第12話 百合さんと義理チョコ



「義理チョコの作り方をおしえてください」



百合さん 何を言っているのか理解できません。


如月の風もまだ寒いある日

頬を紅くした美少女が訪ねて参りました。



「みんな男子にあげると聞いたから私も作ってみたいだけです」



そうですか。 だから義理チョコなんですね。

もう五年生ですから皆さん気を遣うのかも知れませんね。


いくつ作りましょう。



「ひとつだけです」



百合さん それは義理チョコなのでしょうか。

お姉さんの知っている義理チョコとはちょっと違うような気がして参りました。



「あげるのが好きな男子じゃないときは義理チョコです」(ふんす)



そうですね。好きではない男子に渡すのです。それは義理チョコですね。

限定数1の手作りチョコでも義理チョコですね。



お姉さん眩暈がしてまいりました。




――――



「雪ねえさまは教えるだけですよ。 手伝ってはいけません」



わかりました。指導に徹します。

でもどうしてですか。



「チョコレートに『聖女の術』を使ったらズルいじゃないですか」



ブレませんね。私は聖女ではありませんよ。



自分だけの力で自分だけの想いを込めて作りたいのですね。

とても真剣なことが伝わってきます。


真剣に想いを込めて『義理チョコ』を作るのです。


恋する乙女が可愛いです。恋する百合さんが可愛いです。





作るのはカップケーキとプチチョコレート


手作り感があって可愛らしいチョコレート味のカップケーキを提案したのですが



「チョコレートだってわかってくれないかもしれない」


だそうでして・・・


百合さんの想い人はどれだけ鈍感なのですか。


追加でひとくちチョコレートを作ることになりました。



お母さんのお手伝いはするけれどお菓子作りは初体験


チョコレートの溶かし方も知らない百合さんです。

私もそうでしたからね。初歩から覚えていきましょう。



優等生の百合さんはこんなところでもまじめに努力します。


ひとつひとつノートに書き留めて自分のものにして行きます。

しかもかわいいイラスト付き

材料を混ぜている女の子とうさぎさん


あやうく抱きしめてしまうところでした。


さあ まずはカップケーキから作りますよ。



――――



調理中の定番ハプニングはきっちりと披露して頂きました。


なかでもチョコレートを鼻の頭に付けた姿は素晴らしい物がありました。

わざとではないのですよ。

どうして美少女は天然でこのようなことが出来るのでしょうか。


もちろん写真に収めさせて頂きましたよ。数年後に一緒に見ましょうね。



――――



美少女の百合さんとわちゃわちゃしながら仕上げたお菓子たち



いくつも作ったお菓子から良く出来たものを選び出します。


選ばれたのはカップケーキがふたつ プチチョコみっつ



何度も何度も確かめて袋詰め


仕上げにリボンを結ぶ震える指先にまで想いが溢れていました。


仕草のひとつひとつが眩しくて、恋をすると綺麗になれるって本当なんですね。



丁寧に想いを込めて、ひとつだけ作られた『義理チョコ』


大丈夫 百合さんは恋する乙女として全力を出しました。





恋する乙女にとっては決戦の日


お姉さんとしましては結果がどうなったのかとても気になります。


そこで百合さんと水玉さんをお招きしたお茶会という事情聴取

お茶菓子と恋バナに浮かれた水玉さんの口は軽くなり詳細まで教えて頂きました。


学校では独特の浮き足だった空気が流れていたようですが「義理チョコ」を男子に配るご学友さんはいなかったようです。

そうですよね。小学校で義理チョコ配りはしませんよね。


百合さんの様子と言えば・・・


想い人へチョコレートを渡す女子がいないかとずっと睨んでいたそうです。

でも百合さんは渡す気配無し

異様な緊張感が有ったようです。



学校が終わって帰宅後が本番でした。



頑張って用意したチョコレートを胸に彼の家の玄関先に立つ百合さん


呼び出された彼と無言でにらめっこ



「義理チョコもらってくださいっ」



と押しつけて返事も聞かずに帰ってきてしまった百合さんでした。



――――



不安だからついてきてとお願いされて、後ろで見守っていた水玉さん

この甘さを目の前にしてよくぞ耐えきりましたね。



逃げるように帰ってしまった百合さん 落ち込みました。



「うまく渡せなかった」


「お話も出来なかった」


「きっと嫌われてしまった」



きっと心の中に想い描いていた台本と大きく違ってしまったのでしょう。


落ち込む百合さんと 生暖かな視線の水玉さん


台本通りに進まなくても十分甘かったみたいです。



嫌われてなんていませんよ。自分の意志で一歩進んだ乙女の勇気を称えます。




慰める水玉さんがとっておきの情報を教えてくれました。


彼が『好きな女の子のタイプ』の情報です。



『髪が長くて、大人しくて、読書の好きな女の子』



名指しですね。百合さん ご指名ですよ。


教えてもらった百合さん しばらく考えた後



「雪ねえさま 取っちゃダメです」



あの・・私 小学生男子には手を出しませんよ。


・・・たぶん



恋する乙女って自分のことが見えなくなるのでしょうか。


恋敵認定されてしまいましたよ。



同時にため息をつく水玉さんと心が通う昼下がりでした。

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