第12話

前日に引き続き体育祭の練習に向かう。


「ねー、彩美もヨッシーの呼び方変えたらー?」

「大丈夫です」

「えー?意識してるんじゃないのー?」

「してません」


俺は伊織と、前は五六さんと希月さんが並んで歩いている状態だ。


「…ヨッシーって京弥のこと?」

「だろうなぁ」


伊織は何があったんだという表情で俺を見てくる。

確かに、高校に入って殆ど女子絡みがない俺だ。

びっくりするのも無理はない。


「なんか色々あったんだよ」

「…落ち着いたら教えて。作詞の題材にする」

「……気が向いたら」


まぁ、伊織に教えることはないだろうな。

確実に希月さんに怒られる。


「ね!ヨッシーも彩美に呼び方変えて欲しいよね!」

「え、ええ?」


いきなり五六さんに話しかけられた俺は、言葉に詰まる。


「…どもりすぎ」


「どもりすぎです」


「うるせえよ」


前と横から同時に突っ込みを受ける。

希月さんはともかく伊織は絶対に俺と同じだろ。


「で、どうなのさ。ヨッシーは呼び方変えて欲しいの?」

「いやそんなことないけど」

「彩美!変えて欲しいだってよ!」

「言ってねえ……」


五六さんに弄られながらも、和気あいあいと練習会場に到着する。

このままの楽しい雰囲気で練習を開始できればいいが、そうはいかない。


練習場に着くや否やどんよりとした空気が、俺達一行を覆った。


「お前マジで今日は足引っ張んなよ」

「う、うん」


阪木が、目の敵にしている男子-大場君に暴言を吐いていたのだ。


「アイツまだ言ってんの?」

「…今は無視してていいですよ。早く行きましょう」


希月さんは早々とクラス全員を集め、今日の練習計画を話し始める。

今日は、前半にダンス練習を行った後、午後から種目別練習だ。


「今日は何事もなく終わればいいな」


楽観的だが、そうであって欲しいと小さな声で呟いた。


***


「はぁ…………」

「長いため息だね」

「そりゃそうなるでしょ」


学校の帰り道、昨日と同じように希月さんと一緒に電車に揺られる。


「ねぇ、あのバカ二人どうすればいいと思う?」

「もう無理だろ。同じ目に合わせるくらいしか」

「それが出来れば苦労しないって昨日言った」


酷く疲れた様子で、彼女は答えた。


午前の練習は、滞りなく進んだが、午後に問題は起こった。

昨日はまだ、『暴言』のうちにとどめていた松村と阪木だったが、今日は有形の行使にでようとしていた。


流石に今回は先生にバレて、最悪の事態にならずに済んだが、当たり前のように希月さんは呼び出され、怒られていたようだ。


「体育祭でこんな風に悩むなんて思わなかった。もし一人で悩んでたらと思うとゾッとするわよ」

「確かに。垢バレして良かったのかもね」

「……」


チラリと希月さんの方を見ると、少し頬を赤らめながらスマホを眺めていた。

まぁ、スマホの画面は真っ暗で電源は入っていないんだけど。


「「…………」」


二人の間に沈黙が流れる。

嫌な空気ではなく、どこかこそばゆいような雰囲気。


ただ、いくら空気が悪くなくても沈黙は気まづい。


「そ、そういえば週末の球技大会って何するの?」

「えーっと、ソフトボールだった気がする」

「…ふーん」


『ソフトボール』と聞いて、心臓が掴まれたような気分になる。

流石に実現出来ないだろうが、松村と阪木を勧善懲悪できるような方法が思いつく。


「どうしたの?いきなり真剣な顔になって」

「別に。希月さんは大変だなーって」

「そうよ大変なのよ」


俺は何となくモヤモヤした気持ちを抱えながら、彼女の隣で電車に揺られた。


【あとがき】

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