第15話 百合さんと婚約者


天気の良い土曜日の昼下がり


世界樹広場のテーブルにて会議が開かれております。

百合さん、ひーくん ご両家のお母様会議です。



「わざわざお返しをありがとうございました。あの後喜びすぎて大変だったのよ」


そうですよね。すぐに私の所まで来て惚気・・・報告がありましたからね。



百合さんの想い人ひーくん


きちんとご自宅まで届けに来てくれたそうです。


玄関の奥からそっと百合さんのお母様が見守る中



「チョコのお礼に・・・ 百合のハンカチ」


「ありがと・・・ごじゃいましゅ」



台詞を噛んでしまっているのに二人とも気がつかないくらいだったようです。


きちんとお辞儀をして帰って行ったそうでして、ひーくんやれば出来る子です。



――――



百合さん 夜になってもお部屋でバタバタとうるさかったそうで・・・


きっとベッドの上でハンカチ眺めながら脚バタバタさせていたのでしょうね。

喜ぶ姿が目に浮かぶようです。恋する乙女の正しい姿です。



「こちらこそ馬鹿息子にチョコレート持ってきてもらって・・・

 手作りだったんでしょ」



そうなんですよね。手作りチョコレートをお家まで届けに行ったのですよね。



『学校で渡すのは校則違反だから』だそうでして・・・



『みんなに知られると恥ずかしいから』との情報が当日ついて行った水玉さんから入っております。


義理チョコ渡すの恥ずかしかったですよね。義理チョコ・・・




「あのチョコレート 雪ちゃんのお家にお邪魔して作らせて頂いたみたいなんですよ」


「私は見ているだけでした。 真剣でしたよ。きちんと自分で作りましたからね」



残念ながらひーくん用には選ばれなかったお菓子たちは女子会にてありがたく頂戴致しました


もちろん百合さんの恋バナを添えて・・・それはもう盛り上がりましたよ。

みなさんお肌つやつやになりました。

あのチョコレートには美肌効果もあったようです。



「百合ちゃん 綺麗になりましたね」


「急にお洒落するようになって鏡の前から動かないのよ」


「可愛いじゃないですか」


「百合が髪に使っているヘアオイルって言うのかしら 雪ちゃんから頂いたんでしょ」


「百合さんのために用意しましたからね。もらってくれないと困ってしまいます」


「お高いんでしょ 大丈夫かしら」


「可愛い妹のためですからね。気にしないでくださいな」



恋する乙女は綺麗になるって本当ですよね。

聖なる水・・・ヘアオイルも使ってもらえているようです。



「私も娘が欲しかったわぁ」


「結婚したら娘になるわよ」



「それならお兄ちゃんが居るから婿に出すわ」


「あら嬉しい お父さん嫁には出さん なんて頑張ってたからきっと喜びます」


「実家が近いって良いわね」


「大学を出て手に職が付いたら式を挙げましょうか」


「今どき 学生結婚も良いですよ 籍だけでも先に入れないと百合ちゃんに愛想尽かされちゃう」



百合さん あなたの知らないところで婚約が内定したようです。


世界樹のご加護があったのでしょうか


告白する前に婚約ですよ。小学生に先を越されました。






百合さんの婚約が内定してから数日後のこと


当家に来客がありました。



お茶出しをしつつ顔を出したところ母方の親戚でした。


人当たりの良い優しい方


お久しぶりになってしまいましたね。 ご無沙汰しております。



「雪ちゃんも随分と綺麗になって」



お世辞だとわかっていても嬉しいものです。もっと褒めてっ



「おばさまこそ 変わらずお若いですね」



確か母より二歳ほど年齢が上だったはずですが、お世辞抜きにお若いです。


そこから母と昔話に花が咲きまして、邪魔にならぬよう退席し自室に戻っておりました。




さて深夜アニメさん達もご無沙汰しております。


少しご一緒させていただきましょうか・・・



――――



三話分ほど視聴した頃、母より呼び出しがありました。


おばさまからお話があるとのこと。



思い当たることが無いままに応接間に向かいます。



――――


「じつは良い話があってね」


大きめの封筒をそっと渡されました。


要件は私へのお見合い話



驚いて声が出ませんでした。まだ『じゅうななさい』ですよ。



おばさま曰く 将来性のある好青年


母が口出しをしないところを見ますと婿入りなどの条件も当家として問題はなさそうです。



「会うだけでもどうかしら」



チクリと痛む心



「実は気になる人が居まして・・・」


「あら それでは無理に勧められないわね。 無かったことにしましょうか。 ごめんなさいね」


「せっかくの良いお話を申し訳ありません」



失礼にならぬよう封筒も開けず、お写真を見ることもせずお返し致しました。

少しでも見てしまったら、相手として検討した上でお断りしたことになってしまいますからね。


おばさまにはお話を持ってきて頂けたことに感謝し、光栄に感じていることを言の葉を尽くしてお伝え致しました。



――――



おばさまが帰った後、母は何も言いませんでした。



とっさに口にしてしまった言の葉


私の気になる人って誰なのでしょう。




実はまだ顔さえも知りません。



『恋愛の末に結婚を考えたい』 ただそれだけなのです。


きっと母はわかってくれたのだと思います。




恋にもならないあのチクリと痛んだ感情



私はまだその名前すら知りません。


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