あるところにくせ毛の長髪の異世界に憧れるかまどの配信

明鏡止水

第1話

 あるところにくせ毛に長髪の、まあ、唇が美しい。それ以外は二重で、しかし勿体無いことに目がとても悪く、目が小さく写るほどの度のきついメガネを掛けた女がいた。

 女は自分が触れるまで、あるいはメガネを取った時に。周りのものがメガネ越しにみるより大きく見えるのを気づいて悲しんだ。

 この、金平糖は大丈夫でしょう。

 でも、この鞠は?このメガネ自体は?

 ほんとうは、せかいのものの大きさはたいへん違うのではないの?

 女は目のわるいのに、メガネをかけるのをやめた。字は読めないし、数字もぼやけ、井戸に恐る恐る近づき、友達の顔は分からず、着物の柄だけはっきりするようなしないような。

 だというのに。そんなおかしな、あぶなっかしい、すこし目の大きく見えるようなった女に、変わった外国人が目をつけた。背が小さく、華奢なくせに、帽子とループタイはいっちょまえ。

 アンタ、俺の嫁になれ。目が悪いんだろう。新しい眼鏡をくれてやる。

 メガネならもうあるの。すみません。外国の人。

 驚いて去ろうとしたが華奢な外国人は。

 なに。連れ去ったりなんざしねえよ。新しい眼鏡を求めるまでオレとアンタで住むぞ。家はどこだ?

 夫がいます。

 嘘をついた。

 なら、その夫。別れろ。

 めちゃくちゃだった。仕方がないので家まで案内し、半月ぶりに分厚いメガネを取り出して。

 ほら。メガネならもう、あるんです。

 掛けてみせた。すると、外国の者は冷めたらしく。

 なんちゅー、眼鏡だ。

 思えば砕けすぎた、絡むような口調の異国の人に。女は終始動揺しっぱなしだったけれど。

 こんな顔です。目も悪い。メガネをかけなきゃ台所仕事も、自分の長い髪がそこらじゅうに落ちて気味の悪いのにも気づけない。

 悲しいのか、なにが、じぶんのなにが哀れなのか。

 すると異国の者は女からメガネを奪い取り。その驚いた両目の大きさに満足しながらキスを勝手にして。

 オレのところで使ってる眼鏡なら、うんと薄くて、縁が無くて、アンタのデカい隠れた眼だって垣間見える。一緒に来い。

 と言うのです。

 女は、髪をばっさり切ってから行っていいか、と問いました。男はゆるさず、そのまんまのアンタを攫って行く、と。

 女は妖しい異国の男に長い癖毛に分厚いメガネ、あとは着の身着のままで。村の者に、自分から海の向こうまで売られようというのか、と震え立たせて。

 そのまま。船を漕いで。着いた先は。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る