第23話 渋谷ダンジョン②

 渋谷ダンジョン、それはなんて冒険心をくすぐる世界なんだろう。

 この階層は、中世ヨーロッパにタイムスリップしたかのような城塞を思わせる不思議な空間になっていた。

 城壁があり城門を潜るとそこはもうヨーロッパの城塞都市。


 かつてここは自衛隊とモンスターでそれこそ攻城戦が繰り広げられた舞台だった。

 自衛隊の主力武装になっている20式小銃ではダンジョンのモンスターにダメージを与えられない。非力な銀玉鉄砲で熊と戦うようなものである。せめてBB弾クラスの銃が欲しいところ、ないなら素手で戦った方がマシなくらいだ。

 そして、先人が多大な犠牲を出して入手した素材で武器が作られるようになると戦況は互角になり、探索者のルーツとなる若者が現れると攻勢に出ることができるようになった。

 だが、未だにこのダンジョンは攻略されていない。


 それがこの渋谷ダンジョンの歴史である。


 先発隊がモンスターを倒してくれているので、僕たちは戦闘をすることなく通路を進んでいた。


 僕の隣を歩くのは穂香。

 相変わらず歩くたびにその胸部装甲は揺れやがる。

 

 背後には穂香のそれを上回る脅威の胸部装甲の持ち主、森口さんが……。

 その隣にも形の良い胸部装甲の持ち主、湊さん。


 前方にはAランク探索者お姉さんたちのプリっとしたお尻……もとい後ろ姿が。

 

 これは行軍するだけでも僕の精神を侵食してくる。




 結局 3層まで戦闘をすることなく行軍することができたが、ついにその時はやってきた。

 木々に擬態したモンスター『トレント』だった。

 

 しかし……僕たちの出番はなく先行するお姉さんたちに倒されてしまった。

 さすがはAランク探索者、しっかり魔力と特殊能力を使いこなしている。

 だけど動きを見た感じ……それほど強い力は感じられない。

 やはりAランクとSランクでは強さの幅が違う。


 森口さんと訓練して思ったことがある。

 魔力の使い方は僕と穂香の方が上手いが、剣術や戦略、特殊能力の使い方に関してはSランクである森口さんの方が一日の長がある。

 そして、それらの遥か先を行くのがルーちゃんなのだ。


 んでもって戦闘になると動画撮影なのか小型ドローンが展開される。

 ダンジョン内ではネット回線が繋がらないので、生配信にはならないけどこの地道な作業が人気のDチューバ―の撮影方法なんだと感心させられる。


  ◇


 階層を下りるたびに少しづつ戦闘の回数が増えてきた。

 これでも先発隊がいるおかげでモンスターの数は少ない方らしい。

 僕も『ポルターガイスト』と呼ばれる動く本や椅子等の家具モンスターを倒した。

 これ……深夜一人で居る時に襲われたら泣くぞ。

 

「ここらで一旦休憩しよう」


 後発隊のリーダーである湊さんの一言で休憩に入ることになった。

 ダンジョンに潜ってからすでに 4時間が経過している。

 現在時点は第5層の小部屋。ここならモンスターにも警戒しやすい。


 本来ならここで水分補給や携帯食を食べたり装備の点検をしたりするとこなのだが、僕たちには秘密兵器たるケモミミ様がいらっしゃるのだ。


「ふっふっふ。さあ、皆の衆崇め奉れ。ルー様の御前であらせられるぞ! 頭が高~い。控えおろう!」


「「はは~」」


 僕の悪ふざけに事情を知る穂香と森口さん、松村さんはノリで平伏した。

 他のメンバーは‟何言ってこいつ”みたいな顔をしているが、次の瞬間考えを改めることとなる。

 

 ルーちゃんの空間収納には今朝、ホテルのシェフに作ってもらった料理の数々が納められているのだ。

 携帯食も美味しいが一流ホテルの食事には敵わない。

 当の本人は、その一流の料理よりもツナ缶の方がお気に入りみたいなのだが……まあいいだろう。

 

 予想外の休憩となった後発隊のメンバーの関心ごとは、料理とルーちゃんの特殊能力から僕たちの関係へと発展していった。


「あのお嬢様と穂香ちゃんとの関係はどうなってるの?」

「さあ、さあ、白状しなさい」


「……穂香は幼馴染で、神楽さんは恋人? かな」


「彼氏はあんなこと言ってますが……穂香ちゃん、そこのところどうなのかな~」


「…………」


 なんでそこで押し黙る? 


「ふふふふ。その反応だけで丸わかりよ。んで、あなたたちどこまで進んだの?」


 ??? どこまでって……ダンジョンの制覇状況かな? 

 そこまで進んでないから僕たちの探索者ランクはDランクなんですけど。


「……お答えできません」


「隠すこたないだろ。僕たちはD(ランク)なんだし。ここに呼ばれたのは特別なんだから隠す意味ないだろ」


「D! ……まさかDとは。HIJKじゃなくてDとは……最近の若い子は」

「穂香ちゃん。こんなとこ来てて大丈夫なの? 今からでも遅くないよ。引き返そうか? ……穂香ちゃん?」


「ち、違います! まだ私たちそんな関係じゃありません!」


「でも、彼氏君はDだって言ってるよ?」


「正宗は……ば、馬鹿だから意味わかってないんですぅぅ!」


「穂香ちゃん……あなたも苦労してんのね」


「じゃあ穂香ちゃんはまだ経験ないってことかな?」


 穂香は真っ赤な顔をして頷いた。

 僕がなんかディスられている気がするのは気のせいだろうか。


「だそうよ。美耶華」


「ちょっ! なんでそこで私に振るのよ」


「だってね~」「「ね~」」


「そういうお前らはどうなんだよ。萬代! あの俳優〇〇とはどうなった? 真樹もメジャーリーガーの〇〇〇とはどうなった? 答えろ!」


「………さあ、皆さんおしゃべりはここまでにして先に進みましょう!」


「こらっ萬代! 逃げるなぁぁぁぁ!」


 藪蛇となった湊さんたちは形勢不利とみて逃げ出した。

 それにしても……あのスキャンダルはホントだったんだ……有名人の暴露話はちょっとショックだな。それにしても穂香も森口さんもなんでDランク如きの話で慌ててるんだろう? 他に意味があるのだろうか? もう意味わからん。

 


  ◇


 行軍を再開して 4層に進みしばらくすると先発隊に追いついてしまった。

 先発隊は戦闘を多数こなしながら進むので仕方がないのだが、それにしても歩みが遅い。僕たち 3人はダンジョンに入ってから僅かな戦闘しかしていない。

 歩き疲れた訳でもないし、先発隊の休憩がてら僕たち 3人が先頭集団を買って出ることにした。

 

 コネだけで参加した若者だと馬鹿にされるかと思ったけれど、意見はあっさりと承認された。

 地図データはもらっているし問題ない。なんたってこの刀を思いっきり振って暴れたい。そんな思惑が僕にはあった。


「見せてもらおうか新しい刀の切れ味を……」なんてね。




 そっからは僕たちの快進撃が進んだ。

 庭園や建物内を縦横無尽に駆け巡る僕たち 3人。

 最初は様子見をしていた先輩探索者も僕たちの実力に圧倒されていた。


 猪型モンスターや熊型モンスターも一刀両断する僕たち。

 そして、次の獲物目掛けて突撃する。

 本来の先発隊は、僕たちの倒したモンスターの素材をただ拾う係と化していた(笑)


 調子に乗った僕たちは、4層から10層まで僅か5時間で到達してしまった。

 これは新記録らしいが僕たちにとってはいつものペースだし何も問題なし。


 そして、10層も山場を迎えることになった。

 目の前には、豪華な両開きの大扉がある。


「城内を抜け、いよいよ謁見の間だよ。王様とご対面だ!」


「もう、正宗。ふざけないで! この階層のボスはダンゴムシよ。ダンゴムシ!」


「……ほのかぁ。そんな身も蓋もないこと言わないで……悲しくなるから」


「ほら、さっさと行くわよ。今日はこれで終わりにするんだから」


「へいへい」


 大扉を開けて部屋の中へと入る。

 そこは、やはり大広間謁見の間となっており階層主王様が存在していた。


「10層の階層主『アーマードバグ』よ。回転攻撃に気をつけて!」


 現れたのは……巨大なダンゴムシだった。

 わかってたけど……わかってたけど……僕のワクワクを返してくれ!

 ちくしょうぉぉぉぉぉぉ!!

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