勇者は聖剣に嫌われている

八月十五

第1話魔王討伐

 俺たち勇者パーティーは、魔王の間の扉の前で最後の装備確認を行っていた。

「エレン、魔力の残りは?」

 輝くような金髪に黒い修道服を着て、錫杖を持った修道女、エレンに話しかける。

「大丈夫よ。回復したわ」

「ウォウ、装備の損傷は?」

 赤い髪に筋骨隆々な体躯をした戦士、ウォウは自信満々に答える。

「俺の剣も盾も《不壊》の魔法がかかってるから問題ねえが、切れ味は落ちてる」

 ウォウは剣の刃に指を当てながら切れ味を確認する。

「そうか。なら斬るんじゃなくて打撃武器として使え。リーナは魔力はどうだ?」

 最後に、黒い髪を紫色の帽子に纏めているスタイルのいい魔法使い。リーナに聞いた。

「私を誰だと思っているの? だいじょうぶに決まっているでしょ。ハヤトこそ、大丈夫なの?」

 リーナは挑発的に俺に準備はいいかと聞いてくる。だが、それがリーナ流の気遣いだとここにいるみんなは長い旅の中で気づいていた。

「聖剣は常に最高の状態を保つ。俺も少し休んで体力も魔力も回復した」

 全員で顔を見合わせ、頷き合う。

「行くぞ!」

 俺たちは四人で魔王の間の扉を開く。

「よく来たな勇者よ」

 魔王の間の奥には玉座があり、そこには黒い二本の角に、灰色の肌をした男。魔王が座っていた。

「単刀直入に、行くぞ魔王‼」

「「《強化》《防御》《集中》」」

 エレンが俺に、リーナはウォウに魔法をかける。

「行くぜええええええ‼」

 ウォウが盾を正面に構えて突撃する。その陰に隠れて俺が追随し、敵の懐深く潜り込み、一撃を狙う。いつもの作戦だ。

「《連火球》」

 魔王の背後にいくつもの魔法陣が浮かび、そこから火の玉が凄い勢いで飛び出す。威力、速度もさることながら、無数に飛んでくる火球は、その全てがウォウの構える盾に当たっていた。恐るべき命中率だ。

「くっ……。すまねえ、もう限界だ!」

「十分‼」

 ウォウが離脱するが、既に魔王との距離は十分に迫っている。俺は一、二発食らうつもりでウォウの盾の陰から飛び出し、魔王に向かって聖剣を振り下ろす。

「うおおおおおお‼」

 返り血を浴びながらも、聖剣は魔王を真っ二つに切り裂いた。

「ハァハァ……やった、やったぞ‼」

 魔王に止めを刺したことを確認し、仲間も俺のところへやってくる。

「やったな。ハヤト!」

 ウォウが肩を抱きながら豪快に笑う。

「ウォウが一手に攻撃を耐えてくれたからだ。ありがとう」

「ハヤト、怪我はありませんか?」

 エレンが心配そうな顔で駆け寄ってくる。勝利の喜びよりも仲間の怪我の心配を優先するところが、優しいエレンらしい。

「俺は何ともない。ウォウの手当てを頼む」

「一人も欠けずに魔王と倒せたのは運が良かったわね」

 少し棘のある言い方だが、リーナも皆の無事を祝っているようだ。

 皆で笑い合っていると、右腕にズキリと痛みが走った。

「ハヤト、どうしました?」

「いや、なんか右腕に痛みが、怪我したかな?」

 でもまあ、今まで気づかなかったんだから大した怪我じゃないだろう。そう思った瞬間だった。

 魔王を斬った際に浴びた返り血が、俺の身体に入ってきた。

「うああああああ⁉」

同時に、今までの何倍も鋭い痛みが走り、俺は思わず、聖剣を取り落とした。

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