「あなたとキスしたくてしたわけじゃないわ!」

「愛の力だな」

セイレンがぼそっと放った言葉に、アリシアがキッとした眼を向ける。

「愛ですって?」


セイレンはアリシアの手を握って優しく笑った。

「ありがとう、アリシア。君がいなかったら、あの戦いは勝てなかった。君は私の最高のパートナーだ」


アリシアはセイレンの手を振りほどいて冷たく言った。

「ふざけないでよ。私があなたと協力したのは、ネビュラを倒すためだけよ。あなたなんかに感謝されても嬉しくないわ」


セイレンはアリシアの言葉に傷ついた様子は見せず、逆にからかうように言った。

「そうかな? でも、あの時、君は私にキスしたじゃないか」


アリシアは顔を赤くして怒鳴った。

「それは呪魔法を発動するための必要な手段だったのよ! あなたとキスしたくてしたわけじゃないわ!」


セイレンはクスクスと笑った。

「必要な手段だったとしても、君は私にキスしたことを後悔していないんじゃないか?」


アリシアはセイレンの目を見て言葉に詰まった。彼の目には優しさと愛情が溢れていた。彼は本当に自分を愛しているのだろうか? 自分も彼を愛しているのだろうか?

「あ、あなた……」

アリシアはセイレンに近づこうとしたが、その時、周囲から歓声が上がった。



「おお! 王様と魔王様が仲良くしてるぜ!」


「素敵だなあ。二人とも英雄だからね」


セイレンとアリシアは周囲の声に気づいて顔を見合わせた。二人はギガント討伐の祝宴会場にいたのだ。人族と魔族が一堂に会し、共闘の功績を讃え合っている場所だ。


「くっ……」

アリシアは恥ずかしさで顔を背けた。

「こんな場所で……何考えてるのよ……」

セイレンはアリシアに囁いた。


「君が考えてることと同じだよ」

アリシアはセイレンの言葉にドキッとした。彼は自分の心を読んでいるのだろうか? それとも、自分が彼に惹かれていることを見透かしているのだろうか?


「あなた……」

アリシアはセイレンの目を見つめた。彼の目に映る自分はどんな表情をしているのだろう? セイレンはアリシアの唇に近づいた。彼は自分にもう一度キスしようとしているのだろうか?


二人の距離が縮まりそうになったその時、突然、大きな音が鳴り響いた。

バーン!

祝宴会場の天井から花火が打ち上がった。色とりどりの光が空を彩り、会場には歓声と拍手が沸き起こった。



「わあ、きれい……」

アリシアは思わず花火に見とれた。彼女は花火を見るのが好きだった。魔界ではなかなか見られないものだからだ。


「君もきれいだよ」

セイレンはアリシアの耳元で囁いた。彼は花火よりもアリシアに目を奪われていた。彼女は花火に照らされて、まるで天使のように輝いていた。


「あなた……」

アリシアはセイレンの言葉に顔を赤くした。彼は自分を褒めるのが上手だった。それに、彼の声が心地よくて、耳がくすぐったかった。セイレンはアリシアの唇に近づいた。


二人の距離が縮まりそうになったその時、またしても大きな音が鳴り響いた。

バーン!

今度は祝宴会場の入口から花火が打ち上がった。赤と青と白の光が空を彩り、会場には驚きと歓声と拍手が沸き起こった。


「おお! これはすごいぜ!」


「これは王様と魔王様へのプレゼントだな」


「誰が仕掛けたんだろう?」


セイレンとアリシアは入口の方を見やった。そこには、人族と魔族の代表者たちが笑顔で立っていた。



「おめでとうございます、王様と魔王様!」

人族の代表者であるアヴァロン・レイン王国の宰相ハロルド・グラントが声を張り上げた。

「この花火は、あなた方への感謝と祝福の気持ちを込めて、私どもが用意したものです」


「そうですよ、おめでとうございます!」

魔族の代表者であるイシュタラ・ノクターナ帝国の大臣エルザ・ベルガモットが続けた。

「あなた方は、ネビュラを倒して世界を救っただけでなく、人族と魔族の和平と友好を築いたのですよ」


「あなた方は、人族と魔族の架け橋となった。それに、あなた方は、お互いに惹かれ合っているじゃないですか」

ハロルドが続けて言った。


「ええ?!」

アリシアは叫んだ。

「お、お互いに惹かれ合ってるなんて、誰が言ったの?」


「言わなくてもわかりますよ」

エルザが言った。

「あなた方は、目を合わせると照れて、手を繋ぐと赤くなって、キスしようとすると花火が邪魔して……」


「キスしようとする?!」

アリシアは顔を真っ赤にして否定した。

「そんなことはありません!」


「ありますよ」

ハロルドが言った。

「私どもは、あなた方の仲を応援しています。だから、この花火は、あなた方への祝福の意味もあります」


「祝福?!」

アリシアは呆然とした。

「祝福って、何を?」


「それはもちろん……」

エルザが言って、代表者たちと一緒に大きな声で叫んだ。

「あなた方の結婚を祝福するのです!」


「結婚?!」

アリシアは驚愕した。代表者たちはニコニコしながら言った。

「そうですよ。結婚です。あなた方は、王様と魔王様であり、英雄であり、恋人であります。あなた方が結婚すれば、人族と魔族の平和と協力が永遠に続くでしょう。それに、あなた方はお似合いですし、お幸せになれるでしょう。だから、私どもは心から祝福します」


「そんな……」

アリシアは困惑した。

「ねえセイレン、あなたも何か言いなさい……」

同じく呆然としているセイレンに向かってアリシアが言った時、空からまた花火が打ち上がった。


バーン!

今度はピンクと紫と金の光が空を彩り、会場には歓声と拍手が沸き起こった。

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