最愛の妻へ

まさかこんな形でお前に別れの挨拶をするとは思っていなかった。これまでの文を読んでくれればわかるだろうが私は無事に天国へと行けそうだ。この日記を書きながらずっとお前を一人にして申し訳ない気持ちでいっぱいで正直なんて書けばいいかわからない。だからここからは、私の思いを全部書き出そうと思う。文章がうまく繋がっていなかったら申し訳ない。まず、こんな私に文句一つ言わずについてきてくれたことを本当に感謝している。お前と出会ったとき、俺は事業に失敗したどうしようもないやつで、酒とタバコとギャンブル、女に溺れていた。お前を束縛するために自傷行為をした。そのくせ、俺は違う女と遊んでいた。本当に最低なやつだ。それでもずっと笑って、いつも私の近くにいてくれた。壊れた私を治してくれた。結婚してくれたお前にこんなことを言うのもあれだが、本当に頭おかしいよ。人間の屑である私に婚約されて一番に出てきた言葉が『本当に嬉しい』だったのだから。あの時は俺も思わず耳を疑った。断られると思って婚約指輪を渡したのだから。息子が生まれて夜泣きのたびに二人で起きていたあの日、俺はお前に質問した。『どうして本当にうれしいなんて言ったのか』って。お前はミルクをあげながらこう言っていたよな。

『どんな女のところに行っても、たとえ百人の女と関係を持っても、最終的に私があなたを手に入れたから私の勝ちだもん』

 あの時の笑顔は怖かったが、婚約した時と同じ一番の笑顔だった。その時思ったよ。俺は最高の嫁さんと出会えたんだなって。その日から自信を持てるようになった。本当にありがとう。何度も言うが、お前を一人にして本当に申し訳ない。体には気を付けてくれ。そして、こっちに来たらまたあの笑顔を見せてくれ。できるだけゆっくり来るんだぞ。

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