二幕  困難な救助ミッション(2)

 ルパートの魔法でほとんど倒してしまったので、残ったコウモリ系モンスターは簡単に駆除できた。

 私達はこれからついに不気味な廃村の中へ入る。


「けっこうデカイ村だな。一軒一軒調べていくと相当な時間が掛かるぞ? 二手に別れた方が良くないか?」


 セスの提案に、


「だな。俺はいつも通りウィーと組む」

「私もレディと」


 ルパートとエリアスがすかさず答えた。セスは苦笑した。

「あのなぁ、キースは回復役だ。村の中にも確実にモンスターが居る。こっちの班の攻撃担当が俺だけってのは流石にキツイぞ?」


 そうだろう。低ランクのフィールドならともかく、ここは強モンスターが潜むBランクフィールドだ。ベテラン職員のセスといえど一人で戦うのは厳しい。


「では私がセス殿と組もう。私達二人なら相当な戦力になるはずだ。そちらの班はレディ、ルパート、キース殿で」


 意外にもあっさりとエリアスが鞍替くらがえをした。ルパートもおや、という表情をした。


「組み合わせに関して文句は無いが……。エリアスさんはそれでいいんですか?」

「一刻も早く行方不明者を保護してやりたい。それに先程の戦闘でキミが強いと判った。レディとキース殿のことは頼んだぞ」

「あ、ああ……」


 ルパートは反目していた相手に認められて戸惑った。エリアスは公平に物事を見られる人なんだな。素敵。


「決まったんならすぐに行動しよう。俺らは右回りで村を探索するからおまえ達は左側を頼む」

「了解。ぐるっと回った村の反対側で落ち合おう。セスさん、手に余る事態に陥ったら発煙筒を焚いてくれ。モンスターにも発見されるが仕方が無い」

「そっちもな。じゃあ後で会おうぜ」


 セスとエリアスと別れて、私達の班は村の左手へと向かった。放棄されて数十年経った村。ひっきりなしに風が吹いているのに、村に漂うどんよりとした空気は吹き飛ばせていない。せめて晴天なら良かったのに、今日に限って曇り空だからなぁ。


「ウィーにキースさん、俺から離れるなよ」


 いつもチャラチャラしたルパートの顔が引き締まっていた。あんな凄い風魔法を披露した後だというのに、自慢することもいつもの人を小馬鹿にした軽口も無い。それだけこの村が危険な場所だということか。ううう。やっぱり怖い。

 一軒目の戸口に立った。覗いてみると床板が所々腐り落ちて、家の中だというのに雑草が生えていた。


「ギルドの者だ。誰か居るか?」


 ルパートが静かに、しかしよく通る声で家の中へ呼び掛けた。呪文を唱えた時もそうだったが不思議な響きが有る。そういえばキースが回復魔法を使う時もそんな感じの声を出しているな。魔法を使うには声から変えないといけないのか。

 応答する者は居なかったが、遺体が有るかもしれないので軽く家の中を探索した。人影もモンスターも存在しなかった。


 同じことを二軒目、三軒目と続けていき……四軒目でモンスターと遭遇した。

 二足歩行する豚、オークと呼ばれるモンスターだ。トロールよりも小柄だが知性は高い。ボロ布だが衣服を纏い、冒険者か旅人から奪ったと思われる片手剣や槍を所持していた。

 三体居たオークは私達に気付いた後に襲い掛かってきたが、私の鞭よりも先にルパートが斬り込み、あっという間に三体とも斬り伏せてしまった。さっきは魔法だったが今度はルパート自体が風のように舞った。


「先輩って……強かったんですね」

「まーな」


 目を見張る私にルパートはぶっきらぼうに答えた。キースが突っ込んだ。


「ルパートの強さには僕も驚きましたが、ロックウィーナにとっては長年バディを組んできた相手でしょう? 彼の実力を知らなかったんですか?」

「実戦で剣技を見るのはこれが初めてでして……。魔法を使えることも知りませんでした」

「ええ? そうなのですか!?」


 ルパートは基本、訓練場では黙々と筋肉トレーニングをしている。私と模擬戦をすることも有ったが、明らかに手加減してくれていたので本当の実力は測れなかった。

 一撃の重さとリーチの長さはエリアスに軍配が上がるが、器用さではルパートが勝っているように思えた。本気を出したルパートはエリアス並に強いのかもしれない。


「今までの出動でモンスターに遭わなかった訳ではないでしょう?」

「それが……事前にルパート先輩が気配を察知してくれるので、隠れてやり過ごしてモンスターと戦うことは無かったんですよ」

「ええ? それって凄い能力じゃないですか……? あ、そうか、風魔法の使い手は遠くまで見通す目を持つと比喩ひゆされています。風を通じて数十メートル先の気配を掴んでいるのかもしれません」

「ルパート先輩、そうなんですか?」

「まーな。この村は空気が淀んでいて感知しにくいんだが」

「先輩、何でそんな便利機能を今まで隠してたんですか?」

「変な言い方すんな、機能って何だ。別に隠してた訳じゃねーよ。聞かれてたら答えてた」

「こちらから聞いてないのに好きな食べ物や好みの女性のタイプ、恋人ができたらデートに行きたい場所とかは滅茶苦茶アピールして来るじゃないですか!」

「わ、馬鹿、キースさんも居るってのにそんなこと……」


 私達の話を聞いて、今年30歳になるお兄ちゃん的存在のキースは大きな溜め息を吐いた。ちなみにルパートはもうすぐ28歳で、毎年のことだが誕生日プレゼントをしつこく要求してくる。ウザイ。


「ロックウィーナ、ルパートは好みの女性のタイプを何と言っていましたか?」

「あ、それは……」


 言うとルパートは恥ずかしいよね。彼を思いやるなら黙っていてあげるべきだけど……。少し考えたが普段からムカつく奴なのでバラすことにした。


「いつも一生懸命で裏表が無い年下の女性らしいです。護られていることを当たり前だと思わずに、自分も戦おうとする芯の強さが有る人なら尚良しだと」

「それを聞いてあなたはどう思いましたか?」

「女性冒険者で薬師のセシリーさんがその条件に当てはまるので、ルパート先輩は彼女を狙っていると思いました。彼女がギルドへ来た時はいつも愛想良く接していますし」

「あはは……そうですか」


 キースは乾いた笑いを見せた後に、頭を抱えているルパートの肩を軽く叩いた。


「ルパート、もう少し積極的に行かないと伝わりませんよ?」


 そうだね。セシリーの居るパーティに対してルパートは笑顔だけれど、「気をつけて行ってらっしゃい」くらいしか言えていない。狙っているのならもう少し積極的に話し掛けないとね。


「いいから、そういう話は! 次の家に行くぞ!」


 珍しく赤い顔をしたルパートは早足で家を出て行った。キースに好みのタイプを知られたことがよほど恥ずかしかっと見える。ざまぁ。

 急いで彼の後を私とキースで追ったのだが、ルパートは入口すぐ横でちゃんと待ってくれていた。戦闘力が低い私達を護ろうとしているのだろう。この点に関しては素直に感謝だ。

身勝手なちゃらんぽらんな先輩だとずっと思っていたが、今日のルパートを見る限り認識を改めた方が良いのかもしれない。


 私達は探索を再開した。そして八軒目で、ルパートは中を見る前に宣言した。


「気配を消せ。中に誰か居る」


 風の僅かな流れで気配を察知したのだろうか。私達は足音を忍ばせて家の中へ入った。さっきのオークのような獣臭や殺気は感じられない。ルパートは慎重に、しかし迷わず奥の部屋へ向かった。

 奥の部屋にも一見誰も居ないように見えたのだが、


「ギルドの者だ。助けに来た」


 ルパートが声を掛けたすぐ後に壁際、間取りから推測してクローゼットの扉の中からガタンと音が鳴った。ちょっとだけ私は驚いて肩を縮めた。ルパートがクローゼットへ近付き、警戒しながら扉を開けた。


「……あ……」


 クローゼット内には横たわる戦士タイプの男性と、彼に寄り添うように座る魔術師風の女性が居た。




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