第29話 変化

 5階のベランダでイルが脳豆を食べてから数時間経った朝。


 早朝、ガランさんとビクタルさんの大きな声での会話で目が覚めた。

 よく眠れたか?と言うと、帰って来てからガランさんと、ビクタルさんのイビキが凄くて寝つくのは遅かった…。

 なのに、その二人は朝っぱら起きて二人で意気投合して風呂まで行って来たらしい。


 ヴィルトスさんも、大きなあくびをしている所を見ると、多分僕と同じだったみたいだね…ははは…。


 そして宿の食堂で8人は揃った。

 朝食は何かの卵料理と少し硬いパンと、スープに果物。

 この宿が提供していると言う事は、この世界で言えば良い朝食なのだろう。


 イルメイダはいつものように、七羽の隣に座る。


「おはよう、イル」

「うん、イロハさんおはようございます!」

「なんか調子良さそうだね?」

「はい、あの脳豆のお陰なのか、ぐっすり寝れて目が覚めたら凄く身体が軽かったんです。それと…」

「それと?」

「あああ…何でもないです」


 イルメイダはそう言って着ているシャツの胸の辺りを抑えた。

 七羽はそれが気になり、つい目が胸の方に行ってしまった。


 その目線に気付くイルメイダ。


「あわわ…あまり見ないでくださいイロハさん…」

「ああ…ごめん…」

「……いえ…なんかいつもの服着たら、なんか胸元がキツくって…私太ったのかな?なんて…」


 そう言われたら、つい見てしまうじゃないか…。

 2度ほど、ちらっと横目で見たけど、別に太ったようには見えない。

 むしろ、出る所は出て締まる所が締まった感じに見える。


「あん?何、朝から、イチャついてんだお前ら?」


 対面に座っていたガランが、七羽とイルメイダを見てそう言った。


「「イチャついていません!!」」


 2人は同じ言葉を同じタイミングで言った。

 その声で、皆の視線が集まった。


「あははは…いや何でもないから…ね?」

「もう、ガランさん変な事突っ込まないでくださいよ!」

「全く…ガランったらデリカシーの欠片もないわ」

「おい、チーヌ!誰がデリカシーがないんだぁコラ!」

「朝からやめんかい。お主らも」


 最後にビクタルが場を制し、皆、気にも留めない感じに戻り、運ばれて来た朝食に手を付けた。


 しかし…体の変化と言えば…やっぱ脳豆のせいだよな…。

 僕も3つ食べて目覚めた時、有り得ないくらいの体つきになっていたからなぁ…。

 多分だけど、体調も調子が良いと言っていたし、イルにもその効果が出たんだと思うな。


 そこで、七羽は朝食を頬張りつつ、イルメイダを鑑定してみた。


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 イルメイダ・アーグラエル

 エルフ女性

 34歳

 脳覚醒率 14%


 体力: 18⇒29

 魔力: 33⇒51

 筋力: 11⇒23

 知力: 29⇒45

 器用: 15⇒28

 敏捷: 22⇒36


 能力: 鑑定 次元箱 身体強化 剣術+2 弓術+2 水魔法+2 風魔法+2 

     火魔法+1精霊術


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 うわぁ…、半日経って、な…なんか変わってるぞ。

 前には無かった、脳覚醒率が映し出されてる。

 しかも14%って僕より2%も高いじゃないか…まあ、歳も倍だし、魔物のいるこの世界では身体を常時鍛えるから、そうかも知れないけど…。


 流石エルフだ。筋力とか体力は10くらいしか上がってないのに対して、知力と魔力が1.5倍にはなってる。ん?…鑑定も身に付いているみたいだけど…これって僕の鑑定と一緒なのかな?、後は弓術などについている+2とかの定義はなんだろうか?勿論、数字が多い方が良いのだろうけど。


 まあ、細かい事は良いとして。…脳豆はこの世界の人にも効果があったって事だ!。


「ねぇ…イロハさん…あんまり見ないで下さいよ。また変に思われますよ…」

「ああ。ごめん、今、イルを鑑定で見てた所だった」

「え?…それでどうでした?」

「うん、まあ…後から話すよ」


 とりあえず、朝食に集中してお腹を満たした。


 ◇


 朝食を終え、8人は魔狩人協会へ向かう。

 その道中、イルメイダに七羽は鑑定結果を伝えた。


「そ、そんな凄い事になったのですね…でも、強くなったって事ですから私は嬉しいです」

「多分、服がキツイって言ってたけど、それは僕の体験と一緒だと思う。僕も脳豆食べた後、身体の筋肉が異常に発達して腹筋とか、今は割れてるしね」

「つまり。脳覚醒をした際、その覚醒に伴うように身体の方も造り変えられたという事なのかな?」

「多分、それで合っていると思う。ただ…今は伸びしろがあったから、脳が変化させたとして、伸びしろが無くなった場合…」

「イロハさんの言う事が分かったような気がします。身体を鍛えていないと、無理やり覚醒させた脳とのバランスが悪くなってしまうって事かしら?」


 イルの言った通りだ。

 オルキルトさんの本にも身体を鍛えてから食すようにと記述があるように、それはそう言う事だと思う。


「うん。後さ、イルのステータスに鑑定って能力スキルが追加されていたんだ」

「え?鑑定ってイロハさんが見るだけで、人やアイテムの詳細が見えるやつですか?」

「うん、ちょっと、僕を調べるように意識して鑑定して見てくれる?」

「はい!」


 イルメイダは一歩下がって歩き、七羽を仰視する。


 鑑定、鑑定…イロハさんを調べるように…。

 あ!何か見えて来た…


 イルメイダは目の前には七羽のステータスが浮かび上がって見えた。


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 宝杖七羽

 人間男性

 17歳

 脳覚醒率 12%


 体力: 62

 魔力: 30

 筋力: 66

 知力: 55

 器用: 60

 敏捷: 64


 能力: 鑑定 身体強化 水魔法 光魔法 火魔法 

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「見えた!!」

「む?」

「なんじゃ?」


 イルメイダの声で、前を歩いていた他のメンバーが振り返る。


「ああ…、済みません…な、何でもないです…」


 イルメイダは必至でそう言ったら、また前を向いて皆、歩き出した。

 そして、イルメイダは、七羽の横に並び歩調を合わせて歩く。


「上手く行ったみたいだね?」

「はい。イロハさんのステータスなんか凄いですね。今、自分のと見比べてみたんですけど…なんか、魔力以外凄いと言うか…」

「僕もよく分からないけど、僕はすでに脳豆を4つも食べているし。種族の差ってのもあると思うよ」

「種族の差ですか…」

「後ね。そこの商人のような人を鑑定してみると分かると思うけど、普通の人間って全てのステータスが10前後なのが一般的みたいなんだ」


 イルメイダは周りの人を鑑定して見る。


「あ、ほんとですね。そのへんの魔狩人さん達でも、筋力30超えてる人って早々いないもんですね…」

「うん。そう考えると僕は異常すぎると思わない?」

「確かに…、イロハさんの筋力66って、一般的な魔狩人さん達の倍もありますね…」

「うん。僕の推測だと、それは脳豆が凄いんだと思う。無駄な部分は全くなく底上げするようなアイテムって事。イルのステータスも1個食べて半日で1.5倍になるなんて異常過ぎだよね…」

「そうですよね…普通、そこまで身体を鍛え上げるって1~2年はかかりそうですものね…」

「うん。僕らの身体って、脳が凄く密接に関係しているのかも知れないね。身体は頑張って鍛える事は出来ても、脳って鍛えること出来ないからね…脳豆自体が反則なアイテムなんだよね…」

「そうですね。凄く何か考えさせられますね」


 そうイルメイダが言った時、魔狩人協会へ着いた。


「さて、迷宮迷宮っと!ガハハ!」


 ガランはそう言って中へ、一番乗りで入って行く。

 皆もそれに続いて中へ入って行った。


 ◇


 =応接間=


 そこには、町長ホロウェイと、ここの総支配人ミロクが待っていた。


「おはよう御座います。もうすでに迷宮遺跡は教会の管理下で厳重に固めていますので、後はイロハ殿が遺跡を解放してくれるだけの手はずとなっております」


 ミロクはそう言った。


「ならさっさと行って、迷宮の中に入らせて貰おうぜ!!」


 ガランは立ち上がりそうイキる。


「威勢が良いですな。ほっほっほっほ、昔の儂のようじゃい。儂の昔の話をしようかの?あれはお主達のような歳…」

「ごほん!!ホロウェイ爺!」

「む…ああ…では、行って来ておくれ」


 ミロクがホロウェイの長くなりそうな話を打ち消してくれた。

 これ…毎回やっているのではなかろうか…。


 ◇


 ミロクの案内で僕達は迷宮遺跡へ向かう。

 道中、僕とイルは他のメンバーの後方を二人で歩いていた。

 そして気になるメンバーのステータスを一人ずつ鑑定して行った。


 まずは先頭を進むガランさんを鑑定した。


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 ガラン・ドールズル

 銀狼種、獣人男性

 33歳


 体力: 112

 魔力: 17

 筋力: 103

 知力: 23

 器用: 60

 敏捷: 46


 能力: 斧術+2 剣術+2 盾術+2 身体硬化  

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 うわぁ…こりゃ強いや。

 筋力が普通の人間の10倍もあるじゃないか…。

 身体硬化ってなんだろう?硬くする事が出来るのかな、獣人って。

 そして意外と若かったのね…ガランさん。


 さて、他のメンバーも見てみよう。

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