第10話 脳豆

 世界樹の木の上から持って来た本を、メイ婆さんとイルメイダのいる前で開いた。


「これは…」

「んん?」


 七羽いろはは、文字を読み上げる。


「この本は、まあ、つまりスタートアップのために私が準備した物だ、遠慮なく使ってくれ…」


 七羽がそう読むと。


「イロハ?あたいらには白紙に見えるんじゃが…?何か書いてあるのかえ?」

「え?…これ見えないの?」

「うむ…」

「白紙に見えますね…」


 2人はそう言って首を傾げた。

 この本もどうやら使用者にしか見えない仕様になっているみたいだ。


「そう…じゃあ読み上げるね」

「うむ」


 2人は頷いた。

 七羽はこれを口に出して読んだ。


「私の日記を読んでこれを見つけたのだろう。この本の最後に3つの脳豆を入れてある。これを食す事で脳は活性化し脳、身体と共に強くなるだろう。」


「ほう…脳豆とは…なんじゃろうか?」

「…食すと強くなるんですって」


 2人がそう口を挟んだ。


「それは後から説明するね」


 続けて読み上げた。


「日記でも説明したと思うが、この世界に来て直後の貴方の脳覚醒率はあっても10%くらいだろう。この脳豆1つで大体1%覚醒するが、気を付けて欲しい事がある。脳豆は無理やりに脳の細胞などを活性化させる危険な物だ。最初の2つ3つくらいは問題な食せると思うが、その後は、ちゃんと身体を鍛えから使用して欲しい。」


 なるほど…そう言えば。メイ婆さんが最初に渡してくれた本にも、地球の本屋で立ち読みした時も、そんな事書かれていたような気がする…。確か、身体への負担がどうとか…


 その後は「貴方の検討を祈る」と記されていただけだった。

 パラパラとページを捲ると、メイ婆さんから渡された最初の本と同じトリックアートのような四角い箱のような絵が描いてあり、その中に脳豆が3つ入っていた。


 もう僕は1つ脳豆を食べている。

 ここに3つあるからこれで4%脳を覚醒させることが出来るはずだ。


 ただ気になるのは…ここに書いてある、オルキルトさんの注意書き。

 僕は最初8%の脳覚醒率だったけど、1つ食べて9%になっている。

 たった1%でも、あれだけ感覚が研ぎ澄まされたんだ…4%あがったらどうなるんだろう…?


 しかし…

 10%の人を基準に書いてあって3つまでは最初に食して大丈夫って事は、僕がこの3つを食べても12%って事だから、食べちゃっても大丈夫なのかな?


「どうしたんんじゃい、イロハ?」

「ん?…ああ…ごめん。考え事してました」

「イロハさん、その脳豆って何ですか?」

「うん、脳豆って言うのは、この世界の使用者…つまり僕だけにしか見えないアイテムの事なんだ」

「ほう…確かにその単語は日記にも出ては来ていたが何の事やら分からなんだが…」

「アイテム…ですか?」

「うん、それを食べると僕は強くなるみたいで」


 本を一度閉じて僕は語った。


「つまり、この世界は僕のような使用者を強くする為に作られた世界なんだ。だから、その為のアイテムがこの世界に散らばっているって事みたいなんだ」

「その為に作られた世界…ですか…」

「ふむ。あたいらは、その副産物として創造されたわけか…なんとも複雑な気分じゃのう…」


 2人は考え込んでしまった。


「イロハさん…」

「ん?」


 イルメイダは深刻そうな顔をして僕を見て尋ねた。


「イロハさんが、脳豆ってアイテムで強くなってこの世界を去る時…私達はどうなってしまうのですか?」

「…今の所は、どうもならないとは思うよ?…少なくとも僕が生きているうちはって事になるけど…」

「ふむう…イロハは人間じゃ…精々長くても100年。その後、また使用者がやって来る時、それがどうなるかじゃな?」


 暫く沈黙の時が3人の間を流れた。


「うん。メイ婆さん、イル。大丈夫、僕がそれはさせないよ、まだ今は思いつかないけど…その時が来たらこの門の世界を僕が何処かに隠してあげるさ、誰にも見つからない何処かへね」


 2人とも七羽を見た。


「そうじゃな…唐突に真実を知ってしもうて、いろいろと混乱したが…どうにもならん事もあるでなぁ…」

「そうね…イロハさんに強くなって、生きていて貰わないといけませんわね!私を超えるくらい先ず強くなって貰いませんと!んふふ」

「うん、お手柔らかに頼むよイル」

「はい!」

「ああ、そう言えば今日は僕が昼食作ってあげるよ!」

「え!?イロハさんが作ってくれるんですか?」

「うん」


 最近、いろいろと忙しくて結局、地球から持って来たカレーの材料そのままだったんだよね。


 ◇


「何これーーーー!!すっごい美味しい!」

「ふむ。何かピリッとしていて、元気が出そうな食べ物じゃのう」

「うんうん、そしてこの米…すっごく白くて、甘くて美味しい」

「二人とも気に入ってくれたようで良かった」


 カレールーは普通の固形ルーだし、定番のカレーだけどね。

 僕もこのカレーが一番、安くて美味しいと思っているんだ。


 地球のカレーは2人とも満足して頂けたようだった。


 食器を片付けて、僕はまたさっきの本を開く。

 脳豆が3つ。

 これを食べると強くなるんだ。

 今よりも強くなりたい…

 1%であれだけ変化が感じられたんだ。

 これを3つ食べたら脳覚醒率は12%になる、オルキルトさんの本では13%までは最初でも大丈夫って書いていた…どうする?食べてみるか?…


 よくあるゲームのスタートダッシュアイテムみたいな物だと思うし。

 大丈夫だ…大丈夫。


「メイ婆さん…イル?」

「はい?」

「今からイル達には見えないこの脳豆を食べようと思うんだ」

「ふむう」

「何かあったら…よろしくね」


 2人は顔を見合わせて僕をみた。


「じゃあ…ふう…」


 ガリリ…コリコリ…ゴクン。


 3つ食べて。

 最後に水を飲んた。


「ん?何もおこら…が!!」


 暫く何も起こらなかった身体が急に痙攣し。

 頭が割れるような激しい痛みが七羽を襲った。


「ぐあああああああああ!痛い!!」


 七羽は頭を抑え込み椅子から転げ落ちる。


「イロハ!!」

「イロハさん!!!」

「イロハ!!!!」

「イロハさん!!!大丈夫ですか!!!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 2人の声が遠くなっていくのがわかった。


 ◇


 ・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・


「ん?…」


 七羽は気が付き目を薄っすらと開けた。


「ここは…?」


 カタン。


 イルメイダが、器に水を入れ部屋に入って来て、それをテーブルに置く。


「イル?…」

「!?」


 イルメイダはイロハが起きている事に気付いた。


「イロハさん!!お婆様!イロハさんが気付きました!」


 イルメイダは大きな声でそう叫び。

 その声で頭が少しズキっとした。


「イル、もう少し静かな声にしてくれる?」

「あ!ごめんなさい…イロハさん大丈夫ですか?」

「うん…あれからどうなったの?」

「イロハさん、脳豆を食べた後、痛みで床を転がりまわって、失神してしまって…」

「失神?…」

「それから5日寝ていたんですよ?…」

「え?…5日?…そんなに?」


 イルメイダは頷いた。


「イロハ!!大丈夫か!?」


 バタバタとメイ婆さんが入って来た。


「お婆様、大きな声出さないで」

「ああ…すまん…」


 2人は僕の隣に座った。


「気づいてくれてよかった…」

「うむ…一時は死んだのかと思ったわい」

「ごめんなさい…心配かけたようで」


 起き上がろうとすると、全身が筋肉痛のような感覚で痛かった。

 何とかイルの手助けを借りて起き上がった。


「ん?…」


 自分の身体に違和感を覚えた。


「イロハさんが失神して、着ていたシャツがキツそうだったから、私が切って脱がしました…、それでまたこの部屋にあったオルキルト様の服に着替えさせたんです」

「ああ…いや服の事じゃなくて、なんか違和感…」

「え?」


 自分の身体を触る七羽。


「!?」


 上着を脱いでみると。


「えええ…何これ…」


 厚い胸板、六つに割れた腹。

 無駄な脂肪がないくらい筋肉が浮き出ていた。

 普通の身体だった七羽の身体は見違えるほど、鍛えられたような身体に変化していたのだ。


「ほう…凄い体つきになったものじゃな…」

「これは一体…」

「仮説じゃが、その脳豆って物で脳が覚醒し、それに耐えられる身体を脳が勝手に作り上げた…と、いった所じゃろうな」


 七羽はオルキルトの服をまた着た。


「凄い…それに…頭がスッキリしたような気がする」

「それは、あたいの孫のキスのお陰ではないかの?」

「へ?…」

「あわわ…何言ってるんですか!?お婆様!、あれは寝ているイロハさんにお水を飲ませてあげただけです!」

「水?…」

「別に、口移しでなくても、水は飲ませられたじゃろう?しししし」

「ち…違います!、ほら…いきなり冷たい水だと…ほら…ってもう!」

「しっしっしっし。まあ、そう言う事にしておこうかの?」

「お婆様!!」


 ははは…イルに口移しして貰えたなんて、何だか分からないけど、得した気分だ。

 一時は、本当にどうなるのかと思ったけど…

 とりあえず生きているみたいだ…



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 後書き。

 まだまだ序盤でファンも少なく。

 評価もあまりありませんが、読んで貰えた方、どうぞよろしくお願いいたします。


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