第2話 ルーフル王国

「おい、どうした若い子がこんなところで」

「い、いえ」


 声を掛けようと迷っているうちに向こうから声を掛けられた。

 ただし声の感じは怒っているのではなく、心配しているようで俺は胸をなでおろす。

 日本語ではないようだけど、すっと言っている意味は頭に入ってくる不思議だ。

 また向こうの言語もなぜかすんなり話せることに気が付く。


「実は遠くの世界から飛ばされてきてしまいまして」

「なんだそれは。記憶喪失か?」

「記憶喪失とはちょっと違うんですけど、似たような状況です」

「なんだかわからないが変な格好だからな、まあいい」

「いいんですか?」

「ああ。別に指名手配ではないのだろう?」

「はい」

「そりゃぁ指名手配で堂々とカップルがいちゃつきながら門を通ろうなんて思わないだろうしな、がっはは」


 ちょ。おじさん。カップルと言われて気持ち手に力が入った。

 隣を見るとエリナも頬を染めて気持ち下を向く。

 照れてるエリナの顔、めっちゃかわいいな。


「すみません。ここどこなんでしょう?」

「ルーフル王国だよ。王都マルタイといえば知らない人がいないくらいんだけど」

「すみません」

「いやいや。よほど遠くからきたんだねぇ」


 なんだか感心されてしまった。


「特別に通行料はなしでいい。旅人でも商人でもなさそうだ」

「え、はい。中学生で」

「そっか、そっか」


 頭をポンポンとそれぞれされて、門を通してくれた。


「すごい」

「ほんと」


 門の中はすごい。

 通り沿いにずっと露店が並んでいる。

 たくさんの人が行き来していて、とてもにぎわっていた。


 しばらく通りを見物した。


「ねえ、君たち」

「はい、なんでしょう?」


 商人風の人が声を掛けてくる。


「その服、売ってくれ! いくらだ!」

「えっ、すみません、替えもなくて」

「そうかそうか。じゃあこっち服屋があるから、一緒に行こう」

「え、あ、はい」


 俺たちが連れられて行く。

 それはそれは立派な大きい服屋があった。

 生地から既製品までずらっと並んでいる。

 色とりどりでとても綺麗だ。


「んじゃ、服選んでいいよ」

「そう言われても」


 お店の人に適当に選んでもらい、それを試着室で着替えてくる。

 お互いブレザーの制服を脱いで、地元の服に着替える。


「いいねいいね。似合ってるよ」

「えへへ」


 エリナもニヘラと笑った。

 クラスメートの目もなく、こうやって買い物をするときはこんなふうに笑うんだな。

 エリナ、かわいいな。

 俺もそれを見てニコニコする。


「よし、じゃあ金貨六枚でいいか?」

「あ、え、はい」


 相場とかよくわからないけど、金貨といえば大金なのだろう。

 それから商人さんはお店の人に俺たちの服代を支払っていたけどそちらは銀貨だった。


「いい買い物が出来た。ありがとう。――シャープシェ」

「あ、はい。ありがとうございます。――シャープシェ?」

「そうそう、シャープシェだ。神に感謝をだよ」

「なるほど」


 なんかちょっと中東っぽい雰囲気の言葉かな、などと思う。

 一種の聖句なので、これは翻訳するならなんだろう。


「えへへ、お金も貰えたし、いこっか」

「お、おう」


 エリナがご機嫌で俺の手を取って引っ張っていく。

 普段大人しいのが嘘みたいだった。


「見て、噴水だよ」

「おう」


 通りの中央にロータリーがあり、そこに噴水があった。

 思い思いに水を飲んでいる人がいる。

 もちろん周りのロータリーでは荷物を満載した荷馬車がゆっくり回っていく。


「そうだ、水筒に入れていこう」

「うん」


 俺たちは部活の関係もあって水筒を持っている。

 まずは中をすすいで、新鮮なお水を入れる。

 他の人を見ると革袋に水を入れている人がいた。

 用途は同じなのだろう。


「この水筒、売ったらいくらになるかな」

「勢いで制服は売っちゃったけど、水筒は二度と手に入らないから」

「そっか、そうだよな」

「すぐ戻れるなら、制服売ったのも不味かったかもしれないわね」

「そういえばそうだな」


 ふむ。次は慎重にするべきか。


「なんか食べる?」

「うん」


 部活帰りの夕方でそれから何時間か歩いたのでそろそろご飯にしたい。


「すみません、串焼き四本」

「はいよ」

「あの、金貨しかないんだけど」

「しょうがないねえ、今回だけだよ」

「はい」


 串焼きを買った。お肉だ。

 なんのお肉かわからないけれど、タレのいい匂いがしている。


「うまい」

「美味しいね」


 二人で顔を見合わせて笑う。本当に美味しい。なんだこれ。

 異世界は飯が不味いとか噓だろ。先入観は改めなければならないな。

 確かに電子機器などはなく、そういう意味では遅れているかもしれない。

 でも他の文化には目を見張るようなものもある。

 例えばさっきの噴水も美しい彫刻像が何体も置いてあって、高い文化を感じた。

 材質も石かコンクリートだ。

 コンクリートって古代コンクリートっていって地球でも昔から実はあったりする。

 古代ローマ建築によく使われているらしい。

 金貨一枚がお釣りをもらって銀貨八枚になったので、これで色々買えそうだ。

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