3-4:あたし最強


 とうとう最強の職業、「神性騎士」を手に入れて喜んでいたらバグが発生して危うくこのキャラクターが使えなくなるところだった。

 しかしナビさんが色々と整理整頓してくれて本来ゲーム内に存在しないテスト版であるベータ版からデーターを引用して全ての職業の王、ギルガメッシュを取得した。



「ふはははははははぁははぁっ! 無駄無駄無駄ぁっ!」



 漸漸ざざぁんっ!!



 とうとう九階層のボスを倒すあたし。

 しかもこいつ死神だよ。


 砂の街に現れて呪いをかけてたやつじゃん?

 そう思っているとぼろぼろになって消えた後にアイテムドロップが有った。

 

 あたしはそれを拾う。

 

「宝石?」


 すぐに鑑定をして見ると「聖なる宝石」と出た。


「あ、これかぁ。これで砂の街の緊急クエストはクリアーか。そうすると他の依頼も受けられるようになるね~」


 しかし意外だ。

 前作では第九層はデーモンミイラがボスキャラだったはず。

 それが死神とかに変わっているから上級者エリアでは以前とは違う構成になっているのだろう。


 しかしこれでクエストは完了なんだけど……


「ここまで来て終わりに出来ないよねぇ~? せっかくの最強キャラ、この迷宮のラスボスがどれ程の物か見てやろうじゃないの!!」


 そう言いながらあたしは現れた階下に行く扉に向かうのだった。



 * * *



 最下層、第十層は無茶苦茶だった。


 出てくるモンスターが前作の物とは比べ物にならない程強い。

 しかもそれに輪をかけて全エリアに呪いがかけられていて、歩くごとにHPが減るという仕様。



「これってクリアーさせる気あるのかな?」


 サクッとモンスターたちを倒し先を進むけど、どう考えてもこの最下層ってめちゃくちゃだ。

 多分「神性騎士」だったら途中でやられていたかもしれない。

 それ程この最下層は異常なモンスターの強さだった。


「まるで絶対にクリアーさせないようなくらいにモンスターが強いんだけど……」


 とは言え、今のあたしには何の問題も無い。

 この職業ギルガメッシュ、まじぱねえっす!


 もうね、「魂喰らいの剣」の効果もあってこれだけ強いモンスターも全くと言って良いほど脅威にならない。

 あたしはばったばったとモンスターたちを倒していきながらオートマッピングでこの最下層を進む。


 進むのだけど、確かに進んではいるのだけど……


「なんか前作のダンジョンとちょっと違うというか、本来ならここにもう最後のボス部屋があるはずなんだけど無いし……」


 オートマッピングの地図を見るけど、見えない場所がまだまだある。

 しかも前作のうろ覚えだけどマッピングだとそろそろボス部屋あるはずだった。

 確か以前は王様のミイラが最後のボスだったはず。


 しかし今回はまだまだ迷宮が続く。


「おっかしいなぁ、やっぱ最新作だと所々違うのかな?」


 そんな事をぼやきながら先を進むけど、相変わらずやたらと強いモンスターが出て来る。

 これって、各階のボス並みの強さなのじゃないだろうか?


 永遠と思われるそれも流石にオートマッピングの位部分がほとんど書き込まれると最後の扉が見えて来た。

 どうやら最下層の最後のボス部屋のようだ。


「よっしぃ~、やっと最後だね。一体どんなボスか分からないけど負ける気がしないね。でもまあ、安全の為に七階層にいったん戻ってセーブしてから行こうか?」


 あたしがそう思い【空間移動】の魔法を使おうとすると、いきなりナビさんの警告が入る。


 ―― エラーを感知しました。現在の場所から【空間移動】の魔法は使えません。同時にセーブ、撤退も出来ません。ボス戦状態に突入しています ――


「はいっ? だってまだボス部屋に入る前だよ? なんで??」


 驚き一応【空間移動】の魔法を使ってみるけど、ナビさんの言う通り発動しない。

 しかも来た道を戻ろうとすると見えない壁があってどうにやっても戻る事が出来ない。


「これって、要はボスと戦えって事よね? しっかし、最後の最後にこんな罠みたいな強制戦闘に入るだなんて、クリアーさせる気あるのかな?」


 ―― 更にエラーを感知しました。本エリアは現在暫定的にベータ版が使用されています。次回アップデート時に本来のボスが設定されるようになっていますが、現在は暫定的にテスト版が設定されています ――


 いやちょっと待て。

 なんでここでテスト版の設定に?

 それに最下層になってすぐめちゃくちゃ難易度あがっているし、先に進めないようにするような意図が感じられる……


 まさか!


「製品販売したけど、全クエストの設定が終わってないとか?」


 ―― ……大人の事情があるようです。ボス戦を開始しますか? ――


 いや、、ナビさん今さらっととんでもない事言わなかった?

 やっぱりゲーム完全に出来がってなかったのか!?


「あっちゃ~、そういや『やり直しシステム』なんて抜け穴も修正して無くなったし、系列以外の職業が取得できなくなったりと少しずつ修正は入ってるもんなぁ。ここ上級者エリアの王家の墓だって本来そうそう簡単には来れる場所じゃないもんなぁ」


 そう言いながらあたしは扉に手を着ける。

 セーブもログアウトも出来ない、やるかやられるか。

 

 だったら前に進むしかないじゃん!



「大丈夫、あたしは最強なんだから!」



 言いながらあたしは扉を開くのだった。



 *



「って、なんじゃこりゃぁ!?」



 扉を開けて足を踏み入れたボス部屋は宇宙だった。

 いや、見えない足場が有って立てるのだけど、宇宙としか言いようのない場所だった。



―― 最下層ボス部屋、アナザーワールドキングです。ベータ版からの引用の為ゲームバランス調整前の状態です ――


 はい、ナビさんご説明ありがとう!

 王家の墓でいきなり他の世界のキングとか、絶対にクリアーさせる気が無いだろう!!


 大丈夫なのかあたしのギルガメッシュ?


 同じくベータ版のデーター引用であるけど、最下層のボスでアナザーワールドキングって名前からしてやばそうなの相手で何とかなるのか!?


 あたしがそんな事を思っていると、目の前の宇宙に揺らぎが生じていかつい姿の、足が無いお化けをマッチョにして鎧を着込ませたようなデカいモンスターが現れた!

 そいつは両手持ちのカマを持っていて振り回してからピタッとあたしに向けて構える。



「悩んでなんかいられない、特別スキル『覇王』、『深淵なる者』、『天空の加護』発動!」



 あたしは手に入れた特別スキルを発動させる。

 と、それを合図にアナザーワールドキングも動き出す。



「神の裁き、『ジャッジメント』!!」



 特別スキル覇王が発動している間この技、「ジャッジメント」を使う事が出来るけど、これって天から神の足が出て来て踏みつぶすという技。

 審判する間もなくいきなり踏みつぶしとか、容赦ないな神様とか思ったけどかなり強力なこれは弱いボスなら一発で倒せる。



 ぶんっ!


 にょきっ、ぶぎゅるっ!!



 天空、と言うか、ここ宇宙だからあたしの足場に対して上に魔法陣が現れてそこからデカい足が落ちて来る。

 ここでその足がハイヒール穿いた女性の足ってのがあれだけど、ハイヒールで踏まれたら確実に痛そうだ!


 だが、アナザーワールドキングは踏まれたにもかかわらずほとんどダメージを受けていない様だ。



「マジっ!? だったら『異界の扉』!!」



 「深淵なる者」のスキルで使える「異界の門」、これは開いた門から黒い手が伸び出て来て拘束され、扉の向こうに運ばれぼっこぼこにされて戻されるといういじめ技!

 

 アナザーワルドキングはそれに拘束されて扉の向こうへ運ばれる。



 ぎぃ~

 ばたんっ!



 ばきっ!

 ぼこっ!

 どごんッ!!



 うっわぁ~。

 初めて使ってみたけどなんかやばそうな音がする。

 何度も扉の向こうで嫌な音がしてから再度扉が開いて中からボコボコにされたアナザーワールドキングがポイっとたたき出された。


 あ、やっぱちょっとは効いているかな?

 しかし「異界の門」を使ってダメージがあれだけか、やっぱこいつ強い。



『ぐほぉ~!』


 

 あ、怒ってる?

 そりゃぁ普通のボスなら一発で始末できるほどの攻撃を受けたわけだから怒るよね?


「とは言え、倒さなきゃあたしもログアウトできなくなっちゃう、そろそろ本体もおトイレ行きたくなってきたからあたしの尊厳の為に死んでもらいましょう!!」


 言いながらあたしは特別スキル、天空の加護発動中に使える「絶対防壁」を発動させる。



『ぐぼぉーっ!!』



 アナザーワールドキングは叫びながら攻撃をしてくる。

 それも通常攻撃をしながら魔法発動をすると言う完全にヤりに来ている攻撃!


「くっ!!」



 がきーんっ!


 ぴかっ!

 どんがらっがっしゃぁ~んッ!!



 通常攻撃を剣で受けながら上から降って来る雷を受ける。

 しかし「絶対防壁」が効いているからまるで土砂降りのような雷を受けても全くのノーダメージ!


「しかし、こんな攻撃をまともに受けていたら前の神性騎士じゃ一発でやられちゃうな、危なかった」


 ギルガメッシュの職業取得してなかったら本当に危なかった。

 しかしこいつ、マジやばいな。



「こうなったらこうだ! 『異界の門』、『ジャッジメント』、そして門に引っ張られる前に剣舞の上の神舞!!」



 途端にあたしの後ろに後光が光りいろいろな花の花びらが舞う。

 そしてあたしの振る「魂喰らいの剣」が次々とアナザーワールドキングに吸い込まれていく。


 

 漸漸漸っ!



 おおっ!

 効いてる効いてる!

 アナザーワールドキングのHPが一気に減った。

 これで「異界の門」、「ジャッジメント」で一気に!!



『ぐぼぉーっ!!』



 アナザーワールドキングは叫びながら「ジャッジメント」のハイヒールで踏まれ、黒い手に絡み取られ門の向こう側に引っ張られてゆく。

 流石にあれだけの連続攻撃を喰らえば!



 ぎ~

 ばたんっ!



 ―― エラーが発生しました。ベータ版のアナザーワールドキングが一定のダメージを受けるとアナザーワールドゴッドへ形態変化しますが、バグが発生して形態変化できません。これ以上のダメージを加える事が出来ません ――


 いや、ちょっと待て。

 じゃあこの後いくら攻撃してもダメージ与えられないから倒せないじゃん!!


「ど、どうしよう!?」



 ばきっ!

 ぼこっ!

 どごんッ!!



 アナザーワールドキングは扉の向こうで今ボコられているけど、もうダメージを加えられる事は無い。   

 しかもこの後どんなに攻撃しても倒せない。


 もうじき「異界の門」の効果も終わる。

 

 奴が出てきた後どうしたら……



「あ、そうだ、今『異界の門』をを止めれば!」



 あたしは発動中の特別スキル、「深淵なる者」を止める。

 それと同時に「異界の門」の効果が消えて開く前の門が消える。



 ―― ……「異界の門」消失に伴い最下層のボスであるアナザーワールドキングが消滅しました。ボス部屋の効果が解除されました。 しかしボス討伐扱いにはならないので経験値及びドロップアイテムは収得できませんでした ――


「ん~、それは仕方ないか。でもまあこれで何とかログアウト出来る。あたしの尊厳は守られた!」




 あたしは慌ててセーブする為に街の宿に戻りログアウトしてトイレに駆け込むのだった。


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