第7話 宿泊車両と夜逃げ一家

 しばらくしてリサがお湯を沸かしてくれたのでお茶を入れた、リリカは未だ動けないようだ私は周囲をピーピングウインドウで巡回しながらちびちびお茶を飲むリサを見ていてまだ教える事があるのを思い出した。

 「リサ姉、呪文ってどうやって覚えるの?」

 「其の呼び方確定なんですね」

 「僕から声を掛けるときって難しいでしょ」

 「まあ私としては呼び捨てが良いかなーなんて」

 「外では色々僕が見られるからね」

 「そう?・・呪文は集落の女性から教わったわ」


 コミネ村の土魔法の呪文はまったく違う。

 というかコミネ村では決まった呪文が無いどころか同じ人でも日によって微妙に変わっていた。

 それで思いついた方法をリリカで試したらうまく行った。


 リリカの唱えている「ファイヤ」は和製英語だ、樹の繊維、炭素に急激に人間が吸っている命の元が絡みつくと言う意味だと教えると一日で使えるようになった、今ではコミネ村ではファイヤが普通に使われている。


 焚き火の近くに移動しながらリサを誘うと直ぐに来てくれた。私の結論から言うと此の世界の呪文は知識不足を補うイメージを得る為の言葉である、つまり錬金術の派生だ。


 錬金術は此の世界でも成り立っては居ないけれど得るものは有った訳だ、因みに金に変化できる金属は化学的には有るらしい、但し必要なエネルギーは地球が粉みじんに成る程だとSF好きな門下のおっさんが言っていた。


 私はリサに土を手渡して。

 「この状態を”ディグ”と言う」

 次に石を手渡して。

 「この状態を”ダグ"と言う」

 英語としては出鱈目だが此れでいい。


 土魔法は現物を見せながら言葉を教えると比較的早く覚える、但し先入観のない言葉で無いとうまく行かない、だからの和製英語だ。


 リサは今度の呪文の有用性に気付いたのか真剣な顔で右手に土、左手に石を持ってディグ、ダグと繰り返している。


 そのまにテントや寝床の荷車の拡大をしないといけない。但しピーピングウインドウに入る大きさで無いといけないので縦横は四メートル以内長さは大丈夫なのでこれだ。


 高さが全然足りないけど二階建て電車~、まあ電気は無いので走るわけは無いんだけれどウインドウでの出し入れに此方から動かさないといけないからね。


 因みに銃も蒸気機関も完成しているが銃はリリカが扱えず、いやそれよりもアノ存在に邪魔者扱いされたくなくて蒸気機関とどこかの星に置きっぱなしだ。


 さて、この電車の全長は十二メートル、前方の入り口直ぐにはトイレが二つある、洋式で気泡鉄の周りに超縮小鉄でコーティングして汚れ防止、水タンクは直ぐ上の外にある四百リットルタンク。


 客室に入る手前に小さなシンク、扉を開けると昔懐かしい横並び椅子ぽっく簡易ベッドが左右に並んでいる。


 敷物は各自の判断として下が鉄板はいやだろうからワイヤーネットを細かくして全面に張った、寝心地はなかなかの物だがしばらくすると腕にネットの跡が付いたので更に倍ほど細かくした。


 車両中央、前輪と後輪の間、タラップから二階まで続く螺旋階段の一番下、タラップの奥スペースを使って天井が少し低いが地下室もどきがあってテーブル作業が可能になっている。


 一階のベッドは階段を挟んで前が左右一個づつ奥が左右二個づつの計六、階段は最下層から螺旋階段で二階まで続きベットは階段手前に二個づつ奥に二個づつで計八台ベットは小さめだけれどベッドの下はそれぞれの収納スペースで左右のベットの間に長細い分割可能なベンチを置いて多目的に使えるようにしている、窓も各ベッドに付いていて網戸で防虫対策もしている、風があったり寒すぎるときは網戸を上げるとくっついて鎧戸が上がってくる、位置は自由だが開いたりはしない。


 此処まで来てはたと気付いた、これ孫が生まれるときのテンションだ。


 よしそれならまずは手洗い場だ電車の入り口横に中に入る前の手足洗いようの蛇口を付け下に気泡鉄製スノコを置く、次は椅子だ折りたたみの背もたれのゆるい昼寝が出来肘掛もついてるやつを十台作るが置く場所がない、食事用の椅子もあるし五台を鉄に戻した。


 

 次は遊具だ、移送中という扱いだから勝手な行動は許されないのでエネルギーをどこかに向けなければいけない。女子が七人男子が一人後3人大都に男子が居たがリリカによると駄目だそうだ。成人男子は皆アウト。


 きゃっきゃうふふで良いのか解らないが其のつど修正すればいいか、まずはシーソー。


 作ったが優雅さが足りない、ので支点を七十センチに上げたら乗りにくい、ので乗るところを引き出し式に伸びるように変更、自分が乗るときには手前に引けば軽い体重でも楽に下げれる、割と優雅だが子供だまし感がある、なので横にも回るようにして、横回転しながら上下運動が出来るようにした。重しを乗せて一人で遊んでも宇宙遊泳みたいで楽しい。


 次ぎは大人しめにしよう基本はヤジロベエだ支点を一メートル七十センチにしてヤジロベエを作る、雲梯型の腕の端、片方にコーヒーカップ型の乗り物を作り片方には重りをつけて中心を回転ハンドルで変えれるようにする。

 

 無人時は重りが真上にあるので自分の体重にあわして中心の位置を調整する。


 ヤジロベエ本体は団扇の形をしていてノッチをはずすとふわふわくるくる動く団扇はダンパーとしても働くので極端に早く動いたりしない、カップは常に水平を保つのでお茶を飲むことも可能だ、降りるときは中心をワイヤーでずらして重りを引き上げれば自然と下に下がる、下がりきったら固定されるので降りれば良い。


 さて次ぎはと考えていたら後ろで気配がしたので振り返ると口をあんぐり開けた二人が居た、リリカは涎が出てる。


 文化の違いを忘れていた、まあ良いか比較的説明がしやすく便器下の穴掘りをしてくれた事もあって説明しやすい二階建て電車から説明する。


 トイレの食いつきが半端なかった、ぽっちゃんばかりで川に直接流せる大領地の貴族以外こんなものは使えないそうだ。


 客室入り口横の鉄製鏡付きシンクも歓迎された、ベッドの場所で一悶着あったが私が常に入り口横と言うことで落ち着いた、その後螺旋階段最下層にも出入り口が必要と言うことで小さなエントランスになって、初めては私たちでと言って紅茶をそこで楽しんだ後各ベッドの寝心地を確認して大層ご満悦して頂いた。


 ガラスの代わりに入れた網戸の説明をして驚愕され何をしてもお金持ちの未来しか見えないわねと言われた。


 其の後は遊具を気持ち悪く成るまで堪能した。


 リリカと私はシーソーでテストプレイしていたが、時々癇に障るものがあった。


 (なんだろう?何かが気に入らない)


 そう思って下を向いたままリリカの気配を探っていると。


 (これだぁ!!)


 リリカの鼻の穴が広がって明らかな優越の顔!、其の視線を探って下を見ると。


 「おっしゃこりゃぁっ!!」


 思わず叫んでシーソーの上で逆立ちをした。


 この野郎はいつの間にか地面に丸を書いてやがった、其処に私の足が付くたびにほくそえんでいたんだ。


 「十回~っ♪。」

 「ひっ卑怯だぞ」

 「気付かなかったら良かったのに~、気付いたら負け、残念!!」

 「振り落とされたら十回と同等のルールっ!!」

 「え、ちょっ、まって・ぎゃあぁ」


 シーソーは横に回してはいけません、二人で足が動かなくなるまで回し続けて吐きそうになった。

 

 暫くして落ち着いたのでリサを見るとヤジロベエでうとうとしていた、ちょっと疲れたのかな。二人でゆっくり下ろしてあげた。

 リリカがリサの服をゆっくり脱がす、白いお腹が見えてやがて乳房が見える。

 流石というか下着をつけていなかった。


 リクライニング椅子でリサが微睡んで居る間にベッドの準備をする大きな鉄板で左右二つのベッドを連結して布団を二枚並べて敷シーツを二枚敷く、リリカの了解もとった、だって明日からは大所帯になるからね。

 二人で半裸のリサを宿車連れていく。



 「それではこれから尋問です」

 リリカ眠った後に俯きに寝るリサに覆いかぶさった。


 布団と胸の間に手を入れると条件反射のように上半身が半身になる、起きてはいない様だが自然な感じで受け入れる体位になる、もう何と言うか男冥利に尽きるとはこの事か。


 「何でいやなのさ」

 前後に動く度に影で揺れる乳房が可愛い。違う今はそれじゃあない。


 私の家名を聞いたときの彼女の反応はわりと本気だった、理由によっては彼女の意思を尊重するけれど、其の確認がしたい。


 「いっ、いや、あ、だって、無理よ、貴族の家なんて、ん、んんっ」

 

 「敷地には入れてもらうけど屋敷には殆ど入らないよ?」

 「ああっ、ん、え?」

 「工房を作って入り浸るつもりだからね」


 「あぁあぁっ!、はぁはぁ、んつっ、あっ」

 上気した顔で持ち上げた上体の下から見つめられて昂ってしまう、此処迄で話は打ち切り、やっぱり嫌だ連れて行きたい。

 前後に強めに動くと肩を強く締めて耐える仕草をする。

 「ああ無理です、無理よ、あぁっ、」

 少し強く動くと火照った乳房を見せつけるようにのけぞった。

 「付いてくる?」

 

 「はあぁいい、い、いや、」

 「チャンと言って」

 「わかり舞sた、、ました。いく、いく、いきますっいきっますぅぅ!」


  「ホントだね」

 「言うこと聞きます、聞きますからぁ」


 「離したくないんだ」

 スキルに惑わされているかも知れないが、老人にとってはどうでもいいこと。

 思わず笑っていた。




                ZZZZZ


 一眠りした頃に気配を感じて目が覚めた、ウインドウで東の光を取り入れて二人を起こす。

 「なに?」

 「うふぇ、です?」

 リリカとリサの反応がそれっぽ過ぎて苦笑が漏れる。


 「誰か来た、家族のようだから危なくは無いと思うけど一応話も聞くし」

 「何があるか解らないし服ぐらい着なきゃね」

 「リリカさん本気すぎ」

 「リサ姉はラフすぎ」


 盾と鎧を付けようとしているリリカを見てリサがはんてんを着ようとしたので私は一言添えてから外に出て焚き火に木を足した。


 焚き火が明るく燃え上がった頃に其の家族は現れた、中年前の男一人、二十台前半の女二人、一人は四歳くらいの女の子を抱いている赤髪で三つ編みの肌の白い少しそばかすが見える人、もう一人は黒髪ショートカットで首元がエロイ人あと七歳くらいのボブカットの女の子、皆の身なりから職人家族っぽい。


 「こんな夜分にすまない、子供が怖がっていたらホントに何かの声が聞こえて荷物も置いて逃げて来たんだ」


 此処でリリカが少し反応したから嘘が混じっているか端折っているか。まあかなり草臥れた格好と疲労がたまった様子を見れば訳有りは間違いない。女性の後ろに隠れている子は肌も荒れて唇もかさかさに見える。


 「僕たちは早く寝すぎて起きちゃったのでお茶でもと思っていた所です」

 まあ嘘じゃない寝付いたのは十時にはなっていないはずだ。

 「すまないが隅でいいのでここで休ませてもらえないか親御さんに頼んで貰えないかな」

 「えっと親はいません、親の元に呼ばれて向かう途中なんです」

 「え、通りを歩いても四時間も歩けば町があるのに?」


 ブーメランって知ってるかい、イラッとしたのではっきり言ってやる。


 「夜逃げですか?」

 「!!、違う、逃げたんじゃない」

 「あの町で商売はもう無理なのよ」

 「ライカっ!!」

 「・・・御免なさい」

 「あは、気にしてないですよ僕もコミネ村出身ですから」

 「ああラスイスと同じ領主だね」


 ラスイス、キーラ、ルコーンの町を束ねるタミウス領、領主が代替わりしたのは三年前、次男や三男の活発さとは違い大人しい人のよさそうな長男の領主は住民からかなりの支持を得て就任したが全てが前領主と変わらなかったという時点でおかしと気付いた人がいたかどうか。


 大人しそうな人にありがちな内面のプライドに縋るタイプだったのかある日を境に豹変した、身の回りに掛ける手間と金子が尋常ではなくなり当然税金は跳ね上がる、都に納める譲税金が足りなくなるためだ、都からは配丁金が支給され町村の管理をしているわけで一大事だからね。


 それで夜逃げする人達が増えていると聞いたことがある、引越し自体咎められる事ではないがそれも領主の胸積り一つ、たしか見つかるとしょっ引かれるはずだ。


 少し肩の力が抜けたように見える男性だが私の視線は違うところにある。


 「後ろのお嬢さん怪我をしています?」

 「ああ夕方に沢に落ちてね足を切ったんだけど血が止まらなくてね」

 「内腿ですか?」


 うっかり見ると女の子の日に見えそうだが脛の辺りが紫色になっている。


 「そんなに深くは無いんだよ」

 「内側かと聞いている!!」

 「あ、ああそうだよ」

 「血が止まらないから付け根で縛ったんだな」


 気を付けをして隠れる場所には太い血管がある、其の中のどれかを切ったと思った。


 私は有無を言わさず少女の手を掴み引き摺り出すと剣幕に押されていた男とショートカットが少女を取り返そうと動き出した。


 「リサ、リリカ!!」

 呼ぶと物陰で様子を見ていた二人が飛び出してきてくれた、今は時間が惜しいので助かる、リサは私の所に真っ直ぐ来て、リリカは男の手を払いのける。


 「香炉をつけて」

 「はい」

 「縛ったところまでは上等だ誰かに聞いたのか」

 「あ、あ、猟師の叔父に昔教わった」

 「其の時に町に直ぐ行っていれば満点だったな」


 少女をテーブルの上に寝かせて小声で-大丈夫こんな事は時々あったから直ぐ直るよ-そう言って落ち着かせようとしたがうまく行かない、余計に体が硬くなってしまった。


 香炉が来たので横に置いて寝かせるようにリサに頼んで私は荷車に飛び込んだ。ピーピングウインドウを開いて作っておいた医療キットを手繰り寄せる、色んな戦場にいたので無責任に繋ぐぐらいは出来る。


 過去の経験で何もしないより動け、と学んでいる。


 「だから此のままじゃ死んじゃうんだって」

 「子供に何が出来ると言うんだやめろ!シャサに触るな」


 男が何とか此方に来ようとするが足の裏にリリカの足が入り元の位置に返されてあっけに取られて固まった。シャサと呼ばれた少女は痛み止めとリサ効果ですうすうと寝息を立て始めた。


 「いいかげんにしろっ!!」

 男が腰の剣に手を掛けようとしたのでイラッとしてしまう。


 「いい加減にするのはどっちだ。この子の体重だとこれぐらいの血が出ると死んでしまうし、縛って血を止めると四半日で腐ってしまう、今決めろ、助けるか、それとも見殺しにするかっ!!」

 徐々に出る血でそんなに極端ではないと思うがよく知らないので言い切る。


 近くに有った大き目の茶碗をテーブルに置き一喝して男の顔を睨み付けた。


 「あなた、一目でシャサの怪我と処置に気付いた人だから、世間には天才って居るらしいし」

 「そうね、この野営地を見ても普通じゃないわよ」


 初孫ののりが良い方向に転がって男がふいと横を向いたので医療キットをテーブルの横に置いた。


 「これからすることを決して他人に話さないこと、もし誰かに言ったら一族総出で墓場まで追いかけますよ」

 殺すとか言ってないからね。ピーピングウインドウを二つ出して一つを傷に一つを湧き水に繋ぐ、空間から水が出てきてひとしきり大人が騒いだが無視だ。

 ピーピングウインドウを通ったものは百パーセント除菌される、熱を通さないで缶詰が出来たので間違いないと思う、生き物の定義がどこまでなのか今度確かめようといつも思う。


 撒いていた包帯もどきを外して出ている水で傷口を洗う、手をあてがってゆっくりと、今がどういう状態かは解らないが繋ぐしかない。


 冷蔵庫に有った腸詰めの中身を出し急いで洗い縦に裂きウィンドウを通して繊維以外をそぎ落とす、短いが子供の血管なら大丈夫繊維の先に鉄を薄く纏わせて縫い針が出来る。


 「おい、それで何するつもりだ」

 「血管が破れています幸い裂けるような切れ方ではないのでこれで縫います」

 「ふざけるな、どうやって解るんだ解るように説明しろ」

 「しょうがないこれを見て」

 

 一瞬迷ったがピーピングウインドウを見せることにした、時間が無いんだって、目の前に突然現れた空間に大人組みは二三歩後ろに下がったが好奇心からか顔を近付けて来た、そこには自分たちを横から見た映像が見えてる筈だ。


 「えこれ私たち?」

 「な、んだこれ」

 赤髪の女性が映しているだろうと予測して左に向けて手を振る。

 「今からシャサちゃんに近付けますよ」

 「おお、シャサが写った」

 「ホントだわシャサのキズに」

 「もう良いでしょう時間が無いんです」

 「、、、すまないもう何も言わない」


 本当にお願いしますよ、そして私は本職の医者が居たら嫉妬で呪い殺されるような事をする、えーとつまり拡大投影だ。

 しかもこのウインドウでじかに手術する、完全3Dで拡大率自由のこのウインドウごしに手術した場合向うに届くときに倍率は無視される。

 つまり五倍のウィンドウで針を近づけると五分の1に成った針で施術できる、これが切ることなく出来るピーピングウインドウマジ神。


 長めのピンセットで針を取って施術を開始する、馬鹿だから出来る、今の血管が何処に繋がっているかなど解る筈も無い、しかしやらなければ確実にこの子は死ぬ、こういう時の為に医療キットを作っていた、生前何度もお世話になったものだ。


 自分の手がウィンドウに触れないように慎重に手を動かす、以前火掻き棒を突っ込んだときにウッカリ手がウィンドウに触れて火掻き棒がウィンドウの向うにいきなり現れた結果壁が爆発した。

 原子だか何だかが同じ場所に存在してしまったか何かだろう、あの時は知らぬ存ぜぬで母に言い切ったが暫くジト目で見られた。


 ウィンドウの拡大をもう少し上げたかったが此方から通す物が縮小されるので物理の定義的に何が起こるのか解らない。

 なので今の所五倍までで止めている。いや門下にSF好きなおっさんが居てあれこれ聞いちゃったからね、怖いし。


 施術終了後ウィンドウで繋いだ血管を直に見ながらゆっくりと足の付け根のロープを緩める、少し緩めだったのが幸いしたのか壊死しそうな気配はない。


 子供の足をロープで完璧に縛れる親はまずいないだろう。


 「OK、大丈夫そうだリリカ、村の女子が良く飲んでる薬を用意しといて、材料は冷蔵庫にあるから」

 「解った」

 貧血気味な女性たちが良く飲む薬草ジュースを頼んで包帯を巻いて鉄のカバーを付けて其の上から包帯を更に巻く。


 安静に出来れば良いけれど逃げてる訳だしどうなるか解らないからね、まあ何処にいても確認は目視で出来るけどね。一応鉄のギブスは多腔性で蒸れない様にしている。


 「これで大丈夫なのか?」

 「様子を見る必要が有ります暫く一緒に行動して貰いますよ、そうですね三日は」

 「わかった、それくらいは俺でも、あ、おれはパンテ、こっちがリオナこの子がマミル」

 ショートカットの人がライカさんね、じゃあ此方も。

 「小さいほうがリリカ、隣がリサさんで僕がオムル・アス・サラミドル」


 貴族と名乗ったほうがスムーズに話が進みそうだったので素直に名乗ることにした。一瞬肩が震えて真顔になった大人たちが跪いて謝りだしたので私は未だ子供だからとおちつかせた。


 ピーピングウインドウを出してパンテさんの言う荷物を置いた場所を覗いてみると確かに鞄が有った、手提げの中型のものとリュック型のものがあるがそこには熊が居た、リュック型は熊の手にあるがなんだかしょんぼりしている様に見える、私は手提げ鞄を手繰り寄せ旦那に渡す。


 「ありがとうございます!!これで向うでも仕事が探せます」

 「石の職人さん?」

 「いえ宝石加工です」

 「へえー、許可持ち?」

 「はい、師匠の許可書もあります」

 「それで、やられたんだね師匠もぐるかもね」

 「・・・はい、こっぴどい授業料を」


 騎士爵や男爵クラスの貴族が小遣稼ぎに良くやる詐欺で、新人狩りである。位をかさに来て宝石を預けるときに確認をさせず気付いた時にはもう遅い、一応師匠が入り限度を超えないように誘導するが、それで税が納められないと。


 「背負い袋には何か入ってたの」

 「いえ食料を入れてたんですがとっくに・」

 しょんぼり見えたのは気のせいじゃなかったみたいだ、この辺りの獣は全部追い払っているのでこの親子熊一組しかいない、なんか見方によっちゃ全てわかっているんじゃないかと思う。

 

 ので。

 「ホイ、ホイ、ホイ、ホイ、ホイ」


 突然冷蔵庫の食材をぽいぽい投げ出したのを見て皆が目を丸くしている、なので投げながら説明。


 「熊って冬になると冬眠しなきゃいけなくてその為に沢山食べなきゃいけないんだよシャサちゃんが助かったのもこいつのお陰だしね」

 「あっ私も上げます」

 リサが駆け寄って来てりんごや柿を投げ込んでいく。


 突然膝元にぼとぼと食材が落ちて来たのを見て熊がびくっと腰を浮かしたが美味そうな匂いでもしたのか野菜に食いついて直ぐに一鳴きすると小熊が一頭出てきて一緒に食べだした。


 暫く見ていると後ろで大きな腹の虫が、後に愛らしい音とかわいい音が続けざまになるああ食料無いって言ってたもんな。見るとマミルちゃんもいつの間にか起きて熊の様子を不思議そうに見つめている。

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