馬鈴薯を食らう

 先の「カレーが食べたい」という話で書いた、例の直売所みたいな所に行った。あの激……いや、たまたま私の舌に合わなかったカレーが売っていたあの店である。あの時は本当に悲しみに暮れた。翌日はカレーにしたし、その後インドカレー屋にも行った。カレー屋のマンゴーラッシーは最高に美味しかった。

 しかし今日はカレーが目的ではない。ただ物色するつもりで、私のお眼鏡にかなう何かがあれば買う気で来たのである。カレー以外で。


 前にも書いたが、農産物のほかにも弁当や惣菜も売っているので、そこそこ盛況な店だ。味噌や醤油、ドレッシング、菓子類なんかもある。

 とりあえず弁当と惣菜コーナーを見た。見事にカレーしか残っていない。もしかしなくても、私以外にも気づいた人間がいることを確信してしまった。

 惣菜は既に無く、早々に夕飯は作り置きで済まそうと私は決意した。一瞬の出来事だった。

 せっかく店に入ったのだし、野菜も見ていくことにした。一通りの野菜が置いてある。胡瓜、人参、玉葱、小松菜、トマト、キャベツ、そしてジャガイモが並べられていた。

 特にジャガイモは結構なスペースを割いて展開していたのか、スペースの広さの割に残っている数が少なくて逆に目を引いた。5〜6個のジャガイモが一つの袋に入れられていた。袋にはシールが貼られており、バーコードの他に生産者名が印字されている。よくあるやつだ。

 そして、そのシールの空きスペースに、赤いボールペンで文字が書かれているのに気がついた。


 北あかり


 ジャガイモに詳しくはないが予想はつく。これは品種名だろう。北あかり。きたあかり。キタアカリ。よくよく陳列されているジャガイモを見ると、形や色が微妙に異なることにも気が付いた。シールに書かれた赤いボールペンの字も、北あかりだけではなかった。どれどれ。


 男爵

 メークイン

 インカのめざめ


 ほうほう。これらは聞いたことがある。


 カルビーのポテトチップス


 

 ははあ。カルビーのポテトチップス。

 ……カルビーのポテトチップスってなんだ。

 赤いボールペンのインクは、確かにカルビーのポテトチップスと書いている。カルビーのポテトチップスってそのまますぎないか?そんな品種があるのか?しかも、カルビーのポテトチップスは他の品種より少し高い。20円くらいだが、カルビーのポテトチップスは強気だ。

 脳裏にいつだったかYouTubeを観てたら流れてきた、お手製ポテチを作る動画が再生された。夜中にポテチを作る罪深くも美味しそうな動画。このカルビーのポテトチップスで作ったら、カルビーのポテトチップスになるのだろうか。それなら作ってみたい気がするが……

 結局、その日はレジに持って行くことすら億劫なテンションになってしまい、店は眺めるだけで帰った。

 帰り道、カルビーのポテトチップス…買えばネタになったな…などと思いながら、公式サイトを眺めていると、ジャガイモのページを見つけた。

 カルビーのポテトチップスに使われているジャガイモの品種は複数あることを知った。専用に作ったものまであるという。企業努力がすごい。学びになった。


 そして今日である。三度私は店に行った。仕事を早く上がれたからである。

 めちゃくちゃ並んでいるカレーを横目に、野菜売り場をのぞく。するとあいつがいた。カルビーのポテトチップスと書かれたジャガイモが!

 選択肢は一択だった。ラスト一つとなっていたそれを手に取り、私はレジへ向かった。

 ニコニコで帰宅した。今、それはキッチンにある。ポテトチップスにするのがいいのだろうか。


 ところで、直売所に陳列されていた『カルビーのポテトチップス』と書かれたジャガイモは、『カルビーのポテトチップス』と書かれている以上のジャガイモ情報がなかった。

 しかし、カルビーのポテトチップスには、様々なジャガイモが使われている。公式サイトで見た通りだ。

 私の手にあるこれは、カルビーのポテトチップスに使われているジャガイモの一体どの品種なのだろうか。謎は深まるばかりである。

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