第39話 八年頑張った少女を甘やかす

 鍋の準備をしている中二人の方を見る、マリナさんは真っすぐ岩の上あたりを見ている、テミスさんは反対の崖を見ているが目がせわしなく動いている。

 小さな機械音と風の音が聞こえてきた、南側の巡回から戻ってきたようだ。

 テミスさんがゆっくりとこちらを見た。薄茶色の瞳が生き物のように動いてる。

 この人セリアーヌさんがホントに好きなんだな。

 近づいて囁く、貴族面して、偉そうに、当たり前の顔をして。


 「皆奥さんだから、逃がさないからね」


 テミスさんがピキーンて感じで背を伸ばして。


 「ん、んんんん、ん」

 てなって。


 「あたしはいつ?、皆に先に知られるのは恥ずいけど来週位始まるし、口とかで、え、お尻?」

 マリナさん口から出てる出てる。


 オオカミ達の相手をストレートセミロングのブリシアちゃんとドーラン君がしているのでエサをお願いした。


 一人一杯のカニとミニストーブと鍋を五セット用意し〆のうどんとこちらの硬いパンも用意、パンテさん一家もファーストフードコートが効いたのか昼からは一緒にたべてる。


 マリンカさんが野菜嫌いシンシアちゃんの三つ編みを結ってあげている、ロングヘアは鍋には邪魔だな。

 ゾルダンの奴こんなにいい女を無理やり物にしたのか、なんだか、違う、まだちょっと乱れてるのかな?。


 ホスリアル家長女ハニラシアちゃんが具材籠を見ている、白菜や大根、ニンジンの桂剥きと豆腐と蒲鉾もどきも入れている。

 厚揚げが食べたくなって成功した豆腐、こちらのはコクがあって実にうまい。


 「これがホントにうまかったのか?」

 お風呂上がりのセリアーヌさんが目をすがめてカニを見る。

 「え、ええ、甘みが強くてホントに、うん」

 テミスさんの目がまだ泳いでいる。

 「最初に食えるのはいいが酒が飲めないな」

 「団長ぼくさぁ」

 マリナさんがクリームさんの肩を掴んで言う。

 「クーちゃーん、言わなくていいんだよー、ねっ!!」

 「そお?」

 「そうっ、着くまでは、仕事第一、ね?」

 「そうかー、わかったよ。」


 騎士団鍋を横目にサイカちゃんとミレイヤちゃんをテーブルの端に座らせる。


 「それじゃあ頂きましょう」

 「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」


 ウィンドウを開いてフクリちゃんを見るとベットでボロボロの絵本を見ていた。

 「あれ?どうしたの?いっぱい」

 「一緒にご飯を食べよ」

 「うんっ、持ってくるねぇ」

 テーブルを伸ばしていると扉の前にあるトレイを持ってきた、テーブルの上に置かれたものは、かびたパンと煮た野菜を潰したもの。

 「うちのワンちゃんがそれが欲しいんだって、代わりにみんなと同じもの食べよう?」

 「わぁい!」


 トレイを引き上げるとナク、ネル、ユウが呼んだ?とばかりに下にいる。

 試しにトレイを近づけるとよだれを出した、こいつらなんか固いパンが好きみたいだ。

 フクリちゃんが嬉しそうにオオカミを見ている。


 普通に見てたけどまだ誰もお互いを見れないはずなんだけど。

 リリカに付き合ったクリームさんが言ってた、スキル、予期以上の人は魔法を使えない、まあ何となくSF的にわかる。有ったら映画一本の映像が生まれる。

 最後に読みランクは状況把握力が格段に上がる、とはこう言う事か。


 「皆チュウもーく」

 片方がカニ用になってるトングで皆自分の蟹を離すまじと握って鍋に突っ込みながらこちらを見る。

 「今日から一緒に食事するサイカちゃんのおねーさん、フクリちゃんでーす」


 「こんばんわー、フクリです」

 「かわいいねー」

 「ほそっ、ちゃんと食べよ、ね」

 「さ、サイカです、七歳です」

 「ミーちゃんはミレイヤですもう5?あ、六歳です」

 「まあまあじゃあ私が盛り付けますね」

 ナツフカさんが自分の蟹をもってこちらの鍋に移ってきた、フクリちゃんが一瞬目を決めてすぐににっこりしする。

 助かるけどナツフカさんてなんか不思議な感じがする。

 あ、自分の器にカニを移した、だれのだ!。実に幸せそうに微笑んでる。騒ぎにならないならいいけど。


 ナツフカさんは大店のお嬢さんだったけど家族全員”事故”で亡くなっている。


 「ナツフカさんぎゅーってして」

 「はいこお言う感じ?」

 実に柔らかくて母親の匂いがする。

 「うん有難う」

 「なあにドーランも?」

 いつの間にかこちらにきていたドーラン君がスカートの端を握っていた。


 それからのナツフカさんはドーラン君を膝に子供たちの鍋奉行をしながら笑っている、今までとはちょっと違って見えた。


 リサとリリカと鍋をつつきながらウインドウで草原を見ている、メリルさん達だ六人で野営をしている新しく男一人女二人。

 くっついているのでカップルかな?男の目がチラチラ小柄なセミスさんに向く、セミスさんはマイクログラマータイプ、ら〇ま2/1のおさげの女の子の体型。好きな人にはたまらないだろう。


 さすがに二千キロを超える旅で三人は無理があるか。

 まだ食料もあるし人より獣の方がましと考えるたのかも知れない。

 小さな荷車一つと二頭立ての馬車、馬は全部で四頭、女性が一人立てかけた暴風板をさすってウットリしてる、この人もマナが見えるタイプかもしれない。


 「ねえタコどうするの蛸」

 横を見ると真剣な顔のリリカがいた、たこ焼きのファンになったようで残りが気になるようだ。

 「あれ取るの難しいんだよ、まだ村の氷室に半分は有るから」

 なにしろ大きい分足が長いので運任せになる。

 リサはナツフカさんのグループにいった、フクリちゃんも結局こちらに来た必ず帰ることを条件に。

 たくさん食べて沢山笑って姉妹でつつき合ってる。


 食事が終わってデザートを食べウインドウで北極の様子を皆で見た。巨大なクマやセイウチ?みたいな動物たちにみな歓声や悲鳴を上げる中で、ジョイさんとガラさんがうまい、うまいと騒いでいた。


 完全自由時間になってフクリちゃんが寄ってきた。

 「楽しかったぁ」

 「よかった、それでねコハクちゃんなんだけど」

 空気を壊さないように落ち着いて話しかける。

 「同じような、部屋なんだガ」

 うん、だから提案。

 「これを付けてみれる?」

 「・・だいじょぅぶ」


 拡大鉄で作った羽の付いたイヤーパッドを見せると直ぐに了承してくれた、多用は出来ないだろう装備、たぶん理の主に壊される。

 しばらく様子を見るとまあるい目を更に丸くして小声で叫ぶ。

 「ちいさい建物、ゴミがあるぅ」

 良からぬことを考えたら続きがあった。

 「そこの下、うぅずくまって・・」

 すぐにイヤーパッドを外す、背がぎりぎりで剥ぎ取るようになったがしょうがない。

 頭に手を当ててフクリちゃんが呟く。

 「いま変になったぁ、むにゃーって」

 「これは力の弱い人向けだからもう使えないよ」

 私の方を見てはっきり言った。

 「わかった、おとーさん」

 ・・お父さん止まりでよかった。


 「それじゃあこれをもって、こっちは向こうですぐ着るんだよ」

 「これなんだぁ、こえ?」

 「しゃべってごらん」

 「しゃべるってなんだぁぁ」

 (お姉ちゃーん、聞こえたよー)

 「や、お、うん?」

 「それは僕とおんなじだよ、みえない?」

 「あっ、見えるぅ、そっちはどおう」

 (ちゃんと見えるよー)

 伝声塔の模型を指さして説明する。

 「サイカちゃんも同じの持っていてマルが大きい方が向こうに見えるよ」

 「フクリは普通だよぉ」

 向こうはピーピングウィンドウのおかげだけどこちらは自前のスキルだからね。

 ウィンドウでつながった道をトレースしてると思ってる。

 だからウインドウの一つを模型に紐づけてみた、移動中は無理だろうけど寝るまでのおしゃべりくらい出来そうだ。空気も移動する様にしている、同じ空気を吸えるのは大事だと思った。


 もう一つは鎖帷子、縮小鉄で作ったチョッキだな、例の穴あき鉄板でインナーを作ってデバスさんを弄った結果、力と物理耐性が上がることが分かった。

 腕を棒で殴っても軽めのしっぺ位だそうだ。

 出来るだけ広範囲にした方がいいようなので、細く細く作ったおかげで割と軽くできた。


 「ありがとおぅ」

 「明日も来てね」

 「はーい」


 「ねえ、この絵本知ってる?」

 「知らないのー」

 「古いでしょーお母さんに買ってもらったんだ、うん、大丈夫知ってるよぉ」

 「読むノー、いいよぉ、下手だったらごめんねぇ」

 ウインドウを閉じた。

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