夕獄

桜丸

第1話 朝焼けの忘れ物

浅い夜に眠ってしまったことを後悔させる日差し。

二十歳も半ばに差し掛かり、嫌気を刺す気力も薄れ、まばらに濡れる目元は、置いてけぼりだ。

二年の夏。恋慕に夢うつつだったあの頃は一体…

渇きかけた目元を早く閉じようと私は躍起になっていた。


ーーーーああ、もう終わったのか。

私は彼らの仮面をぶつけ合う音が嫌いで、またそこから逃げ出した。

錆びれた家の匂いを懐かしく思うのは何度目だろうか。私に陰りを映してくれるまで、時が経つのを数えた。



ーーーー目が覚めた。私が夜中に目を覚ます時はいつも何かが違う時だ。私は小さな不自然を丹念に手繰り寄せた。そしてようやく合点が行った。ハンカチを忘れた。あれは唯一、青春の匂いを思い出せるものだった。

私は走り出す足を咎めることが出来なかった。

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