第2話 百合さんと雪ねえさま

読書の手を休めて窓の外を見るといつの間にか日が傾いてきたようです。 

もうこんな時間ですか。


飲んでいたお茶も冷えてしまいました。



ちょっと腕を伸ばしてストレッチ 

最近運動不足ですね。


さらには先日友人からのお誘いで甘味をかなり頂きました。私の決意もケーキ食べ放題の魅力には勝てません。


これは友人が悪いのです。私は悪くないはずです。お付き合いを重視したのですから仕方ありません。


おかげでかろりぃさんが意地悪を致します。

余分なところにはお肉が付くのですが、欲しい場所にはまったく付かないとはどういう原理なのでしょう。

誘った友人は欲しいところに付いているのですよ。 理不尽です。


読書だけでは身は引き締まらないようです。久しぶりにお庭で素振りでもしましょうか。


私の愛刀『聖デュランダル』を手に取ります。

・・・嘘です。 普通の薙刀木刀です。


身支度をしながら外の様子を伺います。



おや 気が付けば庭先に可愛いお客様がいらっしゃったようです。



窓の外には広く高く枝を伸ばした大きな木


彼女によれば『世界樹』だそうです。

随分と立派な枝ぶりですので名に恥じないのではないでしょうか。



世界樹の下に置いたテーブルセット

テーブルの上にはラベンダー色のランドセル

よく自慢話を聞かされます。気に入っているのですよね。




今日はお友達が一緒ではないようで一人で日差しを浴びています。


いつもの椅子に座って足をぶらぶら



この仕草は私に何かお話をしたいようですね。

ちょっと顔を出してみましょうか。


素振りは明日にしましょう。可愛いお客様が優先です。可愛いは正義です。

運動が面倒なわけではありませんよ。



庭に出て通用門をくぐれば黒髪の揺れる背中が見えます。



「百合さん こんにちは」



振り向く笑顔は花が咲いたようで眩しいです。

どこかの清涼飲料水のCMに出ていそうな爽やかな美少女



「こんにちは 雪ねえさま」



私のことを姉のように慕ってくれます。

髪を伸ばしているのも私の影響だと親御さんから聞いております。

前髪まで髪型をそろえて嬉しいではないですか。

いつも全力で可愛がらせていただいております。



それにしても今日はいつもより早いご登場ですね。



「委員会がお休みだったから早く帰ってきました」



百合さんは図書委員さん

小さなころから本が大好きな彼女にはぴったりな委員会です。


ライトノベルに凝っておりまして、最近は異世界小説を好んでいるご様子

私が貸し出して布教した部分もありますが、異世界文化が大好きです。


今の愛読書は『聖女の魔力は万能なのです』



日差しを遮るように枝を伸ばす大樹くすのきを『世界樹』なんて言い出したのはご愛敬

最近は私を聖女だと思っているようで、これは重症かもしれません。



まあ私がいたずら心でやらかしてしまったことが原因でして・・・


彼女の目の前で『聖女の術』を発動させたことがあるんですよ。

もう黒時代なんてものではありません。


もちろん私は聖女ではありませんし魔力もありませんよ。


しかし彼女に真実をお話し出来る雰囲気になりません。


だって純粋な美少女を落胆させたくないじゃないですか。

美少女にキラキラした上目遣いで見られたら期待に応えたくなりますよね。

彼女が飽きるまで聖女でいようと思います。頑張ります。



本当に聖女の魔力が万能ならばいろいろとやってみたいことがございます。

殿方を魅惑するとか・・・ お胸をもう少し・・・


恋に恋する乙女としては妄想が広がってしまいます。

私の方が重症ですね。きっと かなり 確実に



私欲に塗れた私は聖女には程遠いようです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る