1人ぼっちの魔法少女

「魔物の反応が消えた?」

 

 魔法局北関東支部から出動の要請を受けて現場に向かっていた魔法少女は首を傾げながら、電話をして来た魔法局のオペレーターに聞き返した。


 魔物の討伐は魔法少女としての宿命だが、そこにはルールやマナーと呼ばれるものがある。

 まずは魔法局が捉えた魔物の出現予兆を各エリアの担当の魔法少女に連絡を入れ、その中で動ける魔法少女が討伐に向かうのが通常の流れだ。


 今回はエリア担当の魔法少女が3人居る中で、2人が不祥事を起こしてしまったので1人での討伐となった。

 魔法少女としては中堅となる彼女にとって、今回の出動はちょっとしたお小遣い稼ぎ位の感覚だ。


 それがまさかの土壇場でキャンセルとなり、残して置いたプリンを食べられた時の様な気持ちになる。

 

『はい。対象の出現反応を捉えた後、直ぐに消滅しました。出現時の反応からE級相当との確認は取れています』

 

「そう。雑魚だから構わないけど、原因は分かるの?」

 

『恐らくは偶然居合わせた野良の魔法少女かと……』


「こんな田舎の山に野良の魔法少女ね~? 妖精界からも連絡はないのよね?」


 言外にそんな訳ねえだろうと匂わせ、申し訳なさそうに話すオペレーターを突き放す。

 場所は群馬県の妙義山の麓辺り。昔は多少民家も在ったが魔物出現に伴い、今は廃墟が僅かばかり残る程度になっている。


 そんな場所に偶然とは言え、他の魔法少女が来るなんて普通は考えられない。

 そう考えながらも取り合えず指定されたポイントに一応向かう。


 魔物が消滅したとは言え、その原因が不明となると後々調査に向かう必要がある。

 ならばこのまま向かってしまい、現場の確認だけでもしておこうと、彼女は考えた。


 指定されたポイントに着いた彼女は、地面に突き刺さっている数本の氷の柱を発見し、先程とは考えを改める。


(もしかして、本当に野良の魔法少女が倒したのかしら?)


 今となってはかなり珍しいとはいえ、野良の魔法少女は少数ながら存在する。

 だが、野良の場合は妖精界から来た妖精が専属のサポートをしている事が多く、その情報は魔法局にも知らされる事になっている。


 野良が魔物を倒した場合、そのサポートから魔法局に連絡を入れるのが普通だ。

 なので、魔物が倒されてから何の音沙汰もないのはおかしな話なのである。


 しかし、この場に訪れた彼女の目の前には魔法で作られたであろう氷が地面に刺さっている。 

 

「これって見えてる?」


『はい、見えています。これは魔法でしょうか? 近隣の魔法少女で氷を使う魔法少女は居なかったはずですが・・・』


「そうみたいよ。魔力を感じるから間違いないわ」


 魔法少女はそっと氷に手を触れ、その感触を確かめる。

 多少肌寒い気温とは言え、全く溶ける気配はなく。氷から溢れる魔力が、この氷は魔法だと魔法少女に知らせる。


「白橿さんか、局長は居るの?」


『現在スターネイルとブルーコレットが起こした事件に掛かりきりで手が離せないそうです』


「そう。取り合えずこの件はそっちに任せるわ。もう帰って良いかしら?」


『こんな結果になってすみません。妖精界のテレポーターの使用許可は取ってあるのでお気を付けてお帰り下さい』


 魔法少女は通信を切り、何時もの様に妖精界を通って家に帰った。

 

(やれやれ、明日も学校だし早く寝てしまいましょう)


 家に着く頃には既に0時を回っており、うら若き少女が寝る時間としてはとても遅い。


 それでも、魔物が現れたら戦わなければならないのが魔法少女である。



1



「目は覚めたかいハルナ」


 嫌な事件魔法少女化があった次の日、テレビから流れてくる音で目が覚める。


 眠い目を擦りながら起き上がると、アクマに声を掛けられる。


 魔法少女の時は深い青だった髪は変身を解くと真っ白になり、服はアクマチョイスの女の子らしい服だったので、脱ぎ捨ててブカブカなジャージに着替えた。後で服を買わなければ。


 当たり前だがアクマが言ってた通り、変身を解いても少女のままである。


 (おはよう)


「おはよう。そうそう、テレビを見てみなよ。面白いものがやってるよ」


 首を傾げてアクマに言われた通りにテレビを見ると、昨日俺が立ち寄った公園で起きた事件が放送されている。


 魔物に襲われた事件に捏造されると思っていた事件が、名前は無いとしても魔法少女が起こした事件として世に出るとは思わなかった。


「不思議そうだね」


 コクりと頷き続きを促す。


「今回のは私の方から妖精界を通して魔法局に抗議をしたからね。ここ数年は魔法少女の質の低下や、魔法局の魔法少女贔屓が結構酷かったし」


 (確かにそうだな)


 魔法少女が居なければ破綻する世界だとしても、俺の身に起きた事件しかり、魔法少女が起こしたと思われる事件が多数起きている。


 恐らくだが、凡そ20年程前から始まった魔法少女ランキングが1つの要因だと俺は考えている。


 本来ならやる気の向上や話題性による魔法少女の地位向上等を狙ってたらしいが、ランキングによる力の格差やそれに伴った魔法少女間の抗争や、派閥争いが起きるようになった。


 魔法少女間で問題を起こすのは構わないが一般人は巻き込むなと、巻き込まれた俺は思う。


 だらだらとニュースを見てるが、幸い俺の名前は公表されなかったので良かった。まあ、焼け焦げたスーツ位しか現場にはなかったし、車はいつの間にかアクマが回収してくれたみたいだから、俺に繋がる証拠は見つからないだろう。


 取り合えず腹も減ったし飯を食べるとしよう。


 (何か食べる?)


「トーストを半分位貰える?」


 (了解)


 2枚だけ残っていたトーストをトースターで焼いて、半分に裂いてからジャムと一緒にアクマに渡す。

 何時もなら珈琲も淹れるが、賞味期限が近いオレンジジュースがあるので処理してしまおう。


「所でハルナ」


 (なに?)


「何で話さないの?」


「今までの声との違和感と、何よりも話すのって面倒臭くないですか?」


 考えを読めるのなら無理に話さなくても良いだろう。どうせこんな身体では社交性なんて無くても困らない。


 魔法少女として戦わないといけないのだから、それ以外の事では極力頑張りたくない。

 それと何か恥ずかしいし。


(どうせ伝わるなら良いじゃん)


「そうなんだけどさ、一人だけ声出してるのって滑稽じゃない?」


 俺には思考を読むなんて事は出来ないからな。魔法みたいなものは使えてもPSI超能力は使えない。

 アクマのおかげで生きていられるとはいえ、こんな姿にさせられた恨みも一応ある。

 まあ、気が向いたら喋る位で良いだろう。

 

「ふーん。やる事やってくれれば何も言わないけど、どうせ引き籠っても居られないんだから色々と慣れといた方が良いよ?」

 

(それはどうしてだ?)


「先ずは魔法少女ランキングの上位に入ってもらうからね!」


「あれって公式じゃないと駄目だった様な気がするんですが?」


「知名度が上がれば勝手に載るし、一応私が機会を見て載せるからね。一応魔法局の公式HPに載ってるけど、あれの集計をやってるのは妖精界だしね」


 あちこちで戦っている魔法少女を良くまとめられるなと思っていたけど、そういう事だったのか。

 

「一応個人ごとの掲載情報は各魔法少女に委ねられているけど、戦闘動画や写真はそれなりに良いお金になるから載せてる子は多いよ。お布施機能もあるからそれで応援とかも出来るし」


 俺も動画を見たりした事はあるし、何ならお布施もしたことはある。

 このままいけば俺が載る側になるのか。


(出来れば遠慮したいんだけど)


「当分は正体不明で活動するから安心して良いよ。動画も顔は分からないようにするし、公開も時期を見てからだしね」


 そこら辺の魔法少女関連の事はアクマに任せるしかないか。よく分からない物に手を出すのは無謀だし。

 魔法少女のせいとはいえ、本当に面倒臭い事になった。


 小さくなった口でトーストを食べ終えるとこちらをジーと見つめるアクマが視界に入る。無視をしたいが無理そうかな。


「どうかしましたか?」

 

「うん。今日からの流れを説明しようと思ってね。」


 アクマがパチンと指を鳴らすと既に色々と書き込まれたホワイトボードが現れた。


「それではアクマによる魔法少女&魔法局粛清講座を始めます」


(わーぱちぱち)


「ご声援どうも。さて、契約として私の好奇心の為にハルナには頑張って貰うけど、別に世界を滅ぼしたいとか混乱に陥れたいとか変な事は考えてないから安心して欲しい」


正直世界を滅ぼすなら滅ぼすで構わないけど、ここは黙っておこう。


「先ずは魔法少女ランキングを上げて、周りが無視できない状態になること。そのついでに魔法少女間の争いの阻止。次に馬鹿な大人達の粛清だね」


 成る程。俺個人の影響力を強めながら、俺みたいな犠牲者を減らすために動くと言うことか。

 そしてその後に魔法少女を躾る事も出来ない大人をどうにかすると。

 

「別に全ての魔法少女が悪いわけでもないから、ハルナの意思次第では魔法少女を助けたり、多少なら害しても文句はないよ。ハルナも被害者だしね」


 やることが決まれば後は行動するのみだが、魔法少女としては俺は初心者だ。正直魔物との殺し合いも、まだ割り切ることは出来ない。


 死にかけた経験もあって身体が固まったり震えたりはしながったが、昨日の初戦も怖くて仕方なかった。

 だが、それをおくびにも出さずにいられたのは、中身が男で大人だからだろう。

 若しくは……いや、止めておこう。

 

(何処かで訓練や魔法の練習が出来たりする場所ってある?)


「本当なら妖精界で模擬戦や訓練が出来るんだけど、ハルナの存在はまだ秘密にしたいからね。私が用意するシミュレーターで我慢して」


(ういっす)


「基本的に、他の魔法少女より早く魔物の出現場所に行き、公式の魔法少女が到着する前に討伐から撤退をしなければならない。移動の方は私が何とかするから、ハルナは周りに被害が出ない様にするのと、素早く倒す事に集中して欲しいな」


(被害って、A級や超級なんかの時に使われてる戦闘フィールド的なものは無理なのか?

 あれを使えば被害なんて出ないだろうに)


「流石にあれは燃費が悪いし、そこまで贔屓にすると後々面倒だからね。それだけ強力な相手が出て来れば使うけど、そこら辺は他と変わらないさ」


 言われれば、そうだなと納得する。

 ただ、被害を抑えるとなると使える魔法が大きく制限されてしまう。そこら辺は後で考えるとしよう。

 

「それじゃあシミュレーターで訓練だーって言いたいところだけど、残念ながら今から魔物討伐の時間となります」


 アクマが説明に使っていたホワイトボードを裏返すとそこには実戦に勝る訓練無し! と書かれている。

 初心者に厳しすぎませんかね~?


 朝食を食べて30分位しか経っていないというのに気の早いものだ。

 それに初戦から言えば、まだ1日も経っていないと言うのに……。目の前の妖精のやる気に少々げんなりとする。

 そんな俺の事など知らんという様に急かしてくる。

 

「それじゃ、変身してからレッツ討伐!」


「はぁ、変身」


 髪が先から流れるように色を変え、ふわりと舞い降りてくる白いローブに袖を通してフードを被る。

 昨日は出してた杖は部屋の中では邪魔になるので、出さないでおく。


「ほいほいっと!」


 昨日と同じく一瞬の暗転と共に景色が変わる。

 あっ、靴履いてないわ。


 (靴ってある?)


「ああ、変身に登録するのを忘れてたよ。はい、靴」


 (ありがとう)


「その内出現すると思うから、見つけ次第討伐しちゃってね。魔力パターンの予想ではG級が3体だから目標は20秒ね」


 G級ね~。弱い分には構わないけど、どうなることか。

 時間制限もあるから一撃一殺でやらんとな。


 杖を出してのんびりと周りを見渡す。何処かの河川敷みたいだけど、何処かは分からない。


 場所が場所だから人気が無いのは有りがたいが、足場が悪い。


そうこうしていると、自分のとは違う足音が聞こえた。音がする方を見ると、真っ黒い子供みたい魔物が居る。


「それじゃあ、スタート!」


 仕方ないが、やるだけやろうかね。アクマの声と共に杖を構えて魔物を見据える。

 昨日は氷だったので違うものを使うとしよう。

岩よ押し潰せストーンプレス


 円柱の岩を各魔物の頭上に出し、それを落とす。岩はドスンと音を立てて魔物を押し潰す。これにて討伐完了!

 昨日もそうだが何の技術も要らないから楽だなー。


「やっぱり遠距離系の魔法少女だと、雑魚は的にしかならないねー」


 (適当に狙って撃って終わりだからな)


 素早い敵や、簡単な魔法で倒せないレベルの耐久力のある魔物が出ない限り適当に魔法を撃ってれば勝てそうである。


 この身体でどれだけ動けるか分からないし、後でランニングとかしてみよう。


(これで終わり?)


「いや、ハルナが限界になるまで片っ端から横取りしていくよ」


(了解)


 アクマが核の回収を終えると共に、また視界が暗転し、何処かに跳ばされた。


 そしてこの日、俺が家に帰れたのは日付が変わってからだった。

 お昼と夕飯の時間は帰れたので、良かったと考えておこう。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る