第三章 ミネの胸の内(はあるのか)

-1- アンドロイド研究室にて

 ラオレ・アル博士が研究所を出てから半年が経過した。彼のことは心配ではあったが、俺は目の前の仕事に追われていて、なかなか様子を聞くことができないでいた。


(一度くらいは様子を見に行くべきか……?)


 そう思ってはいるものの、彼は俺の連絡を返さない。まあ、自分が作ったアンドロイドを自分で壊してしまうという体験をした以上、アンドロイドが怖くなるのは仕方ない。


 とはいえなあ。俺までだめか?

 一緒にピアノスについて話し合ったり,プライベートでも飲みに行ったりドライブしたりした仲じゃないか。そりゃあ、あいつが大変なときに支えてあげられなかったのは申し訳ないとは思うけど……。


 今日も今日とて研究室では、研究や開発が続いている。


 いつもならラオレがいるはずの席には、ラオレの助手をしていた女性型アンドロイド――ミネが座っている。

 アンドロイドのメンテナンスに特化したアンドロイドで、感情はない普通の量産型アンドロイドだ。


 彼女の外見について触れるならば、髪はジンジャー色のミドルヘア。白衣の下は白色のブラウスを着ていて、赤いネクタイを締めている。赤と白がよく似合っている。


「おーい、どうするよ?」


 パソコンに向かっていたミネの背中に話しかけると、ミネは回転イスを回して振り返った。


「何か、カワカミチーフ」

「ラオレのことだよ。お前も帰ってきて欲しいだろ?」


 ミネは無表情のまま首を傾げた。


「何故ですか」

「何故って……あいつがいないとよ、いろいろ大変だろ? 仕事が増えちまってさ」

「ラオレ博士がいなくても、問題ありません。彼はただの研究員の一人です」

「そんなことないだろ」

「事実を言ったまでです。強い固執は効率的とは言えません」


 淡々とした声で返事をするミネは、たまに怖いことを平気で話す。

 相変わらず無愛想なアンドロイドだなぁ。これじゃあ友達ができないわけだ。もっと感情的な話し方をすればいいのに。


 しかし、アンドロイドというのは普通そういうものだ。機械的な会話しかできないようにプログラミングされているし、その方が合理的で無駄がないとされている。


 それにしても……感情を持たない、か。

 半年前はピアノス開発チームとして数十人とアンドロイドの感情について熱心に研究していたが、ピアノスの全壊事件が起きたせいで、彼らの士気は失せてしまったそうだ。結局普段通りの研究に元通り。


 ラオレは今頃どうしてるかな……。雨の街に向かったって噂は聞いたが、あの街は型落ちしたアンドロイドと高齢者しかいない。それを知ってのことなのか、自暴自棄になってのことなのか。


 どちらにせよ、ラオレはしばらくは俺たちの前に現れないだろうな。

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