第6話 外道の倫理



⚠️

このお話は主人公、コモン・デスアダーへの好感度がドン底まで下がる可能性があります。

生々しいイジメの描写があります、ご注意ください。






「……ンー…」


コモンくんはギルドへ通ってみたが、なかなか成果は得られなかった。


シャオさんは高位のモンスターを競り落とすことに成功、今モンスターは檻に閉じ込めて山に放置している。

あとは衰弱死を待つだけなのでそれは上手くいった。

ダイダラとギラ兄さんは役職や装備を買ったので、あとは役職用の契約書類と装備が届くのを待つだけ。


しかしチームギルド組、オドロアンとコモンくんはこれと言って進展していない。

様々なギルドを回って情報を得ようとしたのだが、やはりレベル0は信用値があまりに低かったのだ。

…更にこの2人はダークリストとブラックリスト。

毒蛇と大怨霊は結局どこに行っても弾かれてしまう。

故にギルド自体にそもそも入れなかったり、受付けで冷たい態度を取られるだけだったり…

審査が厳しくて別室に連れて行かれてしまうことすらあった。

空港の入国審査みたいなものである。


「惨敗じゃん。やっぱ女神連れじゃないとダメ?」

「お蜜さんに来て貰う?このままだと無理ゲーな予感しかしないが」

「えー、頼るのカッコ悪いじゃん…」


コモンくんはギルドの壁に寄り掛かって煙草に火をつけ、煙をダラッと吐きながら眉を下げた。

上手くいくビジョンが浮かばない。

なにか裏技は無いものか。

やはりレベリングは最低限必要だったか。

いや、ダークリストでレベルが高いと益々胡散臭い。

どうやっても犯罪者にしか見えない(実際そう)。


こういう時の突破口を考えるのは自分の役割だ。

チーム歌舞伎町にリーダーは居ないし、別に自分がリーダーだなんて思っちゃいないが…。


「思いつかねー…。やっぱ女神に着いてきてもらおうかな。チャッキーとかなら顔パスだろうし」

「女神同伴はナメられるからビミョいけどね」

「な。それなんだよ」


コモンくんはしゃがんで壁に背をついて煙草を吸い、オドロアンはバケハを深く被って彼の目の前に突っ立って缶ビールを飲んでいた。

まるきりコンビニ前にたむろするヤンキースタイルである。

しかも2人はその自覚がなく、ただぼんやりと「どうしようね」と話し合っているのだった。



「ドロシュ様ぁ。待ってくださいよぅ」

「、」


そんな折に。

遠くから、高くてかわゆい声が聞こえた。

アニメ声のキンキンした、ちょっとえっちな声。

見ればギルドに向かってくるパーティらしき集団が見えた。


先頭を黒いローブを着た銀髪の男が歩いていて、その後ろをほとんど裸みたいなメイド服を着た、青髪ツインテールのもちたぷがふうふう言いながら追いかけている。

男の隣には弓使いらしき、着物を着た黒髪ポニーテールのクール系美人。

その後ろを、金髪のおっとりした・大きなおっぱいの下乳を露出した聖女らしきお姉さんが歩いていて…。

大きなアホ毛を揺らす、ふわふわの紫の髪を膝の下まで垂らした、無表情のちまこいロリ系美少女もいた。

それが遠くから歩いてくるのが見えたのだ。

コモンくんとオドロアンは口を開けてそれを見ていると…どべちっ!と青髪メイドが転んでしまった。


「あらあら。マリンったら、おっちょこちょいですね」

「まったく、マリンは仕方ないな。ほら、掴まれ」

「ううぅ〜、ありがとうございますぅ。だってドロシュ様がはやいからぁ」

「マリンが遅いのが悪い。わたしでも追いつく速度でドロシュは歩いてた」

「だ、だってぇ」

「仕方ねぇなぁマリン。オラ、腕貸してやるから」

「!い、いいんですかぁ?え、えへへぇ。ドロシュ様の右腕独り占めですぅ」

「…!な。じゃ、じゃあわたしもドロシュの左腕もらう。ドロシュ、左腕貸して」

「お前らなぁ…」


青髪メイドはドロシュと呼ばれた銀髪の腕にピトッ!とくっつき、無表情のちまこい美少女は対抗するようにドロシュの左腕に抱き付いた。

ドロシュはため息をついて、ヤレヤレという顔でポケットに手を突っ込んで歩いて行く。


「キッ、」


コモンくんはその一連の流れを見て、思わず。


「きッッッッ…つぃ…」


震える声で言った。

背筋が震えるような感覚がして、右の頬にジンと鳥肌が立った。

お手本のようなそのハーレムパーティ。

どう見てもあの銀髪の男・ドロシュは転生者だ。

この世界の勇者なのだろう。

SLに乗って16世紀、西ヨーロッパのルネサンス期らしき世界に来たわけだが、成る程この世界の勇者は彼らしい。


多分何らかの能力で無双し、奴隷階級にはならず勇者になったのだろう。

女神の引いた〝当たり〟の男。

よほど強いのだろうし、アニメでよく観るステレオタイプのハーレムだ。


…いやしかしそれにしても、実際に目の当たりにすると物凄く、こう、恐ろしいものがあった。

ほとんど裸みたいな女ばかりを連れ、自分は彼女達に大した好意を見せずに愛されて中央にいる。

あまりにも勇者の性欲が突き抜けているのがモロ分かりのパーティ構成、修学旅行では教師の隣に座らされたであろう男の願望丸出しのスカシ具合。

お見事、コイツは大当たりだ。

確かにハーレムは男の夢。

一夫多妻や美女達みんなに好かれるのは我々の理想郷。

しかしここまで露骨すぎると、男の自分でも具合が悪くなるようだった。


コモンくんは腕にまでジンと鳥肌を立て、「み、見てオドロアン、鳥肌たった、見て」と声を掛けたのだが。


「あ。マリンちゃんじゃん。お疲れ✋」


オドロアンが、持っていた缶ビールをチョイと上げて言った。


「!あ」


すると、マリンと呼ばれた青髪メイドのもちたぷがパッとコチラを向く。


「オドロアン様ぁ!この前はありがとうございましたぁ」

「いや一昨日ぶりだが。なんしてんの」

「ドロシュ様と新しいダンジョンに向かってる途中ですぅ。六層目が最近新しくできたって聞いてぇ、みんなで行こうって話になったんですよぉ。えへへぇ」

「…マリン、コイツ知り合いか?」

「はい!この前お財布拾ってくれてぇ、お礼に一緒にお酒呑んだんですよぉ。あっ、でも安心してください、浮気じゃありませんから。私はドロシュ様一筋ですよぉ」

「…へぇ、そうだったのか。悪いな、マリンが世話になった」

「ウワ話しかけられた。笑えん笑」

「?」


オドロアンはアチャーという顔をして、引き攣った顔をした。どうやらメイドさんと知り合いだったらしい。

コモンくんはしゃがんだままボーッとその様子を見上げ、動けないままでいた。

彼の顔も引き攣っていた。

見ているだけでしんどかったのだ。

ナマのヤレヤレクール系は、見ていて心にクるのだ。

コモンくんはそのまま関わらないようにしようと思い、どうか話しかけられませんようにと心の底から願う。


が、しかし。

ドロシュはコモンくんにパッと目を向けた。

コモンくんは思わずビクッとしてしまう。

本当に、心から関わりたくなかったのだ。


「…まさかお前。…は。早川?」


そう呼ばれるまでは。


「!…え」


早川。

これはコモンくんが転生する前の名字だった。

久しぶりに呼ばれて流石に驚いた。

一体なぜこの男が自分の昔の名を知っているのだ。

まさか知り合いなのだろうか。

しかし顔を見ても全く思い出せない。

転生者は大体みんな顔を作り替えられるから、面影というものがまるで無いのだ。


…誰だっけ。

なんだっけ、コイツ…。と、キョトンとしていると。


「お前、早川…だろ。何でここにいるんだ」

「…?ドロシュ様ぁ、お知り合いですかぁ?」

「…知り合いなんてもんじゃない。俺はコイツに借りがあるんだよ」

「…え。ごめん誰?マジで思い出せないんだけど…」


コモンくんはやっとそう言った。

引き攣った顔で、作り笑顔を浮かべて。

するとドロシュはグ…と拳を握って震わせて。


「ハッ。ハハハハ。そうだな。そうか、覚えてないよなぁお前は…」

「えっ、キモ。怖…何…」

「俺だよ。森下だ。忘れたとは言わせねぇぞ」


ドロシュはそう言って、赤色に輝く目で彼を見下ろしてそう言った。

コモンくんは「森下」と言われて、しかし尚キョトン!とし。


「え、だから誰?ちゃんと言って?あと普通に喋れないの?その喋り方じゃないとダメ?」


と言った。

本気で思い出せないのだ。

結構頑張ったのだが、脳内の検索に引っかからない。

森下。森下。そんな男、自分の人生に居ただろうか。

しかもなんだか恨まれている様子。

恨まれるようなことなんてしたかしら。

こんなにキツいやつがいたら忘れるはずないのに。

一体…。

…森下。

森下?

と、思ってから。


「あ!!」


コモンくんはビンッ、ときて目を見開き。


「思い出した!あのウジ虫!?」


最悪の思い出し方をした。

そうだ。森下。そんなヤツ、確か高校に居た。

同じクラスの森下だ。

自分がいじめて自主退学に追い込んだ男である。

確か引きこもりになったらしいと風の噂で聞いたが、完全に忘れていた。

ああ思い出した。スッキリした。

そうか、コイツ、あのウジ虫か!

と、爽快感を味わい、片手に持っていたスマホを操作しつつ立ち上がり。

「懐かし〜、お前かぁ。え、元気?」と言い掛けたところ。


「ッ!」


ドンッ!とコモンくんの頭の真横。

ギルドの壁に、太い針が刺さった。

コモンくんの左頬に針が掠って、頬からツッと血が流れる。


「…今、ドロシュ様をなんと呼びしました?」


青髪メイドのもちたぷである。

彼女が瞳孔の開いた目でコチラを見つめ、顔の真横に針を刺したのだ。

信じられない速度だった。

メイドのこめかみには青筋が走っていて、瞳は防空壕の暗闇のようである。

周囲はその瞬間無人駅か如く静まり返り、殺気の強さに心臓が強制的にドクンと鳴った。

結構本気で怖かったのだ。

あまりに早かったし、流石に女の子に手は出せないから。

糸クズにも糸クズなりの倫理観があるのである。


「…思い出したか?お前も転生してたなんて思わなかったぜ。…けど好都合だ。この手で殺せるからな」

「え、マ?」

「マァ、スグには殺さないでやるよ。少し遊んでやる。持ち堪えられるかはわからねぇがな。…マリン、どいてろ」

「はぁい、ドロシュ様♡」

「ッゴ」


言われた瞬間。

ドッ、とドロシュの拳がコモンくんの鳩尾に突っ込まれた。

目にも止まらないスピードであり、感じたことのない衝撃である。

一瞬、意識が飛んだ。

目の奥のブレーカーがバツン、と落ち、心臓がズレるような感覚がした。直接臓器を殴られたような苦しさ、めまい、喉の奥をせぐり上げる、痛み。


「〜〜〜〜ッッ!」


コモンくんはドッと土の地面に蹲り、腹を両手で押さえて丸くなった。

まともに入ったので息が全くできず、カッ、と喉奥が痺れるような重たい感覚がした。


「ひゅ、」


遅れて、本格的な白い痛みがやってくる。

目も開けられないような痛みと、嘔吐感。

コモンくんは吐きそうになって、喉から尻を振って上がってくる吐瀉物を咄嗟に飲み込んだ。

鼻の奥でツンと吐瀉物の香りがして、勝手に涙が出る。


「無様だな」

「ッウア"」


長い三つ編みをグイッと引っ張られ、コモンくんは強制的に上を向かされた。

付けていた小さなピアスが光る。

手と足が震えて言うことを聞かない。

コモンくんはツッと涙を流し、目を細めて荒い息を吐いた。酸欠に顔は真っ赤で、唇の端から唾液さえ溢れるのである。

腹の辺りを殴られると本当に息ができなくなるのだ。

体の真ん中は弱点が詰まっていて、脳が収縮するほどの痛みに目がまともに開けていられなくなる。


当然だ。

コモンくんはまだレベルゼロ。

その上装備もなく、こんな強いチート級の転生者に敵うはずもない。

風が吹く。ドロシュのローブがなびき、コモンくんの前髪が捲れ上がった。

金色の目が揺れる。

あ、死ぬかも。と流石に思った。


「へぇ。お前蛇になったのか。確かにぴったりだ。けど俺に毒は効かねえぞ」

「…っか、…は、…う"」

「遺言はあるか?待ってやるよ。俺にも慈悲はあるんでな」

「ッウぐ」


三つ編みをパッと離された。

コモンくんはドサッ!と地面に倒れ、頭を打って顔を強く顰めた。

ドロシュはそんな彼の目の前にしゃがみ、「ほら。どうした?」と頭をコンコンとノックする。


「ご自慢の蹴りは?見せてみろよ。マ、その様子じゃ無理そうだけどな」

「……っ。う、」

「噛み付いてみろ。蛇」


ドロシュが自分の首を指差した。

コモンくんは口からだらだら痛みによる涎をこぼしながら、片目を限界までしかめ。

暫くの間息だけに集中してから…。


「…お。おま、え"の、」

「あ?」

「は、お前の、転生前の、しゃし、ん。オレ、…ゲホッ。ゲホッ、ごほ。も、持ってるけど。だいじょぶそ?」


と言った。

ドロシュはその言葉に、ピシ。と腕を反射的に固まらせた。

彼はすっかり忘れていた。

陽キャというのは、暴力だけでなく口も回ることを。

言葉ですらも敵わないことを。


「……は?」

「ウワやば。ガチでキツいのだが…笑😅💦」

「ハ?」


オドロアンが。

応援を呼ぼうとスマホを取り出していて、そこで。

コモンくんから写真と動画がメッセージに送られているのに気がついた。

それをタップして画面に表示してそう一言いい、「ウワー…」という顔でドロシュを見る。

そばにいたマリンも「ドロシュ様の前世のお姿!?♡」と飛びつくように見て、顔を引き攣らせた。

そこに写っていたドロシュの写真。

というか、森下の写真を見て、思わず固まってしまったのだ。


「え…。うそ、ですよねぇ…?」


マリンは写真とドロシュをチラチラ交互に見て、指をもじもじいじった。

「なに。見せて」と覗き込んだ無表情の美少女もスマホを見てギョッとし、オドロアンが見やすいように画面を見せれば…もちたぷおっとり聖女も、ポニーテールのクール系弓使いも覗き込んだ。

そして絶句。

時が止まってしまった。


「…ど。ドロシュ。お前、前世の姿は今と大して変わらないって言ってなかったか?」


弓使いのお姉さんがスマホを指差しながら震える声で言う。


ドロシュは何も言えなかった。

彼は「は、」と息を吐く。

「は。は。」と続けて枯れた呼吸をし、心臓がどこまでも冷えていく感覚がした。

自分の体の中の音しか聞こえず、脳みそが霜焼けを起こす。

彼のトラウマ。

彼の一番痛くて怖い記憶の引き出し。

それが音を立てた。

好きな女たちには絶対に見られたくない…いわゆる、乙女が整形前を見られるような、絶対知られたくない過去を知られた時の、喉から空気がなくなる感覚。

一気にそれに襲われ、ドロシュは動けなくなってしまった。


「…コイツ、なんでいじめられてたか…ゲホッ。…ウ。知ってる?オレのカノジョにストーカーまがいなことしたからだよ」


コモンくんはコトン、と地面に横向きに寝転がり、腹を押さえながら、今だに涙を流しながら言った。

金色のまつ毛は束になっていて、下まつ毛がキラキラ光っている。


「覚えてんだろ?アリサちゃんのこと」


アリサ。

体の裏側を冷たくしながら、ドロシュはヒュ、と息を吸い込んだ。

それはコモンくんの高校時代のカノジョの名前。

吹奏楽部の、少しだけギャルっぽい黒髪の少女だった。

細くて真っ白で、白雪姫みたいなかわゆい乙女。

いつもコモンくんの大きなパーカーを勝手に制服の上から着ていて、フードを調整する紐をギコギコ右左に引っ張りながらコモンくんの話を聞いていた。

あの子。

ドロシュが焼けるような片思いをしていた、初恋のあの子だ。


『森下課題見せて〜。てか何気に絡むの初じゃない?』


アリサちゃんは課題を見ながら言ってくれた。

なんだかヤケに距離が近くて、甘い香りがして、脳が痺れるようだったのだ。


『え、やば。森下目ぇ悪過ぎない?眼鏡度強過ぎなんですけど』


アリサちゃんはケラケラ笑って森下のメガネを奪い、勝手に掛けた。

その光景を今でも覚えている。

連絡先をグループから追加したことも。

そうして調子に乗って連絡したことも。

アリサちゃんから「え?ウチら呼び捨てするほど仲良くなくね…?」と引き攣った顔をされたことも。


『いや、頭触んないで。マジで』


頭をポンポンしようとした時、アリサちゃんは髪を逆立てて言った。何故か行動すればするほど嫌がられたことを覚えている。

でもギャルだから。

ちょっと言い方が強いだけだと思っていた。


『アリサちゃん。行こうぜー』

『!は、早川くん♡♡』


その頃はアリサちゃんが彼に片思いをしていたらしいが。

知らなかった。

その後に2人が付き合ったことも知らなかった。

それは本当だ。

ただ仲がいいだけだと思っていた。

だから自分にもチャンスはあると思ったし、あんな風にオレに近寄ったってことは、少なくともオレのことを嫌っていないはずだと思っていた…。


「コイツ、アリサちゃんの家まで着いてってさ。オレがシメたんだよ」


違う。

別にストーカーをしたわけじゃない。

家まで無事に帰れるか心配で見てただけ。家もたまたま近かったし、見守りたかっただけなのだ。

あんなに可愛くてスカートも短くて、襲われたら大変だと思った。だからいつでも守れるようにやったことだ。

困らせたことなんて一度も…。

ない…。


「やり取りも残ってるぜー…」


コモンくんは痛みに脂汗をかきながら、地面に向かって言った。





【何があったのか】



ドロシュはアリサちゃんを憎んでいた。

思わせぶりな顔をしておいて、あんなに体をくっつけておいて、あの女はあの男のモノだったから。

付き合っていたなんて知らなかったし、男と付き合っていながらあんな媚びるような声を出していたのも許せなかった。


しかも大嫌いな早川コモンと付き合っている。

あの軽薄で、顔だけの男。

教室の一番後ろの一番端っこを陣取り、いつも仲間内で笑っているあの男。

制服をあんなに着崩しているのに教師に何故か怒られず、むしろ気に入られている。

ドロシュが…森下が制服を着崩せば教師はみんなの前で叱責するのに、コモンは制服の上に派手なパーカーを着ようが、上靴を気に入っているスニーカーにしていようがアクセサリーを付けていようが怒られないのに。


嗚呼、本当に大嫌いだった。

そんな男にアリサちゃんが取られたのも本気で信じられなかったし、アリサちゃんがあんな男に抱かれていると思うと全身が沸騰した。

だけどそれ以上にアリサちゃんが好きだった。


アリサちゃんは騙されているはずだった。

あの男の二枚舌に。あの蛇男に唆されたのだ。

だってアリサちゃんは…最初の印象こそ怖かったけれど、話してみれば純粋な子で、よく女友達に恋愛映画で「めっちゃ泣いたぁ〜」と抱きついていたのだ。

チープで安直な流行りの俳優をあてがっただけの恋愛映画で泣くなんて可愛いと思ったし、遊園地に行った次の日に、そこで買ったらしい猫耳みたいなカチューシャをつけたまま「見て見てぇ」と登校してくるのもかわゆかった。


全部が大好きだった。

アリサちゃんもきっと森下のことを憎からず思っているはずだし、なんなら好意すらあると思っていた。

だって体育で見学した時、隣に座ってくれたし。

だって連絡先を登録した時、「森下じゃん笑」とアリサちゃんから送ってくれたし。


だから勇気を出して送った。

「よろしくw アリサ、今何してんの?」と。

けれどアリサちゃんから返信は返ってこなかった。

何故かはわからない。きっと忙しいか、また恋愛映画でも観ているのだろうと思った。

返信は次の日も帰ってこなくて、アリサちゃんは風邪で学校を休んでいた。

その時とても心配したのを覚えている。

きっと返信を返せないくらい具合が悪いのだと思って、追加でメッセージを送ったのだ。


『大丈夫?💦風邪引いたんだって?』

『生きてる?』

『熱高いん?俺なんか買ってくぜ?笑 アイスとか、スポドリとか!』


と。

けれど返信は返ってこなかった。

既読も付かなかった。

よっぽど具合が悪かったのだろう。

そう思っていた。けれどアリサちゃんは次の日ケロッと登校してきて…いつも通りにしていたのだ。

なのに。元気になったはずなのに、返信は返ってこなかった。


『風邪大丈夫?』

『うー、まだちょっと咳出る…』

『マジかぁ』


早川はそんなアリサちゃんの額へ、袖越しに手を当てた。


『今日も家行こうか?しんどいでしょ』

『っほんと?…あ、でも…今日パパいるからなぁ…』

『お父さんいんの?じゃあオレ事情説明しとくよ。お父さんの分もアイス買って帰ろうぜー』

『!うん。ありがとぉ』


アリサちゃんは顔を少し赤くし、えへえへ笑って言った。

ドロシュは信じられなかった。

そこで彼は、2人が付き合っていることをようやく知ったのである。


上記の通り許せなかった。

コモンが大嫌いだったし、アリサちゃんへの恨みが募った。

でも片思いは諦められなくていつもイライラしていた。

アリサちゃんのことを毎日考えていたし、それを失うのは嫌だった。

だから…でも…だから、せめて。

せめて見守ろうと思ったし(ストーカー行為)せめて連絡だけでも取ろうと思った(追撃メッセージ)。

積極的な行動が良いと言うのでさり気ないボディタッチも挑戦してみたし、距離を縮めるために呼び捨ても続けた。

アクセサリーも付け始めて、香水も付けた。

コモンと同じような着崩し方もしたし…仲間同士で話しているときは大声で面白いことを言って(下ネタ)アピールもした。


そして、一ヶ月経った頃。


『ツラ貸せー』

『ッ!』


コモンに、机を蹴られた。

放課後、いきなり教室で。

クラスの中、人はまばらで、みんなギョッとした顔でコチラを見ていた。

コモンは明らかに怒っていて、首に血管が浮いていた。


『え。な、』


ドロシュは座ったまま心臓がバクバクして、体を固めたまま彼を見上げることができなかった。


『ツラ貸せって』


バイトは死んでもしたくなかったので、母にねだって買ってもらった…コモンと同じブランドのパーカーのフードを引っ張られた。

獰猛なほど力が強く、首が絞まって立ち上がるしかなかったのである。

そのまま男子トイレに連れていかれた。

中には一年生がちらほら居たが、コモンが「出てけ」と低い声で言えばソソクサと逃げて行った。


『心当たりあるよな』

『え。え、』

『は?正座しろよ』

『あ、え』

『正座ー』

『ゴボッ』


腹を蹴られた。

ドロシュは蹲ってぶよぶよした腹を抑え、土下座みたいな格好をした。蹴られたせいで息ができなくなった。


『ブッ』


頭を踏まれた。

コモンは本当に怒っていた。

そもそもキレやすい男なのだ。


『お前さ。アリサちゃんの家までつけ回してんだって?毎日連絡してるらしいじゃん。困ってんのわかんねー?何すっかわかんねえからブロックもできねぇって困ってたぜ。何してくれてんだよ。お前』

『っぐ、うっ、おえっ、』

『アリサちゃん怖がってんだけど。この前家の前に立ってたっつってたけど、あれマジ?なぁ』

『あぐっ、』

『…つか、オレと同じ香水つけんのやめてくんね。気持ち悪ィんだけど』


そんな風にトイレで蹴られた。

やっとの思いで「すいませんでした」「もうしません」を言うと、コモンは彼を見下ろして。


『何言ってるか聞こえねえ』


もう一発蹴ろうしたのだが。


『コモン?』

『アリサちゃん!!♡♡♡♡』


アリサちゃんの声が聞こえた。

途端にコモンはパッ!と顔を輝かせてトイレから出て行ったのだ。

1回目はそれで助かった。

少ししてトイレを出ていくと、2人がカバンを持ったまま廊下で何か話していた。

アリサちゃんは指定のバッグをリュックみたいに背負って。コモンはノース×ェイスのリュックを片手で持ったまま会話をしていたのだ。


『コモン、帰ろ』


アリサちゃんが言った。

コモンは微妙な顔をして顔を傾けた。


『んー…。ねぇ』

『なに?』


コモンはかがんで、チュッとアリサちゃんにキスをした。

そしてほろりと顔を歪め。物凄く悔しそうな顔で目を細めてから。


『気付かなくてごめん。マジで』


と言って、おでこを彼女のこめかみにくっ付けたのである。


『もう。いいよぉ』


アリサちゃんの嬉しそうな、心配そうな声が聞こえた。

2人はそのまま教室の前にずっといた。

ドロシュは教室の中にある自分の鞄も取りに行けず、遠くで吹奏楽部が演奏している音を聞きながら、2人が帰るまでずっと隠れて待っているしかなかった。


『ねー、三田さん。オレと席交換こしよ』

『え』


次の日。

遅刻してやってきたコモンが、ドロシュの隣の席の少女にそう声をかけた。

しゃがんで机の上に組んだ腕を乗せ、そこに顎を乗せてニコニコと。三田さんはちょっとドキドキしたような感じで、「な、なんで?」と言う。


『んー…オレ目ぇ悪いんだよね。ここ日当たり良いし良いなーって思って。ダメ?』

『え、えー…。どうしても?』

『どうしても。見てこれ。お詫びのチョコ』

『あはは、何もう。良いよ別に』

『いいの!マジありがとう』


コモンはそう言ってニコニコし、三田さんにチョコを上げてから。片手をスッと上げて、「うぇーい」と軽いハイタッチをした。

そして席を交換して…ドロシュの席の隣にドサッ!と座り。

机の上に足を上げてスマホをいじっていた。

ドロシュを見張るためだということはスグに分かった。


それからは地獄だった。

向こうは何もしてこない。

何もしてこないけれど…隣の席にいる威圧感と、全員の視線が集まる感覚で心が休まらなかった。

ドロシュは毎日顔を伏せて寝たふりをすることしかできなかった。

中休みはコモンの友達に席を占領されるし、昼休みは居場所がなくなった。

勇気を出して「そ、そこ。オレの席」と言った時。


『知ってるけど何?』


とコモンの友達に言われたことを今でも覚えている。

ドロシュはそんなにアリサちゃんが怖がっていたなんて知らなかった。ただ見守りたかっただけ、様子が気になっただけなのに。

それなのにこんなことになるなんて思わなかった。

だから、せめて謝りたかった。

誤解を解きたかった。

だがメッセージだと履歴が残るし、学校だとコモンがいる。

だから彼女が1人で帰るタイミングを狙ったのだ。


コモンのバイトがある日。

彼女は途中まで女友達と手を繋いで帰っていて、それがすごくかわゆかった。

そして、1人になったタイミングを見計らって。


『あ。アリサ』


声をかけた。

…その時のアリサちゃんの顔は忘れない。

恐怖と嫌悪でいっぱいになった顔を。慌ててスマホを取り出し、コモンに涙目で電話をかけた彼女を。


それからドロシュは。


『なんで指って10本あるか知ってる?』

『あ、え、あ』

『オレが10回楽しむためだよ。』


夜中の駐車場。

コモンにバリカンで髪を適当に剃られ、汚い坊主にさせられた。指は折られた。

周りには怖い先輩がたくさんいて、顔も上げられなかった。

ドロシュは正座をさせられ、殴られ、姿勢を崩すとまた正座をさせられ、蹴られ、を繰り返され。

最終的に駐車場の壁に向かって正座をし、「ごめんなさい」を全力で何度も叫ぶのを強いられた。

コモンたちが帰っても、「3時間やれ。動画取って送れよ。じゃないと殺す」と言われたので、自分で自分の動画を3時間撮り、3時間それをやり続けた。

そしてそれを送った。


もう恐ろしくて学校には行けなかった。

家の中に引きこもって、自主退学を考えた。

そしてその二ヶ月後。

母親に「一度でいいから部屋を出ろ」「どこかで気分転換に食事でもしてこい」と言われて家を追い出された。

ドロシュはトボトボ歩き、深夜、近くのファミレスに行き。

食事をしていると、嗚呼まさか。

入り口の近くから、コモンとその友達の笑い声がした。

たまたま彼らも来ていたのだ。

彼らは楽しそうに何か話していた。

汗が止まらなかった。バレないように出て行こうと思ったけれど、彼らは入り口付近にいるので動けない。

だからドロシュはソッと立ち上がり…トイレの個室に隠れてやり過ごそうと思った。

幸いトイレの個室は3つある。

だからずっと籠っていても大丈夫なはずだった。


けれど。

ドロシュがコソコソトイレに行くと。

「…マジかよ」というコモンの声が聞こえ。

彼らも立ち上がり、ゾロゾロトイレに来た。

そしてドロシュが逃げるように入った瞬間、彼らもトイレに入ってきて。


『部屋から出てんじゃねぇよ。死ぬまで引きこもってろ』


何もしていないのに、腹を蹴られて吐いた。

流石に騒ぎを聞いた店員が駆け付けたが、その瞬間コモンは吐いたドロシュの背中を摩り、「オイ大丈夫かよ。お前あんな呑むから!」と彼を泥酔者だと言う設定の嘘をついた。


『すません。すぐ出ますんで。片付けます』


店員はコモンの嘘を信じた。

まさか嘘をついているとは思えないくらい迫真の芝居だったのだ。


…ドロシュはそれから、二度と家を出ないと決めた。

アイツが引っ越すまで、この街を出ていくまで。

そう思って1年引きこもり、夜中にコンビニに行くだけの生活をしていたのだが。

トラックに轢かれて…気が付いたら異世界に居た。


ドロシュは赤ん坊になっていて、女神からこの世界の話を聞き。

赤ん坊の頃から魔法を勉強して今に至るのであった。


…つまりコモンが救いようもない外道だったという話だ。

ど畜生であり、やっていいことと悪いことの区別もつかない最悪のいじめっ子、人間のクズ。

けれど現実とは不条理なもので、みんなはいつもコモンが大好きだった。…






「ウワやば😅別人やん」


オドロアンは送られた動画を見て言った。

ドロシュが調子に乗ってアリサちゃんの頭を撫でようとして嫌がられている姿を映した動画だ。

それはコモンが付き纏いの証拠として撮った動画である。

画面には、黒髪をワックスでベタベタにした、太った男が写っていた。

フェイスラインにニキビが密集していて、右耳にだけ銀色の細くて長いピアスをつけている。

フケの落ちた背中、不気味な猫背。

虫刺されのような目。

彼はずっと変に半笑いで、変な早口でアリサちゃんに話しかけていた。明らかに嫌がられているのにそれに気が付いていない。

太い指に付けられた安っぽくてゴツゴツしたアクセサリー。

「おい」と声をかけるコモン。

画面に映ったコモンは今とほとんど外見が変わらず…ドロシュと同じ画面に映ると別の生物みたいに見えた。


メイド、マリンちゃんは片手で口元を覆っている。

無表情の美少女も顔を引き攣らせていて、彼女たちは画面を見たまま動けなかった。

それからも出るわ出るわ、無視されても送り続けたメッセージのスクリーンショットが。

彼の黒歴史が。


「…で。でも。か、過去は、過去。今は今ですわ。ドロシュさんはドロシュさんでしょう?」


張り詰めた沈黙の中。

聖女のもちたぷが、縋るような、言い聞かせるような声で言った。


「お、こらえた笑」


オドロアンは言う。

しかし聖女は「過去なんて関係ないわ」と頑張って続ける。するとマリンちゃんはハッとした顔をして、「そ、そうですよぅ。大事なのは今ですしぃ」と小さな声で言った。

が、しかし。


「いや女の子にそんな裸みたいな格好のまま平気で歩かせてる時点で人格疑うんだが笑。しかも今日ちょっと寒いし。普通コートの一つでも着せてやらん?😅 普通に冒険してたら女だけじゃなくて男とも会うだろうになんでパーティに綺麗な女しか入れてないん?キモいんだが笑 明らかに意識して選んでないとこうはならないと思うんよ✋」


オドロアンが続けて空気を凍らせた。

彼は信じられないくらい空気が読めないのである。


「ってかマリンちゃんがこんなにアピールしてるのに気付かないふりして他の女の子にも良い顔してるの男としてどうなん?笑 向き合ってやらんの?マリンちゃん寂しい思いしてると思うけど笑 眠れない日もあったんと違う?どっち付かずで放置するってマリンちゃんいつもどんな気持ちなん?」

「………」

「それにこの子?って多分10歳?くらいよな。なんで胸出した格好させてるん?どんだけ大人びてても10歳とかそこらだろ。そんな子がこんな格好してたら危ねぇじゃん。大人としてその格好で出歩いたら危ないとか言わなかったん?お前がリーダーならお前が教育してやる立場なんよ。自分の子供がこんな格好して歩いてたらどない?性欲が勝って放置してんの草」


オドロアンは言いながら、無表情の美少女にモスキ×ノのパーカーを着せてやった。

「嫌だったら脱いでいいけど」と言って。

するとコモンが、ググ、とあぐらをかいて。

俯いたまま。


「お前この子達のメンケア(メンタルケア)してやってる?女の子が前線で闘うってかなりのストレスかかるだろ。これセクハラかもだけどさ、だって女の子って生理とかあんじゃん。その状態で戦わなきゃいけない場面とかもあるわけじゃん。お前そのあたりちゃんと考えてやってんの?飯は?家事は?まさか全部マリンちゃんにやらせてるとかねーよな?好意に胡座かいて全部やらせてんの?お前マリンちゃんがお前の散らかした部屋片付けてる間さ、他の女と仲良くやってたりすんの?マリンちゃんはお前のために一生懸命やってんのに。まさか頭とか撫でてさ、ありがとよとかたまに言ってる程度とかだったりする?」


言った。

ここが攻め時だと思ったから。

しかもそれは図星だった。


「日頃の感謝込めたプレゼントとか毎日ありがとうって言ったりとかせめて自分でできるところは自分でやるとかしてる?😷💦 やってないならその代わり勿論マリンちゃんに給料払ってるんよな?マリンちゃん、ドロシュニキ(笑)から給料もらったことある?」


「あっ、え…あ、ありません。け、けどぉ、ドロシュ様は…昔私のことを助けてくれてぇ…ご恩があるんですぅ、」


「え?一発の恩だけで毎日毎日働かせてんの?…例えば親はさ、育ててくれるっていうクソでかい恩とかくれるけど子供にそこまで見返り求めないじゃん。元気でやってくれればいいよって言ってくれる親までいるじゃん。それで?お前は?一回救ったってだけで?マリンちゃんのこと家政婦扱いしてんの?こんな可愛いどこでもやっていけそうで有能な女の子自分に縛り付けて当然みたいな顔してんの?しかもタダで?奴隷扱いじゃん。信じらんねぇ」


「戦わせる上に家事までさせてんの明らかにオーバーワークで草。つかこの子達の好意に気付いてんだろ?気付いた上で適当に放置していつまでも自分のこと好きでいてくれってスタンスヤバいんだが。気付いてないわけないよな?だってお前に好意も持ってないアリサちゃん?にここまで付き纏ってるんよ。そんなお前がこんなあからさまな好意に気付かない訳ないんよ。無理あるくね?笑✋」

「ち、…あ、違う。黙れ」

「過去は過去って言うならさ、オレのこと殴った説明つかなくね?過去のこと一番引きずってんのコイツじゃん。じゃあ過去も今も変わらんくね?同一人物じゃん」

「…確かに。ソイツの言うこと、一理ある」

「ッ!アリア!」


無表情の美少女はアリアという名前らしい。

彼女は俯いてそれ以上何も言わなかった。

ドロシュはドキドキドキドキして、過去の自分を見られたことでいっぱいいっぱいだ。

体が上手く動かない。頭が冷えすぎて、言葉も浮かばない。

ただ、「やばい」「どう言い訳したらいい?」で頭がいっぱいだった。


「ってか普通マリンちゃん転んだんならスグ駆け寄ってやれよ。一発目に言う言葉が「仕方ねえなあ」ってヤバいんだが😅まず怪我してるかどうかの確認せん?笑」

「ま。マリンは、ドジで。転ぶのはいつもの、こ、ことだから、」

「は?いつものことなら毎日お前が腕貸してやれよ。歩幅合わせてやれよ。なんでやれやれみたいな顔してんだよ。ドジとかじゃなくて疲れて不注意になって転んでんのかもしれないじゃん。気付かないうちにストレス溜めるタイプかもしれないじゃん。お前そのあたりのことちゃんとマリンちゃんと喋った?」

「つかやっと喋ったと思ったら言い訳で草。さっきこの人が「過去は過去」ってせっかく庇ってくれたのにお礼もないやんけ。なのに自分が不利な立場になった瞬間やっと喋るのヤバいのだが笑 もしかしていつもそうなん?終わってンなー、お前…」

「しかもこんだけ言われてマリンちゃんへの謝罪今んところ一言もないからなお前。お礼もないし。自分のことで頭いっぱいじゃん。それについてどう思う訳?テメェの口でテメェから言えよ。男だろ」

「………、……」

「え…?なろうくんさぁ…そこで黙るんだ。こんなに前振りしたのに?最初あんなに喋ってたのに。ヤバいぜお前」…


というわけで。

コモンくんとオドロアンはどこまでもズケズケズケズケ30分止まらずドロシュを左右からイジめた。

暴力では敵わないので口で攻撃した。

彼らは口もよく回るのだ。

特にチーム歌舞伎町の中で一番喋るのがこの2人。

つまり言葉の暴力はこの2人が最も得意とするところなのだ。


「…なんかまるでオレらが悪いみたいになってんじゃん(※その通り)。お前から殴ってきたのに。…もういいや。お前何も言わねえし。オレ腹痛いし帰るね。慰謝料払えよカス」

「取り敢えずマリンちゃんに給料払えよ。あとアリアちゃんにちゃんと寒くない服着せてもろて✋あとラーラさん(聖女)とカオリさん(弓使い)の好意無視して良いように使うなよ。真摯に向き合わねぇのダセェしただの甲斐性無しだからそれ続けんならもう解放してやれよ」

「部屋から出んなー」

「死ね😅」


トドメを刺した2人は、「じゃ、ごめんね」「邪魔してごめん」と乙女たちに言って、ギルドを去った。

その後のことは預かり知らん。

スッキリしたので取り敢えずは良いかと思って、2人で鉄道に乗った。

空はもう暗くなりかけていて、ドス黒いアザみたいな夕焼けが見えた。


「収穫無かったなぁ」

「ね💦」

「やべぇー。穀潰しじゃんオレら。お蜜ちゃんに嫌わりる…」

「嫌わりるね…😔」


そんなことを話しながら。

森下ドロシュの話はもうしなかった。

最早興味も失ったためである。

がしかし、自覚は無いが…でかい収穫はあったのだ。



この数日後、マリンちゃんがチーム歌舞伎町のパーティに入ったのだから。








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