第3話

 もともと、月代の父親は酒癖が悪かった。

 月代の実の母親との離婚も、それが原因だ。

 月代はまだ幼かったためはっきりと覚えている訳ではないが、父親は酒を飲むと暴力的になり、母親に暴言を吐いたり暴力を振るう事があった。

 それでも、お酒が抜けた翌朝には、土下座をして泣いて謝るのだ。

 朝の起き抜けの寝ぼけ眼で、母親に土下座をして泣いて謝っている父親の姿を何度か見たことを、月代はうっすらと記憶している。

 お酒を飲んでいない父親はとても穏やかで優しく、そんな父親が月代は大好きだった。

 もちろん、母親の事も同じくらい大好きだった。

 きっとずっと、父親と母親とこのまま一緒にいられるのだろうと信じて疑わなかったある夜。

 もうお酒は絶対に飲まないと誓ったはずの父親がお酒を飲んで帰宅するなり、母親へひどい暴力を振るった。

 父親の帰宅直前に母親によって子供部屋に押し込まれたため、月代は父親がどれほどの暴力を母親に対して振るったのかは、実際には見ていない。

 だが、翌朝見た母親の顔は大きく腫れあがり、腕や足にも赤い後がいくつもついていた。

 そんな母親に、父親はやはり土下座をして謝っていた。


「月代。お父さんとお母さん、どっちと一緒に暮らす?」


 土下座をする父親を目の前にして、母親は月代に尋ねた。

 泣いて謝っている父親。冷たく言い放つ母親。

 月代は母親の問いに答える事はできず、黙って父親の側に立った。

 そして。

 母親は幼い月代を置いて出て行ったのだった。


 母親が出て行ってから、父親は今度こそきっぱりお酒を断ったようで、仕事も家事も一生懸命にこなした。

 もともとは優しくて真面目な人だ。可愛い娘に不自由な思いをさせたくない、ただその一心だったのだろう。

 母親のいない淋しさはもちろん拭うことなどできなかったが、それでも月代は父親の愛情に包まれて幸せだった。

 そんな生活がしばらく続いたある日。

 父親が1人の女性を伴って家へと帰って来た。

 その女性は、男の子を連れていた。

 月代、8歳。

 それが、後に月代の兄となる陽太との出会いだった。

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