第16話 新・探索者②
次の日の朝。
我が家にやってきたのはお馴染みの白いリムジン。そしてもう一台、黒いワンボックスカー。
そのワンボックスカーから出てきた桜ノ浦家の使用人さんたちによって、我が家は占拠された。
「正宗様おはようございます」
「おはよう。神楽さん、この方々はいったい?」
何事もなく話す神楽さん。昨日は清楚なお嬢様によって大変恐ろしい経験をさせられました……ありがとうございます。
「正宗様はお気になさらず。本日の主役はルー様ですので」
「ああ、なるほど」
本日、ルーちゃんに日本国籍と探索者資格を与えるセレモニーが行われる。
その存在は公にできないが、実益だけは得ようとする汚い大人たち……もとい、日本政府主催の式典が学校でひっそりと行われる予定なのだ。
「ご主人様見てみて~! ホノカやカグラとお揃いなのだ」
リビングに現れたのは学校指定の制服に着替えたルーちゃん。
穂香たちと同じ制服なのだが……美しい銀髪とその頭頂部にちょこんと乗った三角形の耳、ミステリアスなエメラルドグリーンの瞳、そして短いスカートからフサフサした尻尾が出ている。
「か、かわいい!」
僕の素直な意見だった。
ルーちゃんのそれはもう、尊いお姿としか言いようがない。
マニア必見! ケモミミ美少女の制服姿である。
「ぼくかわいい?」
「ああっ…‥って、ルーちゃんスカート! スカートめくれてるよ!」
僕に褒められて嬉しいのか、その尻尾が左右に振られたことにより、ただでさえ短いスカートがめくれあがってしまっている。
そして、見てはいけないものがチラチラと。
「これはさすがに不味いですわね。九条すぐに対策を施しなさい」
「かしこまりました。さあ、ルー様こちらへ」
さすがにパンチラ状態で学校に行く訳もなく、その対策が施されるようだった。
九条さんと呼ばれたのは桜ノ浦家に仕える20代の女中さん。
先日お屋敷に招かれたときにも顔を合わせている。彼女が神楽さんの身の回りの世話をしているのだろうと推測できる。
その九条さんにルーちゃんが連れていかれてそれなりの時間が過ぎたとき、再びリビングの扉が開かれた。
そこには嬉しそうに尻尾を振るルーちゃんの姿が。
スカートは……おおっ! めくれていない。
どうやら尻尾を通す専用の穴が急遽追加されたようだ。
これはこれでかわいいのだけれど、尻尾のせいでめくれたスカートが脳裏から離れません。これはどうすればいいのでしょうか?
とりあえず脳内フォルダへ保存しておこう。
◇
学長室で待つこと数刻、ついにそのときがやってきた。
なんか偉そうな国務大臣とその官僚たち。
こんな地方都市の学校にそんな人たちくるの? って感じだが実際に来ている。
暇なの? こんな田舎に来るくらいならもっと仕事しろと言いたい。
大所帯で来るだけでも経費が掛かるだろうに、国民の大事な税金を使っていいのかと言いたくなる。
そんな中に異色の方々が混ざっていた。
堅苦しいおっさんの中に混じった二輪の花。
一人は、セミロングのベージュの髪にブルーのインナーカラー、スーツの胸元を大胆に開いて着崩し、黒のスキニーと黒のパンプスでスタイリッシュに決めている。
なんともエロカッコイイお姉さんである。
もう一人は、フォーマルスーツにウエーブの掛かったブラウン系の髪。シンプルな装いからもわかるように落ち着いた大人っぽい女性だ。
おっさんの名前は知らないけど、このお姉さんは僕でも知っている。
世界で初めてダンジョン攻略を成し遂げた 6人の日本人女性。
英雄と呼ばれている超有名人で探索者で、彼女らのことを知らない学生はこの探索者養成学校にはいないだろう。
エロカッコイイお姉さんが、
落ち着いた雰囲気のお姉さんが、
すげー! 本物の『みやりん』と『まつゆり』だ。
後で握手してくんねーかな……おっと、みやりんがこっち見た。
やべえ、生みやりんと目が合ってしまった。
ええっ!? あ、あのえりみんが微笑んでくれた?
まさか僕の顔が変だから笑われたとか? 寝癖がついてるとかじゃないよね?
いや、きっと営業スマイルだ! 芸能人としても活躍する彼女ら。
芸能人としての表向きの笑顔、その裏に隠された素顔があるはずだ。
本心ではどうせ、キモイ高校生ごときがこっち見てくんじゃねえぞ、と思っているに違いない。
ええ、わかってますよ。どうせ僕は冴えない陰キャのボッチ野郎ですよ。
「―――であるからして、君たちには8月に行われる予定の大規模ダンジョン攻略作戦に参加してもらいたい」
んん? 話聞いてなかったが気になるワードが出てきたな。
まあいいや。後で穂香に聞こう。
ルーちゃんも興味がないのか大きな欠伸をしている。
きっと穂香が要点だけまとめてくれるだろう。
「ふぁああぁぁぁ! ようやく終わった」
どうでもいいおっさんの長い話が終わって解放された。
「正宗、あんた全然話聞いてなかったでしょう」
「YES!」
「威張って言うな! この馬鹿正宗」
そう言われてもねぇ……おっさんの話、長いし詰まらんし。
簡易的な式典が終わると、集まった野次馬に囲まれた。
僕の隣に立つケモミミ少女の可愛らしさと強さは以前より噂になっていた。
その彼女がついに学校に現れたのだ。しかも制服を着てだ。
歓声が巻き起こる。
男子生徒はもちろん、女生徒もケモミミ少女の愛くるしい姿にあてられた。
探索者として国籍を得たルーちゃんは、これで堂々と過ごすことができる。
その実力は英雄を凌ぐとさえ言われている。
彼女の探索者ランクは、とりあえずAランク。
これは実力、実績ともに不明な謎の異国の戦士であり、いきなりSランクはどうかという声が上がったため暫定Aランクとなったらしい。まあ、6英雄に対する配慮もあるだろうが……。
ちなみに僕と穂香はDランク。神楽さんはEランクである。
よれより、向こうが騒がしいな。
騒ぎの原因はすぐにわかった。
二人の人物が僕たちに近づいてきたからだった。
その人物の登場で、野次馬やちが左右に分れ道を開いた。
「ふふっ、先ほどぶりですね。どうも、松村 友梨奈です」
「森口 実耶華 です。みやりんって呼んでね」
二人の英雄は、野次馬をも魅了する笑顔で僕たちに向かって話しかけてきた。
「さっきのお姉さんだね。ぼくはルー・ラウリア。ルーって呼んで」
「仙道 正宗です」
「岩村 穂香です。よろしくお願いします」
「ええ、あなたたちの噂は聞いてるわ。ここではなんだから……ちょっといいかしら? お話があるの」
マジですか? 生まつゆりと生みやりんが僕たちに話ですと?
それとも僕だけお呼びじゃないとか? 用があるのはルーちゃんと穂香で、キモイ僕は除け者とかじゃないよね?
「正宗君。さあ案内してくれる?」
不安がる僕の腕に回される柔らかい感触。
えええええぇぇぇぇぇっ!?
生みやりんが腕を組んできたんですけど? これはどんな罠ですか? 後で高額な金額請求されたり、怖いお兄さんが出てきたりしないですよね?
野次馬や穂香のヘイトが怖いのですが……気のせいですよね?
――って……神楽さん? 対抗するように反対側から腕組んでこないで!
ああっ……また呪詛が聞こえてきた。
どうやら僕は呪い殺されそうです。
やってきたのは修練場。
そして、式典のスーツのまま木刀を構えるみやりん。
「さあ、噂の君たちの実力見せてもらおうか!」
ですよね~。
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