第15話家政婦ロボットside


 正直に申しあげましょう。

 わたくし、旦那様を過大評価しておりました。侮っていたと言っても過言ではございません。あれほどエリック様から注意喚起があったと言いますのに。万能型家政婦ロボットとして恥じ入るばかりです。油断していたのかもしれません。侮りがたし、ロイド・マクスタード。


 

 深夜に起こった惨劇をわたくしは忘れる事はできません。


 爆発音が聞こえ、驚いて音のする方に駆け寄るとそこには破壊された電子レンジと床や壁に飛び散った麺や具材がありました。何が起こったのか最初は全く理解ができませんでしたが、惨状からして旦那様が仕出かしたという事は分かりました。

 問いただしたところ、どうやら夜食としてカップ麺を食べようとして起こった悲劇らしいのです。何故、インスタント食品を食べるのに電子レンジが壊れるのですか!?そもそも、なぜレンジを使ったのですか?お湯を入れれば済む事でしょう!!

 お腹が減っていたのならば仰ってください!すぐに用意致しますから!!

 まったく!!



 わたくしはプロの家政婦と自認しております。

 いずれは世界が認める大英帝国が誇るロボットとなる事でしょう。


 ですが……この惨状はなんでしょう?

 新たに購入した電子レンジが再び爆発し、部屋は黒い異物が散乱しているではありませんか!!


≪旦那様、今度は何をなさったのですか?≫


「えーと……俺には何が何だか分からないんだ。カレーを温めようとしただけなんだけど……」


 旦那様は心底不思議そうに仰いますがこれは前回と同じだと確信を持ちました。


≪旦那様、何を温めようとなさったのですか?≫


「レトルトカレーだ」


 そうですか。今度はレトルト食品ですか。


「はぁ~……なんで爆発するのか分からないよ」


 溜息をつきたいのはこちらです。

 爆発原因は間違いなく旦那様でございます。


≪旦那様、きちんと時間を確認なさいましたか?≫


「勿論。ちゃんとよ」


でございます!!≫


 つい叫んでしまいました。

 家政婦として雇い主に対して不快を露わにするなど以ての外。ですがこれを叫ばずにはいられません。何処の世界に一時間と一分を間違える者がおりますでしょうか?

 ああ、ここに一人いらっしゃいましたね。

 前回といい今回といい、旦那様には学習能力が備わっているのでしょうか?

 いい加減にしてくださいませ!!!



 わたくしがカップ麵に続きレトルト食品を没収したのは言うまでもありません。








 


「ミス・マープル、いい加減食品を返してくれないか?頼むよ~~~」


 わたくしの前で手を合わせ懇願される旦那様の姿はなんとも哀れな姿でございます。

 しかし、ここは心を鬼にせねばなりません。

 何故なら、今度ばかりは許すわけにはいかないのですから。


≪駄目ですよ、旦那様≫


 そう申しあげても一向に納得されず諦めて下さいません。

 旦那様のお顔を見ても必死の形相でいらっしゃいます。

 

「頼む!この通りだ!」


 頭を深々と下げられると、思わず良心の痛みを覚えてしまいます。ですがわたくしも仕事です。引き下がる訳にはまいりません。


≪いいえ、ダメでございます。先日も申しましたよね?電子レンジ使用禁止と。それを破った旦那様に非があるのですから諦めてくださいませ≫


 言い終えた後で、じっと見つめると途端に怯えた表情を見せます。

 はあ……仕方がないですね。今回はここまでにしておきましょう。

 わたくしの眼光を前に旦那様は観念したようでございます。本当に手のかかる坊やですこと。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る