第19話 魔法力向上で高品質すぎる商品爆誕

 

 2人での採取は時間を忘れるほど楽しい。


 採取をしない雨の日は、次に会える晴れた日の陽射しが照らすリヴィオネッタの姿を想像するのが楽しい。


 雨が上がってようやく会えた日は、純粋な喜びが湧き上がるし、生身の彼の美しさに心が癒される。




 林で過ごすようになったミリオンは、これまで以上に毎日が充実していた。


 林の恵みにも詳しくなったし、何よりリヴィオネッタと過ごす時間がキラキラしている。


 それだけでなく、楽しく採取する彼女の手に触れられる木の実や花は、自ら望んで力を貸そうとするのか、輝きや芳香で摘み取るべきものを伝えてくれる。


 実際に採取してみれば、これまでコゼルトやペシャミンが集めていたものよりも香りや効果の高い商品となった。




「もしかして、ミリの魔法力が強くなっているんじゃない?」


 ミリオンから引き受けた採取籠を覗いていたリヴィオネッタが、しばらく深刻な顔で中身を吟味した後で、ふいにそんなことを口走った。ちなみに「ミリ」と云うのは、リヴィオネッタの言う「特別」が嬉しすぎたミリオンが、自分も特別呼びが良いと頼んで、彼に付けてもらった愛称だ。


「魔法力? そうね、採取するのに遠くの匂いを嗅ぎ取るための風の魔法や、植物を綺麗に引き抜く土の魔法、それにたくさん運ぶために力を上げる火の魔法も使っているわ。良い訓練になったのかも」


 愉しい素材採取の時間をより充実させるため、ミリオンの魔法行使の巧みさは確実に向上した。けれど、その答えを聞いたリヴィオネッタは「そうじゃなくて」と、考えを巡らせるよう口元に拳を当ててしばらく熟考してから、ゆっくりと口を開いた。


「僕が『翠天すいてん』に近い性質を持っていて、特徴である悪戯が身近でよく起こるのと同じように、他の使徒も特徴的な現象が身の回りで起こるってことだよ。この国に現れる4人の使徒は、生まれ変わりを繰り返すから同時に2人が存在することは無い。そして、ミリの採取を見る限り、ただの魔法の力とは思えない効果が上がってるんだけど……」


 魔法で、鑑定の力を持つ者は、より良い品質のものを選ぶことが出来る。ただ、その魔法は選べるだけで、探し出すのは別だ。ミリオンは、広大な林からそれだけを的確に見付け出して採取する。無意識に。


 たった今、ミリオンが摘み取った輝かんばかりの光沢と芳醇な香りを放つ赤い果実を受け取ったリヴィオネッタは、それをそっと腕に掛けた籠に移す。


「見て、この籠の中の瑞々みずみずしさとかぐわしさが半端ない自然の恵み。王室御用達の御料地からの献上品だってここまで極上なものはそう見ない。けどミリオンが集める物はいつもこれが一般的なクオリティだ。―――もう尋常じゃないよね」

「それくらい普通じゃ……――――なさそうね」


 ぼんやりと、籠全体が超高品質の品々の放つ光に包まれている気がして、ミリオンはそっと視線を逸らし。リヴィオネッタは苦笑する。


「普通の魔法じゃないとしたら、それは使徒の力ってことだよ。僕の『翠天すいてん』以外ってことになるから、ミリは穢れを許さぬ白い翼の『天使』、安寧をもたらす黒い翼の『黒天こくてん』、覇気湧き起こす赤い翼の『焔使えんし』のどれかってことになるんだけどね。おそらく穏やかなミリは安寧の『黒天こくてん』だと思う」

「わたしが……使徒」


 呆然と呟くミリオンの脳裏に蘇るのは、天使として皆からの愛を一身に受け、ついには命をもあっさりと奪おうとしてきた義姉ビアンカと元婚約者セラヒムの姿だ。


「全然うれしくないわ」


 ぶるりと肩を震わせて、素っ気なく言い切ったミリオンに、リヴィオネッタが目をぱちくりさせ、すぐに笑顔となった。


「ふふっ、僕と一緒だ」

「そうなの? リヴィも使徒ってことがうれしくないなんて意外だわ。けど一緒って、なんだかうれしいね」

「そうだね。僕もまさか一緒に『使徒であることが嬉しくない』なんて言い合える子があらわれるなんて思ってもみなかった」


 使徒重視の王国の中に在って、そこに価値を見出さない稀有な存在に出会えた2人。


 彼らの喜びを交わし合う、くすくすと云う笑い声が穏やかに林に響き渡った。





 けれど、安寧をもたらす黒い翼の『黒天こくてん』であるミリオンが、無意識にとは言え、能力を発揮して採取した素材を用いた商品は、類を見ないほど高品質なものとなり、コゼルト薫香店の評判は、見る間に上がって行ったのだった。


 だからミリオンの目立ちたくないと云う思いに反し、その評判は、彼女自身の容姿と気立て、薫香店の売り上げ向上に伴ってどんどん上がって行くのである――――。

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