第三十話

 伊留美いるみの言葉には、説得力せっとくりょくがあった。さすがは、『スコーピオン』の国内ランキングの一位の言葉だった。だから明日からこのゲームで使われている『アーツ』とよく似ている、『スコーピオン』で特訓するという伊留美の提案ていあんに俺たちは賛成さんせいした。


 俺はもう、大学にもバイトにも行かないで『スコーピオン』で特訓していたが、彩華あやかさんと景和けいわはまだ大学や会社に行っていた。だがもう二人とも、大学にも会社にも行かないで、『スコーピオン』で特訓することにした。もちろん大学や会社よりも、命が大事だからだ。


 今までは、何とかゲームをクリアーしてきた。だが今回の第三回戦で、ボスキャラはショットガンという強力な武器を使ってきた。それは俺たちにとって、脅威きょういだった。あんな強力な武器をこれからプレイヤーが使えるようになると、もはや今まで通りにはいかない。『スコーピオン』で特訓してレベルを上げて、このゲームに生き残らなければならない。


 しかも俺たちには、いや予感よかんがあった。次の第四回戦ではボスキャラは、どんな武器を使ってくるんだろうと。それはショットガンよりも強力な武器であろうことは、簡単に想像できた。だから彩華さんと景和は大学や会社に行くのを止めて、『スコーピオン』で特訓することにした。


 特訓は、次の日の月曜日から始まった。伊留美の特訓は、スパルタだった。まず俺たち四人と伊留美の知り合いの合計五人が、『スコーピオン』にログインする。そしてゲームが始まるが、戦うのは一人ずつだった。


 『スコーピオン』の国内ランキングの一位の伊留美がいれば、ゲームで簡単に勝てるだろう。でもそれでは、特訓にならない。一人で敵キャラ五人と戦わないと、特訓にはならないと伊留美は説明した。


 しかも武器は、一番弱いピストルを使うように指示しじされた。射程距離しゃていきょりが短く、威力いりょくも弱い。でも、それでも五人の敵キャラと戦わなければ特訓にならないそうだ。


 そして、俺が最初に戦うことになった。ハッキリ言って、きつかった。武器がピストルだから、敵キャラに近づかないと攻撃できない。しかも威力も弱いため、何度も攻撃しなければならない。そうしていると、他の敵キャラも攻撃してくる。その敵キャラに反撃はんげきしてけん制しつつ、一人ずつ攻撃してたおしていこうとする。


 だが他の敵キャラも、攻撃してくる。そしてとうとう、五人の敵キャラと戦わなければならなくなった。俺はつい、弱音よわねいた。

「助けてくれよ、伊留美! これじゃあ、勝てねえよー!」


 だが伊留美は、キッパリと言い放った。

「こんなことで弱音を吐くな! 誰のための特訓だ?! お前自身のための、特訓だろう?! この『スコーピオン』では、いくら負けても殺されない。でも『アーツ』で負ければ、殺される。それでもいいのか?!」


 それを聞いて、俺は自分のあまさが嫌になった。そうだ、俺は今、命がかかったデスゲームに参加している。しかももう、ライフは二つしか残っていない。ちょっと集中攻撃されたら、あっけなく無くなるだろう。嫌だ、死にたくない。俺にはまだ、やりたいことがたくさんある。そのためには、生き残らなければならない。そのためにはこの『スコーピオン』で特訓して、もっと強くならなければならない。俺は、気合を入れなおした。よし、やるぞ!


 俺はまず、敵キャラの武器を観察かんさつした。マシンガンを持っているのが三人、ライフルを持っているのが二人だった。マシンガンは連射れんしゃは出来るが、射程距離は短い。ライフルは連射は出来ないが、射程距離は長い。射程距離が長い、ライフルの方がやっかいか……。一般的にゲームでは、やっかいな敵から倒すのが必勝法だ。だが今は、五人の敵キャラを相手にする方がやっかいだと判断した。


 つまり、一人ずつ倒した方が良いと判断した。建物のかげかくれていれば、そう簡単には攻撃は当たらない。たとえ武器がライフルでも。だから俺は、建物の陰に隠れながら一番近くにいる敵キャラに攻撃した。するとその敵キャラは、反撃してきた。


 俺はその、反撃してくる敵キャラから倒すことにした。建物の陰から出て、ピストルで数発攻撃をして相手を挑発ちょうはつする。そして、建物の陰に隠れる。すると、敵キャラが反撃してくる。しかし建物の陰で、攻撃をやりすごす。敵キャラの攻撃が止んだら建物の陰から出て、攻撃する。


 すると敵キャラも、建物の陰に隠れる。そして俺は覚悟を決めて、数発攻撃して止めた。すると敵キャラは攻撃が止んだと思って、建物の陰から出てくる。俺はそのチャンスを逃さずに、攻撃した。


 攻撃をしている途中で止めると、敵キャラは攻撃が止んだと思って建物の陰から出てくる。俺はそこを攻撃した。建物の陰から敵キャラおびき出すために攻撃を止めるのは危険だが、俺はこの方法にかけた。


 こうしてマシンガンを持った敵キャラを、一人倒した。すると少し、安心した。やはり一人で五人の敵キャラを相手にするのは、キツイからだ。敵キャラが一人減っただけで、心に余裕よゆうが出来た。そして俺はこの方法で、残り二人のマシンガンを持った敵キャラも倒した。

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