「アリシア……師匠?」
「呪魔法を教えて欲しい?」
「はい! セイレン陛下から直々に教えてもらいたくて!」
彼女はセイレンの前に跪き、目を輝かせてセイレンを見つめていた。
「お願いします、セイレン陛下! 私にも呪魔法を使えるようにしてください!」
彼女は両手を合わせて、熱心に頼んだ。
「私もセイレン陛下とアリシア様のように、人族と魔族の力を合わせて、素晴らしい呪魔法を使いたいんです!」
「まず陛下はやめてくれ、カイラ」
彼女の名前はカイラ・リー。彼女は元騎士団の一員であり、セイレンの忠実な部下だった。しかし、今はエデンヤードの住人として、セイレンと対等に接することができるはずだった。それでも、彼女はセイレンに対する敬意と憧れを隠せなかった。
彼女は剣術と魔術の両方に秀でており、戦闘ではセイレンの右腕として活躍していた。しかし、彼女はそれだけでは満足できなかった。彼女はセイレンとアリシアが見せる呪魔法の威力と美しさに魅了されていた。
「じゃあセイレン師匠!」
「師匠って……」
セイレンは苦笑しながらカイラに言った。
「カイラ、君はもう私の部下じゃないんだ。エデンヤードでは、人族も魔族も平等に暮らすんだ。だから、私に敬語を使ったり、陛下や師匠と呼んだりしなくていいんだよ」
「でも、セイレン師匠って呼ぶのが楽しいんです!」
「楽しいって……」
セイレンはカイラの言葉に困惑した。彼はカイラを部下としてではなく、友人として見ていた。だから、彼女に敬意を払われることに違和感があった。
「カイラ、君は私の友達だよ。友達同士で師匠とか呼ぶのは変じゃないか?」
「変じゃないですよ! むしろ、セイレン師匠と呼ぶことで、私はあなたに近づける気がするんです!」
「近づけるって……」
セイレンはカイラの瞳に真剣さと熱情を見た。彼女は本当に呪魔法を学びたいのだと思った。彼はカイラの気持ちを無視できなかった。
「分かったよ、カイラ。君がそう言うなら、私は君に呪魔法を教えてあげるよ」
「本当ですか!? ありがとうございます、セイレン師匠!」
カイラは喜びの声を上げて、勢いよく立ち上がった。
「でも、呪魔法を使うには、魔族との協力が必要だよ。君は魔族と仲良くなれるかな?」
「もちろんです! 私は人族も魔族も大好きです!」
カイラは明るく答えた。彼女はエデンヤードで暮らす魔族たちともすぐに打ち解けていた。彼女にとって、人族も魔族も同じ仲間だった。
「それならいいけど……」
「実はもう魔族の友達がいるんです!」
カイラはそう言って、ドアの方に走っていった。セイレンは首をかしげた。カイラの友達というのは、どんな魔族なのだろうか。
やがて、カイラが戻ってきた。彼女の後ろには、小柄な魔族の少年がついていた。彼は黒い髪と瞳を持ち、白いシャツと黒いズボンを着ていた。
「セイレン師匠、こちらが私の友達です。ニール・ユエと言います」
カイラはニールを引っ張って、セイレンの前に連れてきた。ニールは恐る恐るセイレンを見上げた。
「ニール君か。よろしく」
セイレンは優しく微笑んだ。ニールは驚いたように目を見開いた。
「あ、あの……よろしくお願いします……」
ニールは小さな声で挨拶した。彼はセイレンのことを知っていた。元アヴァロン王であり、元魔王アリシアと共にエデンヤードを設立した英雄だった。彼はそんな偉大な人物に会えるとは思ってもみなかった。
「ニール君はどうしてエデンヤードに来たの?」
セイレンは興味深そうに尋ねた。
「あ、あの……私は……」
ニールは言葉に詰まった。彼は自分の過去を話すのが苦手だった。彼は魔界で孤児として育ち、虐げられてきた。彼は強い呪詛力を持っていたが、自分に自信がなかった。
「ニールくんは私が助けたんです!」
カイラが代わりに答えた。彼女はニールの手を握って、嬉しそうに話し始めた。
「実は私、エデンヤードで迷子になっちゃって……そしたらニールくんが現れてくれて、道を教えてくれたんです! でもその時、ニールくんも迷子だったんです! だから一緒に探して……」
カイラはニールと出会った経緯を長々と話した。セイレンは苦笑しながら聞いていた。カイラは本当に人懐っこくて、魔族でもすぐに仲良くなれるようだった。
「そうだ、呪魔法を教えるならアリシアにも付き合ってもらわないとな」
セイレンはカイラの話を聞き終わると、そう言って立ち上がった。彼はニールに向かって笑顔で言った。
「ニール、呪魔法を使えるようになりたいなら、僕とアリシアの二人についてきてくれ。僕たちは呪魔法の使い手だから、教えることができるよ」
「本当ですか? あの、ありがとうございます……でも、アリシア様はどこに……」
ニールは恐る恐る尋ねた。
セイレンは苦笑しながら答えた。
「アリシアは今日はお茶でも飲んでゆっくりするつもりだって言ってたな。中庭にでもいるんじゃないか」
カイラはセイレンについて中庭に向かった。そこには、白いテーブルと椅子が置かれ、紅茶とケーキが並んでいた。その中央には、アリシアが優雅に座っていた。
「アリシア師匠、こんにちは!」
カイラは元気よく挨拶した。
「何、カイラ。私のティータイムを邪魔しに来たの?」
アリシアはそう言って紅茶を一口飲み、怪訝な表情を浮かべた。
「アリシア……師匠?」
「ええ、アリシア師匠。あなたはセイレン師匠と呪魔法を使えるんですよね。私も呪魔法を使ってみたいんです。だから、教えてください!」
カイラはアリシアにお願いした。
「呪魔法を使ってみたい? そんなこと言っても、呪魔法は人族と魔族が協力して初めて使える力なのよ。あなたには無理でしょう」
アリシアはそう言って鼻で笑った。
「無理じゃないです! 私にもきっとできます!」
カイラはそう言って胸を張った。
「ふん、では誰と呪魔法をを使うつもりなの? 私にはセイレンがいるから、あなたとはやりませんよ」
アリシアはそう言ってセイレンに視線を送った。
「ニールくんにお願いします! 私の友達の魔族の子です!」
カイラはそう言って目を輝かせた。
「ニールくんは私に助けられてから、とても仲良くしてくれます。きっとうまくいくと思います」
カイラはそう言って笑顔で言った。
「……まあ、試してみるのは構わないけど、呪魔法は簡単に使えるものじゃないからね。失敗したら大変なことになるかもしれないわよ」
アリシアはそう言って警告した。
「大丈夫です! 私は頑張ります! ニールくんを呼んできます!」
カイラはそう言って元気に走っていった。
「師匠って何?」
アリシアはセイレンに聞いた。
「え? ああ、カイラが勝手に呼んでるだけだよ。別に僕がそう呼べと言ったわけじゃない」
セイレンは苦笑しながら答えた。
「勝手に呼んでるだけ? どういうこと?」
アリシアは不思議そうに首を傾げた。
「実はね、カイラは最初、僕のことを陛下と呼んでたんだ。でも、僕は王をやめたから、それはやめてくれって言ったの。そしたら、じゃあ師匠って呼ぶって言い出したのさ」
セイレンは苦笑しながら説明した。
「陛下から師匠に変わるの? それってどういう理屈なの?」
アリシアは不満そうに眉をひそめた。
「そう呼ぶのが楽しいそうだ」
「あの子の考えはいつもよく分からないわね」
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