26.山賊団のうわさ

「おーい。戻ったぞー」

「ネレイド、アルバド、いるかー?」


 ネレイドの兄二人、ザクレスとアッゼンが帰ってきた。


「あ、おかえりー。兄ちゃんたち、どうだった? 街には行けた?」


 ネレイドがそう言うと。アッゼンが背に背負った米俵を見せた。


「この通りに。街には行けたよ。ただなぁ、厄介なうわさがあってな」

「厄介なうわさ? 何ですか?」


 アッゼンの言いぶりに、俺は思わず聞いた。


「どうやら、街に山賊が時々襲ってきているらしいんだ。その自衛に必死で、交換屋がこちらに来る余裕がなかったらしい」

「魔帝陛下の御世は、弱肉強食だからなぁ……。食いつめ者が山賊になるなんて、珍しい事じゃない」


 ザクレスも背中から食料を降ろしながら言う。


 魔帝? なんだろう。初めて聞く言葉だ。


「ザクレスさん、魔帝って? この国の帝ですか?」


 俺のその声に、ネレイド、ザクレス、アッゼンがこちらを向いた。


「陛下だ。魔帝陛下。陛下を付けろ。ヘタな口をきくと、遠隔即死魔法がぶっ飛んでくるぞ。気をつけとけ」


 三人とも。なんだかすごく怖い顔をしていた。いや。


 怖がっている顔、と言ったほうが正しいかな。


   * * *


 三人の話を聞くと。やはり魔大陸にも位階というものがあって。一般魔人の上に村長もしくは町長がいて、その上に郡長、更に行くと県長。そして、それらを取り仕切る魔宰相がいて、最上位に魔帝という存在がいるらしい。

 一般に帝国大陸と言われる俺の出身地の大陸とは別の大陸でも。皇帝に値するものはいるらしい。


「街では、山賊狩りの人員を付近の村落から募集しているらしいが……。このまま、交換屋が来ないと、俺たちも不便だ。参加することにしようと思う。ネレイド、アルバド。お前たちは、ここで留守番だ。なに、そんなに名のある山賊団じゃないらしい。片が付くよ、すぐに」


   * * *


 ざぷん、ざぷん、と。岩礁に波が打ち寄せる。


 ザクレスたちが、漁村を後にしてから。


 もう三か月にもなる。


「……もう、帰ってこないかも」


 元気なく、しししっ、と笑うネレイドは泣いていた。

 もう戻ってこない。そう思って当然かもしれない。何しろ、兵役や遠征ではなく、近隣の街で。

 山賊団と戦うために出かけた男たちが、三か月も戻ってこないのだから。


「……ネレイド。確かめに行かないか?」


 おれは、海獣を仕留めるときに使う銛を手入れしながらそう言った。


「……いく」

「うん。街まで行こう。そしたら、何かわかるはずだから」

「……じっとしてると、気が滅入ってきてたまらない。アルバド、街まで行こう」

「食料は、まだあるよ。背負い袋に入れよう」

「うん」

「ネレイド。守るから、安心して」

「うん」


 ここ三か月の間で、俺は銛の使い方がだいぶうまくなった。人は殺したくないけど、自分たちを、いや。

 ネレイドを守るためなら、俺はどんな奴でもぶっ殺す覚悟が出来ていた。


 銛を振り回し、構え。投げる。

 遠くの木柱に、狙い過たずに銛は。


 刺さった。

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