咲き誇れ、華

佐久間清美

本編

プロローグ *結*

仮面が剥がれる前に

*結*


 ファンの熱気に包まれたステージ。


 いろんな人の夢や希望に満ちたステージ。


 愛と幸せに溢れた、温かいステージここに立つことが好きだった。

 

 煌びやかで華やかなアイドルとして。


 誰もが憧れるセンターで、スポットライト浴びて立つことが。


 みんなの期待を背負ってグループのセンターで舞うことが。


 大好きだった。心の底から。


 目立ちたがりのプリンセスと叩かれても、アンチなんかに負けるもんかって闘ってきた。


 必死に練習を重ねて、どんなときも泣かずに笑顔を見せてきた。


 私は『絶対的センター』で『圧倒的エース』だから。


 センターの重圧なんて感じていないように仮面を被って、自分を偽ってきた。


 でなきゃ、愛されないもん。


 みんなが求めているのは、清く美しい完璧な私。


 妬みも嫉妬も受け止めて、立ち向かっていく強い私でしょ。


 でもね、ちょっと疲れちゃったな。


 どんなに努力しても『才能』の一言で片づけられちゃうんだから。


 アイドルになりたくてなったはずなのにね。

 やりたくてやっていたはずなのに。


 いつの間にか、やらなければいけないことに入れ替わっていた。


 だからもういいよね、休んでも。

 逃げても。


 つけ続けていた仮面が剝がれ落ちてしまう前に。

 目の前でペンライトを一生懸命振ってくれている人、私の名前を叫んでくれる人。

 みんなから愛されなくなる前に。


 私は退場するべきだ。


 メンバーのみんなも、ファンのみんなもごめんね。


 大歓声を全身で浴びながらいつものように華麗にターンをキメようとした私の足は、ステージに触れることなく、1.4m先の床へとカラダを導いていった。


**

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