第50話 百合さんと眠れない夜



『恋のクリティカルヒット』事件



自分の考え方に賛同してくれる人に囲まれて幸せそうだった百合さん


百合さんがランドセル登校を望んだ一言から始まった一連の動き

あまりにも速い展開でしたが、想い人から贈られた言の葉


想いが胸からあふれ出していましたね。



――――



翌日 赤い目をした百合さんが訪ねてきました。


昨日の幸せに蕩けてしまったような笑顔が嘘のようです。




「私のわがままだったのですか」




ひーくんは優しいから自分のわがままのために合わせてくれたのですか


本当は嫌なのに我慢しているのですか


水玉さんも私のためにランドセルを選んでいるのではないですか



「どうして良いのかわからなくて」



時間をおいてひとりになったとき 考えてしまったのですね。



自分のことだけを考える人が多いのです。

自分の意見が通れば他の人の心を踏みにじっても平気な人は多いのです。


私もそんなひとりかもしれません。



百合さん あなたは素晴らしい心を持っていると思いますよ。


一晩考えていたのですね。

大切な人たちに迷惑をかけていないか心配で眠れなかったのですね。



私も人の心はわかりません



でもね。


制服にランドセル姿で撮った写真 三人とも笑顔だったでしょ

私には我慢しているようには見えませんでしたよ。


百合さんは百合さんのままで居ましょうよ。


あなたは立派な聖女ですよ。




花つ月 芽吹く草花 いま開かん



姫子さんとお勉強会開催中

お仕事ではございません。お勉強会です。


ランチは姫子さん特製爆乳カルボナーラでございました。

食後のお茶を楽しんでいるところへ来客です。



おや めずらしいお客様ですね。


――――


ひーくんと学級委員長くん どうしたのですか


「ひーくんじゃないの そちらは初めましてですね」


姫子さんは学級委員長くん初めてですね。

私の親友 爆乳姫子さんですよ。


学級委員長くん わかりやすく挙動不審

ひーくんまでちらちらと


姫子さん 今日はラフな衣装ですので色々と刺激的ですよ。

上着着ましょうね。ちょっと規制です。


何かお願いがあってきたんですよね。

入ってください。

ちょうどお茶をしていたところです。一緒にいかがですか。


ぎこちない男子くんふたりを引き込みましてお姉さん可愛がってあげますよ。


さてお話を聞きましょうか

まあ 大体予想できますけどね。


――――


「お返し用にクッキーを焼こうと思って・・・ 教えてください」


「急に来てごめんなさい 

 ひーくんが雪ねえさまにお願いすれば間違いないって・・・

 お願いします」


予想通りですね。

君たちは幸運ですよ。今日は姫子さんが居ますからね。

お菓子作りのエキスパートですよ。



「お姉さんが優しく教えてあげるからね♪」


姫子さん 小学生相手に色気を出さないでください。

恋敵認定されると怖いですよ。百合さんと水玉さんですよ。


「確認だけど 今日のクッキーは本命クッキーで良いのかな」


男子くんちょっと揺らいでいますね。


「本命クッキーでお願いします」


ひーくん 言い切りましたね。ちょっと眩しいですよ。


§


「僕はまだよくわからないです。

 でもきちんとしなければいけないと思いました」


学級委員長くん 何を迷っているのですか。


「ふたりの女子からチョコをもらいました」


どちらが好きなのかまだ選べないのですね。


「好きな・・気になっている子はひとりだけです。

 でも真剣にチョコをくれたのだから真剣にお返しします」


誠実に対応してくれるのですね。

お姉さんとしては感心しますよ。


でもね。その優しさは女の子を泣かせてしまうかも知れないですよ。


「もうおことわりしました。でもお返しはきちんとします。

 すてられてもいいからお返ししたいです」


そうだったのですか。

お姉さんの中で何かが繋がる音がしましたよ。


「お手伝いしてあげるよ。最高のクッキーを作ろうか」


引き受けてくれるのですね。姫子さん


「これだけは約束しておくね。

 渡した結果がどうなってもお姉さんたちは手を出さない。

 お雪もいいよね」


もちろんです。女の子の事情もありますが、男の子の事情だってあります。

男の子だって恋に向き合っているのですからね。


でもね。女の子が怒っても受け止めるのですよ。


「だいじょうぶです」


その覚悟見届けさせて頂きましょう。


「こいつ 不器用だけどかっこいいだろ」


ひーくん あなたも充分に不器用ですよ。そして格好いいですよ。



――――


意外にもふたり 器用でした。


男の子が初めてのお菓子作りですよ。

定番の失敗ポイントいっぱいあるのに・・・


ほっぺに粉を付けるイベントは押さえてくれましたので良しとしましょうか

(謎の上から目線)


急だったので大したラッピングの用意も出来ず普通の袋入り

ラッピングはお任せしますよ。


「「ありがとうございました」」


いい顔していますね。信念を持った殿方は格好良いですよ。



「振られたらお姉さんが慰めてあげるからね♪」


姫子さん お胸を持ち上げるのやめなさい。良い場面が台無しですよ。


――――


「口出しできなくなっちゃったね」


そうですね。

まさか懐に飛び込まれるとは思っていませんでしたよ。


「水玉ちゃんが泣いたのも 副委員長ちゃんが泣いたのも

 恋には必要だったのかな。 難しいね」


今日聞いたことは忘れましょうか。


「魔法でもかけましょうか」


そうして頂けますか 恋愛の魔女さん




耐えました。耐えきりましたよ。


不安に押しつぶされそうな百合さんと水玉さん

『大丈夫ですよ』しか言えないのです。


お姉さんは耐えましたよ。


そんなお姉さんの前でお互いに励まし合う姿を見せてくれました。

あなたたちなら大丈夫ですね。


――――



「お婿さんがプロポーズに来てくれましたよ」


百合さんのお母さま興奮して教えてくれました。


玄関で緊張して待つ百合さん

訪れた紳士は『手作りのクッキー』と


>>>>『一輪の薔薇の花』<<<<


を持ってきたそうですよ。(造花ですが)


やるではないではないですか


私が待つ立場であったら胸を打ち抜かれていますね。


『自分で作ったクッキーだから』と薔薇を添えて差し出すひーくん

何故かカーテシーをしてから受け取る百合さん


「・・・うれしい ありがとう」

これが精一杯だったようです。

ひーくんはお母さまにも一礼して帰って行ったそうです。


「なにがあったんだろうね あのふたりは」

去年から一足飛びに雰囲気が変わっています。

戸惑っているのはお母さまだけではありませんよ。


静かに見守りましょうね。


「でも今年も部屋でうるさかったわよ すごく」


それは許してあげてくださいませ。正しい乙女の姿です。


§


水玉さんは図書室に呼び出されて受け取ったそうです。


真っ赤に染まった水玉さんがクッキーと一緒にもらった言の葉


『いまはこれがせいいっぱいだから もうすこし待って』


「はい 待っています」


至近距離でこの衝撃を受け止めた司書さん

良くご無事でした。

そして速報ありがとうございます。


ご褒美に司書さんのための情報を差し上げます。

『今日は新刊の発売日だそうですよ。仕事帰りに書店に急ぐべきです』


何の新刊なのかは知りませんけどねっ




世界樹広場に現れたふたりは笑顔でした。

律儀に報告に来てくれるのですよね。


小箱に入ったクッキーと一輪の薔薇


袋に入ったクッキーと袋と同じ色の封筒に入ったお手紙


薔薇の意味なんて野暮なこと聞きませんよ。

手紙の内容なんて詮索しませんよ。


幸せそうなふたりの笑顔それだけでお姉さんはお腹いっぱいです。


ゆっくりと彼のことだけ考えて幸せに浸っていなさい。



――――


私の父からはキャンディーポットを頂きました。


姫子さんからはクッキーと聖女セイ・タカナシさんのアクリルスタンド 

えっと・・・素直に嬉しいですよ。


姫子さんのお父様からもお返し頂きました。

2月にはきちんとチョコレート贈らせて頂きましたからね。

なんといってもお義父さまになるかも知れない方ですから(自爆)



§


今夜はひとりでちょっと考え事


私の恋心 大丈夫ですか


私はそれなりに元気ですよ。

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