第32話 馬車の修理と樋妻さんケア

 食べ終わった頃デバスさんが車輪を持ってこちらに来た。

 「すまない坊ちゃん、此処の厚みが足りなくて強度が出ないんだ」

 車輪を見ると中心に元の車軸用の四角い穴が開いているため木の部分が少なかった。

 人力で動かせるように車軸、車輪中央に正転、逆転、空転、の切り替え摘まみを付けたせいでナットが噛ませないらしい。

 「前輪には負荷ダイヤルを付けてるから一緒か、向こうで合わせるよ」

 パーテイションを出しながら言う。車輪が付いてるので幕を引きずっていく。

 何か姦しが見てるな、やらないぞ。

 元々は車軸を刺して頸木を通して固定するタイプだがそれをすると新機能が使えなくなるのでバイス型の固定具を作った。


 まず第一に舵を切れるようにしたかった、昔の馬車は引きずるように曲がっていく。なので前輪は横に少し飛び出す感じで連動するように軸から後ろで動くように、要はキャスターだ。そのため複雑な構造は無理で負荷ダイヤルのみになった。

 後輪左右の車輪が同じに動くのを防ぎきたかった事も有ってギミックを入れてしまった。


 重さは当然木より軽い、車輪も見えないところに補強を入れておいた、むっとしたお詫びだ。


 三人を呼んで説明をするまだ車体は浮かしたままだ。丁度ガラリアさんが最後のバイス型固定具を付ける所だったのでそこから。

 でもこいつら説明よりもガラの腕をじっと見てる、この能天気さが芸人に向いてるのかもしれない。黙ってるとかわいい。

 一人男役が向こうのマリナさんを見てる、御目が高い、違う説明を聞け。


 疲れて馬車の影に行こうとするとマミルちゃんの声が聞こえて身構えたが近くにはいない、野菜嫌いのシンシアちゃんとお姉さんごっこをしている、ハニラシアちゃんが厨房セットを片付けていて暇だったようだ、ロリエスちゃんも横にいる、あ、シャサちゃんがずんずん歩いてくる、え、やきもち?。


 「ただいまー、今日は大変だったぞー」

 「「「おかえんなさーい」」」


 お父さんだった。


 馬車の影でパーテイションを出しウインドウを開いてテントを見る。

 六時間は経っているので今朝だ。

 樋妻さんが半裸で上体を起こし手で顔を覆っていて裸の少女が二人横で寝ている。


 「おはようございます」

 「きみか?、どうしよう・・」

 「大丈夫ですよ、多分盛られたんです」

 「いやその昨日の話から良く分かってないんだが」

 「自分の今をどれぐらい知ってますか?」

 「しらない村にいるくらいだが?」

 ちょっと怒気をはらんでたので細かく聞く。

 「何かの力とか何ができるとか、気付いたことは?」

 「知ってるのかい?」

 「討伐したって言いましたよ」

 ああ、とリセットしたみたいに続けた。

 「水を粒子単位で自由にできるみたいだ」

 「私は十キロ以上離れていて見つかりました」

 「そうだね、水分同士が繋がったみたいに感じ取れるんだ」


 「それではクイズです」

 「なんだ急に」

 「仲の悪い隣の家に全知全能の神様が居候に来ました。とっても仲がよさそうです、あなたならどうしますか?」


 「えー、いや、それは、こわっ!!、何だそれ、善悪関係なくないか?。」

 「今のあなたの状況です、この世界の殆どの人が樋妻さんのことを知っています」

 「どうすんだそれ、狙われるまであるぞ」

 割と本気で恐怖の顔をする、良い人だ。

 「短期間で消えるのも分かっているので大丈夫です。この世界の大陸はとても大きくて水の供給に水使いが必要なんですが数が足りないみたいなんです、なのであなたの機嫌がいいことが皆が一番安心できるんです」


 「んん、・・」

 「ほら彼女の昨日の独り言はあなたに気に入ってもらえたかとかそんな事ばかりでしたよ」

 「いや、僕は、その隠し事が苦手で」

 「あなたの苦手とこの世界の約二億人測るつもりですか?」

 知らないが地球よりかなり少ないくらいは分かる。

 「まてよそれはいくら何でも・・」

 「神様が人間の機微等気にすると?」


 頭を抱えるのを見て最後の一言を。


 「この世界男が少なすぎて、もうね一人居りゃいいんじゃないかの乗りなんです、平均初体験は十三らしいですよ」

 うーんと唸ってるのでもう一言。


 「今晩も盛られると思いますが受け入れてください、後四、五人はできれば」

 今地区長さんが香炉に怪しい粉を入れている、奥さんがニヤリとしていた。ひいっ。

 ウィンドウを閉じると下にグロスくんが居た。


 「タンケンポ」


 「かったー」


 いやまあいいけどね。

 元気よく疑似ファミリーに帰っていくのを眺めていたら口元が緩んでいく。


 昼休憩から三時間進んで一緒にワイヤーで引っ張った芸人馬車と別れようとしたがかなわず今日の宿地は伝声塔に決定した。


 蜂やガ、猿人系もいる、特に昆虫系の大群はこちらの行動さえ理解できなくなるので森での野営は中止、伝声塔には小さな囲いも作られ最低でも六人はいるし留め人がまずいる。

 森を出るのが夜半にはなるので諦めて、塀の外ではあるが広場があるのでそこで宿車を出した。

 コールまであと二千キロは無い、気にしない、気にしない。


 「お。おい何だありゃ」

 「宿車だと」

 「いやそうではなく?」


 塔の監視台の声が聞こえる、ここは今伝声師二家族と情報屋二名、警護に留め人女二人男一人、戦力として素浪人みたいな女性が三人で十四人で暮らしている。


 馬でちょうど一日で町に着くのであまり困ったことはなさそうだが最初眼光厳しかった素浪人が団長を見て少し引きお風呂に入ってほっこりして、昆虫退治用の風と火魔法で使える火炎放射器を作ってあげるとすっごい喜んだ。


 そのせいかセリアーヌさんが私から離れない、しょうがないので来る途中で見つけたラベンダーやミントを隅に植えて説明した。

 留め人三人では心許なかったと喜ばれた、心なしか留め人の方もほっとして見える。計算上留め人三人いれば盗賊十人以上心神喪失には出来るはず。


 「最近蜂が多いんだ、あちこちに巣があるぞ」

 そっちか。


 リーダーらしい伝声師が言うのを聞いて夕食までの時間を考えると一時間ほど間がある。


 「虫対策服を作るのでちょっと待ってってください」

 「ありがたいが、高価なものは買えないよ?」

 「セリアーヌさん言っちゃって」

 「この方は現領主様一子、オムル・アス・サラミドル様ですよ?」

 何で語尾が下がるのさ、ねえ。

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