ」


久弥「はあ…(ため息)」


葉月「ため息なんか

 吐いてくれるなって」


久弥「いいから早くしてよ

 生姜焼きね」

葉月「っ…(ムカッとして)

 お前な」


葉月「生姜焼きひとつ!」

   後方の厨房を振り返り、オーダーを通す

おばさん「は〜い」


葉月「──……」

   正面に向き直り、一瞬考える



葉月「お前 俺のこと変わった奴だって

 言ったけどさ──」

久弥「──……」


葉月「お前も十分変わってるよ」

久弥「…?

 どこが?」


葉月「“変わってる”っていうか…

 “変”?」

久弥「それって何か違いあんの?」


葉月「うーん…

 微妙に? ニュアンス?」

久弥「──……」


葉月「まあ とにかくさ──」


女子「──あの!(怒った声)」

   女子生徒の呼び掛けによって、葉月の言葉が遮られる


葉月「へ…?」


   久弥の後ろに並んでいる女子生徒、怒りを露わにする

女子「後ろ!

 詰まってます…!」


葉月「ああ…!

 すみません…!」

久弥「っ…(申し訳なさそうに会釈する)」


久弥「…ほら」

葉月「いいから…!」

   バツが悪そうに、小声で悪態を吐き合うふたり


  *   *   *



   久弥と葉月、向かい合ってテーブルに座り、食事を摂りながら話している


久弥「それで?

 俺のどこが変なの」

葉月「ああ そうそう」


葉月「だってさ──」

葉月「こんなイケメンで

 シュッとしててさ──」


葉月「もっと そのビジュアル活かして──」

葉月「適当に上手く生きてんのかと

 思ってたのにさ」


葉月「友達に金返してもらえなくて──」

葉月「ショック受けてるとかさ…」

   言いながら、しゅんとなる


久弥「──……」

   俯いている葉月を見つめる


久弥「“笑える”?」


   パッと顔を上げて

葉月「は?

 笑えねえよ…!」



葉月「俺がお前だったら もっと──」

葉月「胡座掻いて…

 調子乗って生きてたと思うよ(勿体ない、悔しく思う気持ち)」


久弥「っ…(笑って)」


久弥「てか──」

葉月「?」


久弥「“外っかわ”では人のこと

 決め付けないんじゃなかったの」


葉月「だから決め付けてはないって」

葉月「(少しバツが悪そうに)そうなのかなって…

 勝手に想像してただけだよ」


   久弥の顔を見て

葉月「それで違うって分かった」


   視線を落として

葉月「俺の想像の50倍ぐらい──」

葉月「不器用っていうか…

 真面目に生きてて──」


久弥「──……」


葉月「だから“変わってんな”って

 “変な奴”って──」


   顔を上げ、久弥を見て

葉月「そう思った

 お前のこと」

久弥「──……」



久弥「引いたの?

 想像と違くて」


葉月「(笑いながら)まさか

 なんでだよ」


葉月「真面目に生きてんだから」

葉月「いいことでしかないだろ」


久弥「……」



久弥「そうか?」

久弥「それと向き合う身になったら──」


久弥「面倒くさいとしか

 思わないかもよ」


葉月「──……(久弥を見つめる)」



葉月「そうかな…?

 少なくとも俺は──」


葉月「それはお前の

 いいところだと思うよ」

葉月「例えそれが…」


葉月「“例外”なんだったとしても」


久弥「──……(葉月を見つめる)」



久弥「もしも お前が俺だったら?」

葉月「ん?」

   食べ物で頬を膨らませたまま、キョトンとして


久弥「“胡座掻いて

 調子に乗って生きてた”って?」

久弥「例えば どんなことすんの」


   水を飲んで胸を叩き、食べ物を流し込んで

葉月「“どんなこと”?

 …うーん」


葉月「同級の男子にも“たかる”」

葉月「こうやって おねだりして」

   手を組んで首を傾げる、可愛らしくポーズを取ってみせて


久弥「っ…(笑って)

 バカかよ」


葉月「奢りたくなんない?」

久弥「なんない」


   笑い合うふたり


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